第20話
「色々ともう少し危機感持った方が良い。」
小さく息を吐いたかと思うと、抱きかかえたままの私の体勢を元に戻してそのまま
「女の子だろ。」
頭をポンポンと優しく撫でてくれた。
父以外の男性からは決して慣れないその仕草に、私は思わず固まる。
「素直にお金受け取ってよ。」
スーツのポケットから財布を取り出して、中を開こうとした九条さんの手を咄嗟に掴んだ。
「…私にとって家は帰る場所なんです。」
昔からそう。
父と2人。
寂しい思いをしていないと言えば嘘になる。
学校から帰っても誰かが家で待ってるわけではない。
「リビングは人が集まる所だと私は思っていて…家族がここにいるわけじゃないけれど、それでもやっぱり…」
まだ母がいた時も、父と2人になってからもリビングで過ごす時間は大好きだった。
家族の貴重なコミュニケーションの時間と場所。
どんなに忙しい父でも、家にいる時のほとんどをリビングで過ごしてくれた。
つまり、私にとってリビングはホッとする場所。
「押し付けるつもりはありません。…ただ家に帰った時、何もないリビングを通って部屋に行くのはあまりにも寂しくて…」
父がいるわけでもないこの家でそんなことを言うのはおかしいともわかっているけれど…
「ごめんなさい。…だから良いんです。私が勝手にしたことだから。」
私の話を黙って聞いていた九条さんは、開きかけた財布を一度閉じると、
「茅野さん、学校いつから?」
まったく関係のない話を持ち出す。
わけがわからないまま、
「明後日ですけど…」
素直に答える私。
……???
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