第14話 新崎さんの様子がおかしい

 新崎さんの様子がおかしい。


 「じゃあここ、新崎。わかるか?」


 「あっ、えっと……すみません、わかりません」


 「どうした。めずらしいな。

 え~じゃあ──」


 いつもなら授業と全く関係の無いことをしながらでも答えられていたのに、今日はどこか集中出来ていないような。

 手元も特別何か変なことをしているわけじゃないし、独り言だって聞こえて来ない。

 朝からずっとこの調子で、何をするにも心ここにあらずって感じだ。


 何か悩み事でもあるんだろうか。


 ……でも、本人が口にしたくないなら無理に聞き出すのも悪いし、俺はそういうのが上手いタイプではない。

 笹塚なら上手くやるんだろうけど、新崎さんの様子には気付いていないっぽいし、和泉さんも、特別気にしている様子はない。


 新崎さんと和泉さんは、中学からの仲らしい。

 であれば、何かあった時には真っ先に相談し合うような、いわゆる「親友」なんだろう。

 その和泉さんがこの調子なら、きっと、これは俺の思い過ごしで、新崎さんはいつも通りなんだろう。



 ……でもなぁ。



 「はぁ……」



 幸せのケツを蹴ってを追い出すようなため息。

 今日だけで何度これを耳にしただろう。


 こういう時、自分の無力を痛感する。


 新崎さんと友達になってから、数週間が経った。

 でも新崎さんにとって俺はまだ、悩みを打ち明けられるほどの仲ではないらしい。

 まあ、俺も新崎さんや和泉さんに、何も包み隠さずに相談出来るかって言われたら……うん。難しい。

 自分語りってウザがられるし、隙自のせいでネタみたいになるし。

 どうしたらいいんだろうな。本当。



 そうして、事態は好転も悪化もせず、授業が終わって放課後になった。


 いつもなら4人で帰るか、どこかへ寄るか。


 「どっか寄ってく~?」


 「そうだな」


 「行くか」


 「あっごめん……私、今日はちょっと」


 新崎さんは不参加のようだ。まあ、今日のこの人の様子を考えれば当然か。

 何か悩み事がある時ってのは、一人になりたいもんだしな。


 「体調悪くて。またね」


 「そっか。じゃあ、また」



 なんとかなればいいんだけどなぁ。



* * *



 「気付いてんだろ? りっちゃんの様子がおかしいの」


 和泉さんと2人で、笹塚のトイレを待っていたところ、不意に話しかけられた。


 「まあ、流石にね」


 「……りっちゃんな、友達から相談受けてるらしいんだよ」


 なんだ。何かあったってわかってたのか。

 だからああも平然としていたんだな。


 「凄い。頼りにされてるんだね」


 「うん。昨日な──」


 そうしてあらましを聞いた。


 なんでも、「これは友達の話」と前置いた上での話だそうで、Aちゃんという子に最近、Bちゃんという友達が出来たそうなんだ。

 そこまで仲が良かったわけじゃないけど、丁度いい距離感だったんだと。

 しかし、そこにCちゃんという子が現れ、CちゃんはBちゃんと友達になった。

 とても楽しそうにしているBちゃんとCちゃん。

 その様子がAちゃんの目には、自分といるよりも楽しそうで、嬉しそうで、なにやらもやもやとしてしまった。


 そんな感じの相談を受け、新崎さんは、どうにか力になれないか。と苦心しているんだそうだ。


 要は、AちゃんはCちゃんにBちゃんを取られた気がして、もやっている。と。


 「なるほど……」


 友達の話。

 それは、聞く人によっては一瞬でその意味を理解するだろう。


 仔細はggってもらうとして、要するにこれは、新崎さんの話ということになる。


 でも、新崎さんがこんなあるあるネタ、抑えていないわけがないんだよな。

 「友達の話なんだけど」の語り出しで本当に友達の話だったケース、今どき一例だって存在しないだろ?

 イコールで自分の話と伝わってしまうんなら、新崎さんなら、そんな語り出しはしないだろ。

 ってなるとこれはワンチャン、本当に、友達の話って可能性も出てくるだろ。


 わかんない。

 わかんないけど、もしそうだったら……と思わせてくるのが新崎さんだ。



 一応、「本当に友達の話」として聞いておこうか。



 「お前だったらどうする?」


 「……Aちゃんが今のBちゃんとの関係に満足いってるんだったら、わざわざ他の人と張り合う必要はないと思うな」


 「Cちゃんの方が仲良さそうにしてるのにか?」


 「うん。こういうのって比べるもんじゃないと思うし、気になるのはわかるけど、AちゃんにはAちゃんのいいところがあるだろうから、そこをブレさせなきゃいいんじゃないのって思うよ」


 言うまでもないけど、こんなのは当然、漫画の受け売りだ。

 似たような三角関係なんかいくらでもあるし、読んできた。

 そのたびに結論は大体どれも同じで、「張り合っても仕方ない」とか、「自分の長所で勝負」とかって所に落ち着くものなんだ。


 やはり漫画は偉大だな。現実世界の問題をメタれる。


 「そうか。ちなみにこのBちゃんがお前だったら、どうする?」


 ん? AちゃんじゃんなくてBちゃん? 何で?


 「Aちゃんじゃなくて?」


 「それは今聞いたろ?」


 ああ、そうか。

 え~……無自覚に人を振り回すタイプっぽいよなぁBちゃん。

 Aちゃんがもやってんのも気付いてないんだろ?

 だったらもう、答えは一つだろ。


 「何もしないんじゃない? だって、Bちゃんは何も知らないんだから」


 「そうだよな……うん。わかったわ。ありがと」


 なんだなんだ? 何かの心理テストか?


 「ふぃ~お待たせ。何の話してんの?」


 「お前が遅ぇっつー話だよ」


 「生理現象に文句言うなよな。なあ小鳥遊」


 「それはそうだな。でも遅かったのも事実だからな」


 「ガチとんでもねぇもん出てきたんだよ。後で送っから楽しみしとけ」


 「いらねぇよ馬鹿」



 結局、適当なファミレスに入って、ドリンクバーで1~2時間粘り、その日は解散した。


 話題の殆どは、流行りのドラマとか、動画とかだった。


 新崎さんがいないと、漫画やアニメの話が広がらない。


 全くテレビを見ない俺からしたら、まるで、知らない言語の話のようだった。

 聞いている分には楽しいけど、少しくらい今期の覇権アニメについて話したかったな。

 和泉さんもパンドラは読んでるけど、意外とそれ以外の作品には触れていないっぽいし。

 やっぱり新崎さんがいた方が……という部分は否定できないな。


 あとでメッセージでも送ってみようか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る