第19話 仕方ない

 放課後、俺たち(笹塚を除く)は図書室にいた。

 第二書庫。浅見さんの状態2が主な拠点としている場所である。


 ここに来た理由は一つ。

 先のアレコレを、交流のある人たちに説明する必要があるからだ。


 ……と言っても、浅見さんと和泉さんしかいないんだけどな。

 


 「──て訳で、新崎さんは俺を助けるために一芝居打ってくれただけなんだよ」


 「そ、然っか……」

 

 「付き合ってないって、それ、本当か……? そこに恋愛的な感情は一切ないのか……?」


 「一切ない。小鳥遊くんは、友達」


 新崎さん……そこまでハッキリ言われると流石にちょっと傷付くよ。

 俺も恋愛感情があるわけじゃないけど。


 「まあ、そういうことだから」


 「べっ、別に、お前が誰と付き合っていようが、ワタシ等には何の関係も無いんだがな!」


 「で、でもっ、も、もし2人がそういう関係で、それで、その、そういう……あの、あれを……」


 「理解らん! もっとハッキリ喋れ!」


 「いいい言えるかっ!!」


 すごい。状態2が和泉さんと普通に喋れてる。

 こないだ笹塚と3人で帰ったのが効いたんだろうか。よかったよかった。


 「若いっていいなぁ」


 君も同い年だろ。何言ってんだ。


 「ISO感度高すぎて何も見えない」


 ……ああ、白飛びするほど眩しいってことか。


 「私にもあったなぁ。こんな時期」


 どこで差がついたんだろうね。


 「最終コーナーかな」


 新崎さんって時折俺の心の声が聞こえてるみたいな反応するよね。ちょっと怖いよ。


 ……てか最終て。

 まだ平均寿命の5分の1も生きてないだろ俺たち。まだまだこれからだろ俺たち。


 「コーナーで差をつけろ」


 俊足。


 「つかなかったなぁ。差。言うほどの。あれ」


 倒置法のクセが凄いな。キュビズムぐらい崩れて見える。


 そして買ってたんだね俊足。

 確かにあれそんな速くなった感じしないよな。


 「コーナーを走る機会なんて、運動会だけ。年に1回しかないのに、それに気付いたのは、レジを出てからだった」


 わかる。その手のミスとかって、会計前には絶対に気付けないんだよな。

 あれなんなんだろうな。


 「まあ一先ず、誤解させてごめんっていう……」


 「原因はあの先輩2人だろ? ならお前が謝る必要ねぇって」


 「然うだな。恐らく彼奴等は会話が通じぬタイプだろう。寧ろあれで追い返せただけ儲け物だ」


 「……ありがとう」


 和泉さんも浅見さんも、すぐに納得してくれたな。

 あとはここからクラス中に事実を広められればとは思うけど……俺も新崎さんも他に仲良い人とかいないし……


 いや、どうせすぐ忘れるか。派手めな陽キャならまだしも、俺たちはそうじゃないし。

 ああでも、笹塚なら誰とでも仲良いから、なんとか出来ないことはないかもな。

 あいつ今なにしてんだっけ──って、ああそっか、俺の身代わりになってんだった。

 変なことされてなきゃいいけど。



 * * *



 「じゃあ、俺は部室寄って笹塚の安否確認してくるから、遅くなるかもだし、先帰ってて」


 相変わらず、いい人。


 「わかった。いってらっしゃい」


 「おー。じゃあな」


 行っちゃった。


 「知ってるぞ。お前等は「帰ってて」と云われても、どうせ何処ぞで待っていてやるのだろう?」


 「……」


 「そうだけど……なあ、浅見って教室じゃもっと大人しい感じだけどさ、どうして今はそんな感じなんだ?」


 「ん? ……ああ、いや…………何と云うか……言語化が難しいな」


 「そっか。普段からそうしてたらいいのに」


 「なッ! そそそんなの、ワタシをガソリン水攻めの後ロケット花火射撃大会で、明日には臨終だろう!!」


 「そんなエギィ~ことしねぇよ。

 まあでも無理ってんなら、あたしらだけの秘密みたいで、なんか良いなっ!」


 「……」


 せーちゃんは相変わらず、誰にでも優しいね。


 「……お前、良い奴だな」


 浅見さんも、素直でいい人。


 「あ? そうか?」


 「然うだろう。なあ、お前は──」


 「和泉聖子せいこだ」


 「……浅見紗和さわだ。

 聖子……は、あれか? 小鳥遊が好きなのか?」


 「なッ! ななな、何だよ藪から棒に!

 ……あ~、た、小鳥遊、小鳥遊な~……」


 !


 「せーちゃん、なに?」


 「……いや、良い奴だとは思うけど、す、すきとかは……うん、ねえぞ」


 「……」


 ……ふーん。


 「そっ、然うか!」


 浅見さんのこの反応……やっぱり……


 「小鳥遊な! 良い奴だよなっ!」


 ……ああ、そっち。



 「やっぱりいた。ごめんね、お待たせ」


 !


 「つっかれたぜガチ~」


 「笹塚、お疲れ」


 「お~、あれ、浅見さんもいんじゃん!

 じゃあせっかくだし、どっか寄ってこうぜ」


 「あ~、今日ならいけるぞ。臨時収入あったし」


 小鳥遊くんは行くんだ。じゃあ、いこうかな。


 「あたしはいいぞ」


 「私も」


 「ワタシは──…………ワタシも、征こうかな」


 「んじゃあさっさと履き替えるべ」


 ……


 いい人だから、別にいいのに。



 「新崎さん、どうかした?」


 「! 小鳥遊くん。

 ううん、どこ行くのかなって」


 「あーね。どうせいつものとこでしょ」


 「何時もの所と云うのは何処だ?」


 「駅前のさ──」



 友達だから、仕方ない。



 もし、浅見さんが、小鳥遊くんを好きなら、今迄みたいにはいられない。


 でも小鳥遊くんはいい人で、浅見さんも悪い人じゃない。

 せーちゃんは優しくていい人で、笹塚くんも何気に気遣いいで。


 だから、恋し愛しあっても仕方ない。



 いい人同士だから、いつまでも友達のままじゃいられない。



 わかってるけど…………




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