第39話
席へ戻った俺に、
「健気だねぇ。」
なにやらニヤニヤした顔で俺の肩に腕を預ける悟に、
「何がだよ。」
わざとらしく肩を揺らしてその腕を振り払う。
そんな俺に小さく笑って、
「ん。」
指差したのはカウンターに置いたままの俺のスマホ。
「きてるぞ。」
意味は瞬時にわかった。
…見んなよ。
一度、悟を睨みつけると俺はそのままそのスマホを手に取り、千沙からのLINEを確認する。
”わかりました。
冷蔵庫に入れておきますね。
帰り道、お気をつけて。
おやすみなさい。”
さっきの返事か。
千沙とは頻繁にやり取りをしているわけではないが、それでも毎回こんな感じ。
絵文字も顔文字もなく、業務メールかよと思うくらいの丁寧な文章だ。
何個も絵文字をつけたり、スタンプを乱用したりする女とは正反対。
それがなんとなく新鮮だったりもするのだけれど。
「帰り道、お気をつけて。だってさー。」
横から茶々を入れる悟に、
「だから見んなよ。」
軽く睨みを効かせるも、まるで意味はない。
「画像が自撮りの写真じゃないってのが良いよね。純粋そう。」
顔が見れないのは残念だけど。
と少しつまらなさそうにしたが、人のLINEのアイコンでここまで話を広げようとする悟はさすがとしか言いようがない。
「まぁ、でも…何て言うか面白くなってきた。」
悟の言葉も軽く聞き流し、明日も仕事ということもあり、その日はそのまま解散した。
車は持っているが、大抵は電車通勤。
まだまだ混み合っているホームを抜けて、電車に乗り込む。
別に何かあるわけではないのに、家に帰るのが楽しみ…といえば少し大げさだけど、それに近い物があることも嘘でない。
自分の家に関しては人の気配が嫌いなのに、それとは少し違う千沙の雰囲気が、居心地が良いと思い始めているのも嘘ではない。
だからどうしたって話だけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます