第5話

「あの…??」



あまりに意味のわからない展開。


初めましての後輩からのこんな言動、今まで経験するはずも無く、戸惑いを隠せないでいる。



「七瀬さん、ですよね?」


その子は首から下げた社員証に一度視線を移して、


「経営企画部の。」


さっき来た道、経営企画部の部署を指さした。



「そうですけど…って、あの!」


表情を崩さないその子に流されてしまっていることにようやく気がついたところで、



「ジュース!私ミルクティー飲めないんで。」


甘いものは苦手。


飲んだ後もずっと口の中にも胸にも胃にも残るあの感覚がどうも苦手なんだ。



「じゃあ代わりに何か買わせて頂きますね。」


「へ?や、あの、良いです!ミルクティーで良いですから!」


自分でもちぐはぐな事を言ってる自覚はあった。


けれど、この場からすぐ離れたくってとりあえず話を無理やり切る手段として、そのミルクティーを受け取る。


そしてそのまま一度軽く頭を下げて速足でその場を去ろうとしたのだけれど、



「営業一課の五十嵐世那です。」


腕を軽く掴まれ、



「連絡先教えて頂けませんか。」


直球で伝えられた一言。



真剣な瞳に吸い込まれそうで、目を逸らせなくて、わけもわからず、



「ごめんなさい!」


気づけばそんな返事を返して、逃げるようにその場を後にした。

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