第23話 状態2もとい浅見さんは

 地元の神社で催されているお祭りにいつもの4人で来た。

 そこで、拝殿の前、狛犬の隣に1人ぼっ立ちしている浅見さんを見つけた。

 そんな浅見さんの様子が心配になった俺と和泉さんの2人でいざ彼女の元へと向かったわけだけど……


 「おう。小鳥遊か」


 状態2の方だったか。

 平然と、まるで学校でばったり会っただけみたいなテンションだな。


 とはいえ、浅見さんも状態2も、1人でこんな場所に来るようなタイプじゃないだろう。屋台を回っていたような様子でもないし、一体何を?


 「こんばんは。何してるの」


 「見て理解らんのか。ナンパ待ちだ」


 「ナ、ナンパッ!?」


 ……はぁ。何でこの人はこうなんだ。

 狛犬の横でぼっ立ちしてるボサ髪白衣ビン底の3コンボがナンパされるかよ。


 「いや本当、何してんの」


 「其れなんだがな、ワタシが幾ら鼓舞して遣ってもあの女は一歩を踏み出せんでいるんだ。だから荒療治だとは思うが、先ずは人慣れさせんとと思ってな」


 うん。聞いた上でわからない。発想が飛躍しすぎてる。


 「じゃあ俺たちでいいじゃん。どうしてわざわざナンパなんか──」


 「チュートリアルで敵の本丸に突っ込む奴があるか!! 莫迦かお前は!!」


 「人慣れでナンパ待ちする奴に言われたくないよ」


 そういえばこの人、何故か俺たちと絡むのには消極的だよな。

 今もチュートリアルだの敵の本丸だのと……もしかして、何かあるのか?


 「でもな紗和ちゃん。ナンパしてくる奴なんてろくな奴じゃねぇぞ。危ないからやめな」


 「然し、じゃないと此奴が……」


 何故だろうこの人は。浅見さんの人慣らしをしたいなら、手頃な俺たちで良いじゃないか。

 それなのにどうしてわざわざリスクの高いナンパ待ちなんて手段を取るんだろうか。


 「とりあえず、荒療治ならこっちおいでよ」


 「だな」


 「はっ! なっ!」


 「新崎さんと笹塚しかいないからメンツは変わんないけどさ。

 それに、俺も皆も、浅見さんがいた方が楽しいよ」


 振り返って2人の待つ方を見やると、こちらを伺う新崎さんと、呑気に焼きそばを食う笹塚と目が合った。

 微動だにしない新崎さん。手をぶんぶんと振る笹塚。

 そんな2人を見てか、状態2のビン底が曇ってしまった。


 「なっ……んん……」


 ……なるほど。笹塚か。

 どうりで頑ななわけだ。確かに、本丸もとい本命がいたんじゃ、あまりそうがつがつと攻めていけないよな。緊張するよな。


 きっかけはいつだろうか。何度か一緒に帰っているから、それのどこかで意識するようになったんだろうか。

 あいつ何気に車道側歩いたり、信号のボタン押したり、ドアを開いて待っててくれたりで、モテそうなムーブ取ってるからな。


 「……わかった」


 頬が赤らんでるな。思いがけない合流に火照ってしまうとか、浅見さんだけじゃなく状態2も笹塚にホの字なんだな。

 笹塚は確かこの前──

 「友達といるほうが楽しいから積極的に恋したいわけじゃないけど、告られたらやぶさかではない」

 とか言ってたし、案外直ぐいい感じになれたりしてな。


 「おっけ。じゃあ行こ」


 2人の元へ歩き出そうとしたその時。


 「……その代わり、聖子。一旦外してくれ」


 状態2が言った。

 やや俯き気味なせいでその表情はいつも以上に読めない。けど、流れでなんとなくわかった。

 恐らく、協力を取り付けたいんだろう。俺と。

 笹塚を惚れさせるためのアドヴァイオレェエェエェンスが欲しいんだろう。


 「おっ、えっ、あっ……おお……」


 和泉さんも察したのか、素っ頓狂な声を上げながらも頷いてくれた。

 そして数歩、こちらの会話が聞こえない距離まで下がるのかと思ったら、そのまま2人の元へ戻っていった。

 わざわざそこまでしなくてもいいと思うけど……


 「……其の、何だ、急で悪いんだが」


 っと、そうだった。何か話があるんだよな。

 バッチコイだ。かたじけ無い位俺はスーパーナイスだからな。アイツのプライバシーを侵害しない範囲でなら何でも教えてやれるぞ。


 「”YES”か”NO”で答えてくれ。明日は暇か?」


 ……ん? 何の話だ? 明日なら別に暇だけど……


 「い、YES……?」


 「理解った。其の儘開けて置け」


 「えっ、な、なんで……?」


 あ、いや、あれか? 笹塚をオトすための作戦会議的な?


 「こ、此れ以上ワタシから言わせるなっ!」



 ……俺は少女漫画に明るいわけじゃないけど、それでもいくつか知っていることがある。

 少女漫画のヒロインは、今の状態2のように頬を赤らめて、「///」が語尾に付きそうな口調になることがある。実際に付いたりもする。


 好きな人のことを考えている時とか、顕著なのだと好きな人を目の前にした時なんかがそうだ。呂律が怪しくなったり、ついつい口調が荒くなってしまったりもする。作品によっては暴力に走ったりもしてたっけ。

 面白いよな。本当。


 (こ、此れ以上ワタシから言わせるなっ/// ボカンッ!!)


 うん。良い。


 「ほっ、ほら、行くぞ! 早くしろ!」


 「あっ、うん」


 それにしても凄いな。なんでそこまで少女漫画のヒロインムーブが堂に入ってるんだ。

 まんま、好きな人が目の前にいる時みたいな──



 ……うん?



 あれ? なに? じゃあなに?





 もしかして、状態2……もとい浅見さんって、笹塚じゃなくて、俺のことが好きだったりするのか…………?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る