第3話
小さくはないうちの会社。
同じ会社内だからと言って、異動したばかりの私はいまだに同じフロアの社員の顔と名前は一致していない。
元々経理部にいた頃に他部署の社員との関わりはあったけれど、まるで別世界のここは、1ヶ月経っても慣れることはない。
というか、自分の仕事に精一杯でそんな余裕もないのかも。
ガラス張りの窓からチラっと見てみるも、やっぱり誰かなんてわからなかった。
ましてや後ろ姿。
そのまま、営業部を素通りしたところで今度は自販機と睨めっこ。
薄暗い廊下に、やけに自販機の明かりが眩しく感じた。
「…何にしようかな?」
小さく独り言を言いながら、私は小銭を一枚ずつコイン穴へ落としていく。
まぁ、コーヒーはブラックしか飲めないからいつも一択なんだけど。
でも目を覚ますには意外と炭酸もあり?
…なんて、真剣に綺麗に整列されたジュースと何度も何度もにらめっこ。
「ピッ…」
機械的な音と共に、ガシャンと缶ジュースが落ちる音がした。
え…?
私、まだ押してない…んだけど…
行き場の無くなった人差し指から力が抜けたと同時に、
「悩みすぎですよ?」
背後から、突然の声。
振り向いたすぐ目の前には、1人の男性の笑顔。
「キャッ!」
驚きのあまり小さく声を上げてしまったのと同時に、仰け反った体はバランスを崩したのか、無抵抗に重力に誘われる。
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