第5話 岩山を登る
ゴウはゴタール川で順調にスライムを倒し、レベルアップを繰り返していたが、リンという思わぬ横やりが入り、マリアにゴタール川の禁止区域でのレベル上げを止められてしまった。しかし、ゴウはくじけることなく、より効率的な方法でレベルを上げるため、新たな行動を起こす決意を固めた。
「ふうっ、やっと中腹に到達したってところか?」
ゴウは今、険しい岩山を登っている。ここに辿り着くまで、彼は幾度となく落下し、『死に戻り』を繰り返した。目指す先には、ゲームの裏ボス『家出魔人』が待ち受けている。そして、この裏ボスを倒すためなら、ゴウはどんな困難も乗り越えられる。
「ゲームと違って、実際に体を動かすのはこんなにも疲れるのか……」
ゴウは思わずつぶやいた。かつてのゲーム内では、何も感じなかったこの動きが、今や肉体的な重圧となってゴウに襲いかかっている。しかし、彼の中に芽生えた希望は消えることなく、むしろ強くなっていた。ゴウが目指しているのは、ただのレベルアップではない。この『クイント戦記』の世界で何か新しい可能性を開くために、彼は自分の力を試しているのだ。
「さあ、ついに頂上が見えて来たぞ!」
その先には、隠れ家が待っている。『家出魔人』の拠点がある場所であり、そしてその魔人を倒せば、確定でプラス1のレベルアップが得られるうえ、膨大な経験値も手に入る。
「あの『家出魔人』とまともに戦えば勝ち目は薄い。でも、あの弱点を突けば、序盤でも倒せるはず。でも、まずはその『家出魔人』に出会わなきゃ、戦うことさえできない」
ゴウの住む『赤と白の街クレーヴ』が舞台となる、90年代のSRPG『クイント戦記』。その裏ボス、『家出魔人』の隠れ家が、この岩山に存在する。しかし、その隠れ家への道は、ゲームのエンディング後、二周目の開始時点まで透明な壁に封じられている。これはゲームクリア後の特典であり、ゲーム内では当然のことだった。もし今、この透明な壁が存在すれば、ゴウはまだ一周目にいることになる。しかし、もしその壁が消えていれば、ゴウはすでに二周目に突入しているとわかるのだ。この違いが、彼の戦略を大きく左右する。
「他のゲーム要素も絡んでいるから、周回とは関係なく隠れ家にたどり着ける可能性もあるんだよな」
ゴタール川でのミニスライム狩りは、80年代後半のARPG『ダルサーガ』を彷彿とさせた。もちろん、これは『クイント戦記』にはない。そのあたりが『色々なゲームが混じっているのでは?』と感じる所以で、個別のゲームのシナリオやギミックと違う新しい動きを見れるかもしれないと期待する部分でもある。
「まあ、シナリオ自体はレベルアップのおまけみたいなものだから、どうでもいいけど、強い敵が出るなら歓迎だな」
ゴウが、そんなことを考えながら岩山を登っていくと、やっと平らで開けた岩山の頂上に出た。息を切らしながらついにゴウは岩山の頂上に辿り着いた。目の前には、火口のような穴が見える。そこが、彼の探し求めていた『家出魔人』の隠れ家へと続く洞窟の入り口だ。ゴウはその洞窟に近づき、慎重に手を伸ばして透明な壁があるかどうかを確かめた。
「どうだ?」
ゴウの指先は入り口をすんなりと通過する。思わずガッツポーズを決めるゴウ。
「よし、壁はない! 二周目に突入している証拠だ!」
その瞬間、彼の中でレベルアップの戦略が決まった。
「さて、次は『教団のメイス』だな。あれを手に入れれば、あの裏ボスに挑むための準備は整う」
『教団のメイス』は、ゲーム内で『最弱の武器』として知られている。しかし、ゴウにはその武器を使いこなすための戦略があった。あの武器を使うためには、《習熟度》を上げる必要がある。そして、その習熟度を上げることで、武器特有の強力な効果を引き出せるのだ。これが、裏ボス戦において重要なカギとなる。
ゴウは、再び登ってきた岩山を下り、街へと足を運んだ。まだ疲れは残っていたが、心の中には確かな手応えがあった。ゲームのように順調に進むわけではなく現実は厳しい。しかし、その困難を乗り越えた先に、真の成長が待っていることをゴウは知っていた。
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