俺の嫁さん

Ikki

第1話 おばあちゃん現る

山の上にある学校に通う男子高校生が居た、即ち、俺の事だ、何処にでもいる普通の容姿の普通の高校生、吉野 昌平だ、俺は、山の中腹にある公園を通って帰るのが日課だった、崖沿いにあるベンチから観る夕焼けが綺麗だったからだ、だが、今日は、先約がある様だ、いつも誰も居ないベンチにおばあちゃんが座って居るのが遠目から見て分かる、七十代後半だろうか、今日の所は、しょうがない、俺のベストプレイスを譲ってやろう、お年寄りを敬うのは、社会の義務だからな!と思いつつ俺は、その場を去ろうとした時だった。 

「しょうへいさん?」

 自分の名前を呼ばれた俺は、知り合いかと思い恐る恐るおばあちゃんの顔を確認したが全く知らないおばあちゃんだった。そして、おばあちゃんは、満面の笑みで俺に微笑み掛けた。

「また会えましたね…」

「おばあちゃん…俺と会った事ある?」

 おばあちゃんは、深く頷きこう言った。

「六十年前に…淳子ですよ?しょうへいさん忘れてしまったんですか?お互いもういい歳なんですからボケには、気をつけないとですよ…」

 どうやら、おばあちゃんは、旦那さんと俺を間違えているみたいだ、それに言っちゃ悪いけど少しボケちゃっていると思う。

「旦那さん…しょうへいさんは、何処に行ったの?トイレでも行ってるの?」

「何言ってるんですか…しょうへいさんは、貴方じゃないですか…そんな事より夕日が綺麗ですよ?」

 どうしよう…話しが通じない…心配だしな…俺は、旦那さんが戻るまでの間おばあちゃんの相手をする事にした。

「しょうへいさん…覚えていますか?初対面でいきなり俺の嫁になってくれ‼︎ってどれだけ私がタイプだったのかしらね…ふふ…」

 やるなしょうへいさんいきなり嫁とかどんなにタイプでも俺には、言えねぇな…

「最初は、頭のおかしい人だと思っていたけれど…毎日引くぐらいアプローチ掛けて来るんですもの…その内しょうへいさんの熱意に根負けして…しょうへいさんは、いつも強引なんですから…」

「あの時もそうでしたね…」

 あっあれ?これ…回想入る感じ?


「私は、身体が弱くてね…よく身体を壊しては、しょうへいさんに看病してもらいましたっけ…」

 おばあちゃんは、細かく説明してくれた、高校生の頃、安アパートに住み母親と二人暮らしをしていた事、病弱なおばあちゃんの為に母親は、必死に働き、生計を立てていたのだと言う…そして、ある日学校を休んだおばあちゃんは、自分の部屋で寝ていたらしい…

「ピンポーンピンポーン」インターホンが鳴り響く。

「う?何ー?ケホッケホッ」

「ピンポーンピンポーン」

 怠い身体を無理矢理起こし玄関へと千鳥足で向かいドアスコープを覗き込んだ。

「はぁ…もう…」

 ガチャと玄関を開けチェーン越しに玄関前に立って居たのは、学生服を着た少年の姿だった。

「また貴方、何なんですか?警察呼びますよ…」おばあちゃんは、冷ややかな目で少年を見たと言う…

「せっかく見舞いに来てやったのによ…ほれ…」と食材の入ったレジ袋を見せた。

「頼んでないんですけど…」おばあちゃんは、バタンッと玄関を閉めた。

「ちょっおい!」

「はぁ…しょうがねぇ…出直すか…」ガチャと再び玄関が開いた。

「食材…勿体無いから入っていいわよ…しょうがなくだからね…」

「イヒッサンキュッ」

 おばあちゃんは、落ち込んでるしょうへいさん見て仕方なく入れてあげたらしい…

 再びおばあちゃんは、布団に戻る。

「何でそんなに私に付き纏うんですか?」

「ん?それは…お前が俺の嫁になる運命だからだ!」

「答えになってない!嫁って私達…まだ会ったばかりじゃないですか…わ…私が…タ…タイプとかですか?」

「それもあるけど…約束したからな…」

「約束って誰とですか?お母さんとですか?」

「いや…お前と…」

「はい?いやいや…私してないんですけど…」

「まぁ良いじゃねぇか!俺は、お前が好き何だからよ!」

「納得いきません!」

 おばあちゃんは、思わず立ち上がってしまった。

「だって…だって…ケホッケホッ」

「そんな急に動くからほら…寝てろって!」しょうへいさんは、おばあちゃんの背を摩り布団を掛けた。

「台所借りんぞ〜」

「えっ」

「こう見えて料理は、得意なんだぜ!イヒッ」

「もうっ好きにして下さいっ」とおばあちゃんは、布団で顔を隠した。

「おうっ好きにさせてもらうぜ」

「ふんっ」

 しょうへいさんは、台所に行きトントンコトコトと料理を作り始めたのだった、そして二十分の時間が流れた。

「出来たぞ〜へい!お上がりよ!」と土鍋をおばあちゃんに差し出した、おばあちゃんは、土鍋を開けた。

「これって…」

「たまご粥だ!あちぃから気を付けろよ!」

「フーフーあむっん?美味しっ」

「だろっ!イヒッ」

 おばあちゃんは、ムシャムシャとお粥を食べ完食した。

「いい食いっぷりだな」

「別にいいじゃないですか!もう用事が済んだら帰って下さい!私は、もう寝ます!」とおばあちゃんは、布団に包まった。

「………………」

「帰んないんですか?」

「心配だから付いててやるよ」

「もう勝手にして下さい!」

「………………」

「襲わないで下さいね」

「襲わねって!」

 と疑いつつおばあちゃんは、眠りに着いたのだったそうだ。そして、数時間が経った頃、起きてみると布団の横にあぐらをかきながら寝ているしょうへいさんが居たそうだ、しょうへいさんがおばあちゃんの寝て居る間、看病してくれていたらしい、熱も下がっていた。寝ているしょうへいさんの裾を掴んで起こした。

「ふがっ…おう起きたか…」

「なんで何で私なんですか?私可愛いくないし、貧乏だし、病弱だし…」

「ん?好きになったらそれは、関係ないんじゃないか?俺は、お前と居たいただそれだけだ」

「………お前じゃないです…淳子です…結婚は、ま…まだ早いのでお付き合いからお願いします…」

しょうへいさんは、優しく微笑みこう言った。

「淳子さん…俺と付き合ってくれないか?」

おばあちゃんは、恥ずかしそうに答えた。

「は…はい…」

 こうしておばあちゃんは、献身的なしょうへいさんに心打たれ根負けした形で付き合い始めたそうだ、おばあちゃんは、仕方なくと言って居たがまんざらでもない様子で惚気ていた。

 話し込んで居た俺達は、周りが暗くなっていた、事にも気づかなかった、そして、おばあちゃんは、立ち上がりスタスタと公園を後にしようとしていた。

「おばあちゃん大丈夫かよ?一人で帰れる?」

 おばあちゃんは、お辞儀をし去って行ったのだった。俺もその後自宅へと帰った。

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