第19話

「何で怒ってんの?」



「怒ってません。」



「いや、怒ってるでしょ。」



怒ってるつもりはなかったのに、昨日の出来事を思い出して少しだけ悲しくなってしまった。



「リビングは何にもしないって言ったのは九条さんじゃないですか。」


嫌味のつもりでは無かった。


でも何となく言い方がスネたような、そんな風になってしまって…




「何もしないとは言ってないだろ。それにそれとこれは話が別。」



再びため息を吐いた様子からすると、やっぱり面倒くさいと思っているのかもしれない。



私だってこんなこと言うつもりじゃなかったのに…



「茅野さんさぁ…なんでそんなにリビングにこだわる?赤の他人の俺と住むことに抵抗あるなら尚更、リビングなんて興味ないだろ?」



イスに乗った状態で目線はほぼ一緒。


私を見つめるその瞳に、何て答えたら良いかわからず…



「私は…」



視線を逸らしてしまった。



しかしその反動なのか、同時に椅子がグラついて…



「…きゃ!」



足を踏み外してしまった。



やばい、落ちる!!






恐怖から思わず目を瞑ってしまった私が感じたのは、フローリングの固さではなく、何故かあたたかい温もり。






「…っぶね。」



九条さんが私を抱きとめてくれていた。




「落ちるのに目瞑るなよ。」


危ないだろ。



私を抱えたまま、焦った顔でこちらを見つめる九条さんの顔との距離が余りに近くて、



「すみません…」



また、咄嗟に視線を逸らしてしまう。



何より私を支える腕が力強くて、密着したままの体が男らしいと言うかなんと言うのか…



とにかく、急に体温が上昇しているのが自分でもわかるくらい、ものすごくドキドキしているみたい。

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