第6話

「…なんなの。」


自分のデスクに戻っても、謎の動機は消えない。


静まり返ったオフィスにポツリと消えていった独り言。



…でも、なんていうか私も結構失礼、だったかな。



私を見る五十嵐君の瞳がやけに真剣で、どうして良いかわからず咄嗟にごめんなさいなんて言ってしまった。


直前連絡先を聞かれるなんて一体いつぶりかな。



3年も恋愛をしていないせいで異性との関わり方もわからなくなってしまったみたい。



「はぁ…。」


年上らしくもっと余裕ぶりたかった。


見栄だとしてもあんな若い男の子にあんな姿見せたくなかった…



「ため息が聞こえたと持ったら、葵か。」


突然の背後からの声に、驚いて肩を大きく揺らしてしまった。



「あ、悪い。会社なのに下の名前で呼んで。」


振り返ると、ばつの悪そうな顔をした藤宮さんがいた。


「お疲れ様です!」


藤宮真人さん。


私の直属の上司でもあり、大学時代の先輩。


同じサークルだったこともあり、たまにこうして当時の呼び名で呼んでくれることもある。



慌てて椅子から立ち上がった私に、


「そういうの良いから。」


優しく笑って、座りなよ、とでも言うように私の肩に手を乗せた。

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