第30話

「なるべく急いで作りますね、なんなら先にシャワー浴びてきても…」



家に着いて早々、私はエプロンをして髪を簡単にまとめると冷蔵庫から材料を取り出す。



「悪い、じゃあ先にシャワー借りるよ。」



そう言って、自分の部屋へと入ろうとした九条さんに、



「九条さん、嫌いな物ありますか…?」


咄嗟に出た言葉。


危ない危ない、大事なこと聞き忘れる所だった。



「あー、ご飯は何でも大丈夫。苦手なのはケーキとか甘いもんだから。」


少しだけ、眉を垂れ下げたその表情が本当に苦手なんだと物語る。


私の返事に頷いて、そのまま開きかけた扉の向こうへ消えた九条さんを目で追うと、ふぅ…と一息。



「よし。」


父以外にご飯を作るのは初めてだ。


味付けは完全に我が家のものになるし、少し不安…


浴室に移動した九条さんが上がって来る頃に出来上がるように…


ある程度の目処をつけて私は料理に取り掛かった。



でも、昨日の今日でこんなに気持ちが変わるのかって自分でもすごく不思議だ。



もっと冷たくて若干横暴なんじゃないかな?って思っていたのだけれど、案外優しくて私の気持ち、考えてくれてたんだなって…



昨日感じた絶望にも近い気持ちから一転、少しだけ安心した。




やっぱり大人は大人なんだなぁ…

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