第10話 新崎さんは飽きさせない

 国語の授業中。


 新崎さんがまた何かをやっていた。


 「できた……」


 横目でこっそり覗いてみて、その光景の気持ち悪さに鳥肌が立った。


 山盛りの消しカス。


 キャベツじゃない。消しカスだ。


 「消しカス山崩し」


 ……君はいったい何をしに学校に来ているんだ。


 「朝からコツコツ消した甲斐があった」


 そういえばずーっとごしごししてたな。

 新品の消しゴム何個も消費してさ。てっきりそういう遊びかと思ったよ。

 

 「明日はきっと手首を吊る♪ 腱鞘をやる♪ いい日になるでしょお~♪」


 なんでだよ。どこがだよ。

 馬鹿な高橋優やってないで、授業聞きなよ。


 「時間無制限、ただし1手10秒指し。一度触れたポジションは変更できない。取った消しカスが10個以下の場合はペナルティ1」


 頑なだなぁ。


 ……って、ペナルティ1? 即失格ではなく?


 「ペナルティ3つでお皿が貰えます」


 パン祭りか。


 「抽選で3名様にエコバッグをプレゼント」


 パン祭りかって。


 「ヤマザキ 春のパン祭り」


 パン祭りじゃねぇか。


 「よーいスタート」


 やりたい放題だな。


 さて、右手対左手か。

 俺右利きだし、右手を応援するか。


 「……」


 静かだなぁ。

 実況とかしないのか。


 「くっ……」


 ああ、集中してるのね。

 頑張れ右手君。


 「つまりここは、主人公への恨みが描写されてるんだな。

 じゃあここでいう「あれ」ってのは何か。新崎、わかるか?」


 「犯行の現場です」


 「ん。正解」


 なんで正解出来んだよ。

 前もそうだったけど、授業聞いてないのに、なんで急に当てられてノータイムで答えられるんだよ。

 何? この新崎さんって、俺にしか見えてない幻か何か?

 本当はすごい真面目に授業聞いてるのに、俺には変な事をしているように見える幻の類なの?


 「勝った……やった」


 新崎さんの机の上、左手の指先には山から取られた消しカスが付着していて、その左手側に棒代わりの鉛筆が倒れ込んでいた。

 どうやら右手の勝利らしい。

 

 ペナルティは──あっ!

 右手側、ペナルティの1点シールがたくさんある!

 逆に左手側には1枚もない。


 「ペナルティなんてこっちに得しかないんだから、君もやればいいのに」


 そうか。ペナルティ無しは10個以上の消しカスを取る必要があるのに対して、ペナルティ有りは1個でも取ればいいんだよな。

 その上お皿が貰えて、ワンチャンエコバッグだって貰えるかもしれないんだよな。



 ……じゃあ左手馬鹿すぎないか?



 「くっ……くそっ!」


 なんでこれで悔しがれるんだよ。


 「馬鹿な子」


 本当にな。


 「許さない……許さない……」


 多分だけど自業自得だぞ。


 「次回 左手のリベンジ」


 次はやり返すのか。アツいな。


 そういえば、江戸っ子戦隊の2話っていつなんだろ。もうそろそろのはずなんだけど……


 「来週は江戸っ子戦隊エドえもんか。楽しみだな」


 ん? 確か先週も来週って言ってなかった?

 てかあれ、正式タイトルはエドえもんが付くんだな。

 大丈夫か? ちゃんと許可取ってるか?


 「楽しみだなぁ」


 そうだな。俺も早く次回が見たいよ。


 それにしても、毎度毎度よくネタが尽きないよな。


 こんなにネタが尽きないなんて、新崎さん、普段どんなことしてんだろ。


 「じゃあここ、テスト出るからな~。ちゃんとメモしとくこと」


 「マズい。板書しなきゃ……あ、間違えた」


 あーあー、慌てて書くから。


 「……小鳥遊くん、ごめん。消しゴム削──失くしちゃって、貸してもらえないかな」


 今「削っちゃって」って言いそうになったな。

 てかなに、持ってる消しゴム全ブッパで消しカス山崩しやったの?

 なんでそうも向こう見ずなんだ君は。


 「半分あげるよ。どうぞ」


 「あ、ありがとう……」



 翌日から新崎さんの筆入れには、常に二つの消しゴムが入れられるようになった。

 失敗から学んだらしい。





 ……俺があげた消しゴムは使い捨てにでもされたのだろうか。ちょっと複雑だな。




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