第6話

「茅野千紗です。よろしくお願いします!」


ドアが開くと同時に深いお辞儀をした。


第一印象は大切。



緊張で少しばかり声が上ずったような気もするけれど、それはこの際どうでも良い。



しかし、自分のつま先を見つめたまま、そんなことを考えている私の頭の上から聞こえたのは、



「…は?」



想像していたよりも遥かに低い声。


そしてなんだろう、このあまりに印象の良くない声のトーンは…


下げたままの頭をゆっくりと上げてみるとそこには、




「え…?」






「「どちら様ですか?」」





どこからどう見ても、”男性”が一人立っていた。






…え


何?


誰?



なんで…


だってこんなの知らない…




「茅野満さんじゃなくて?」



「茅野満は私の父ですが…」



この状況は一体…



「あの、ルームシェアの方ですか…?」


念のため、確認の意味も込めて尋ねてみる。



だけど、明らかに不機嫌そうな表情をしたその人は、わざとらしく大きなため息をついた後、



「茅野満さんっていう若い男性って聞いてたんだけど。」



手にしていた大きなボストンバックを、音を立てて床に置くと、もう一方の手で引いてきたであろうスーツケースに腰をかけながら片方の手でぐしゃぐしゃと自分の髪の毛を掻き乱した。


その態度と表情は、今日が初めましめの私から見てもわかるくらいに不機嫌そのもの。



…はい?



「私だって女の人って聞いて契約したんですけど…」


パスタの存在なんかとっくに忘れて、目の前でこの男を睨み付ける。



「てか、何歳なの?大学生?」



「17歳。高校生です。」



「は?嘘だろ。…まじかよ。ただのガキ、子供じゃん。」


ただの、ガキ…?


子供じゃん…?




はいーーー????

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