第2話 新崎さんはド根性シャンプーをする
ある日の授業中──
「あ。雨だ」
そういえば今日は午後から降るんだったか。
「はぁ……」
どうしたんだ新崎さん。溜息なんかついて。
なにか嫌なことでもあったのか?
「はぁ」
「ド根性シャンプーがしたい」
……ん? 聞き間違いか?
「ド根性シャンプーがしたい」
あっ、2回言ってくれた。
そして聞き間違いじゃなかったな。
ド根性シャンプーか。
まさか10代でそのネタを知っている人間が、俺以外にもいたなんてな。
あれだろ? 家もお風呂もシャンプーも無いから、雨をシャワー代わりにして頭を洗うやつだろ?
というか新崎さん、君はコロコロコミックを読んだことがあるんだな。
しかもあの作品が連載してたのって、僕らが生まれたあたりだぞ。
僕はアラサーの兄ちゃんがとっておいたものを読んでたまたま知ることが出来たわけだけど、君はいったいどこからそのネタを仕入れたんだ?
「法律が無ければ、私も着れたのかな。
あでだすのTシャツ」
……凄いな。なんでそこまで覚えてるんだ。
あれだよな。主人公はお金がないから、裸にペンで服を書いてるんだよな。
胸の辺りだったか、”あでだす”のロゴというか、文字が入ってるんだよな。
てか俺も、何気にめっちゃ覚えてるな。
早いうちにジャンプに移っちゃったからコロコロはそんなに明るくないと思ってたけど、やるなぁ我ながら。
「懐かしいな。色んな漫画があって、おもしろかったな」
そうだな。懐かしい。
「私には、ウードンのコントロールは無理だったな」
うっわそれなんだっけ! 誰かの必殺技だよな!
「私もオコゲ道場で修行すれば、出来たのかな」
ウードン……オコゲ……食べ物系の名前……?
……あっ!コロッケか!コロッケの必殺技だ!
うあ~めっちゃスッキリした。そうだそうだ。
あの技、めっちゃエネルギー溜めるからコントロールが難しいんだっけか。
「私のバンクは、ウツボカズラ」
あるある。そういう妄想したよな。
集めると願いを叶えられる禁貨を貯めるバンク、無機物が多い中で生き物のバンクはレアだから、自分だったらって考える時、生き物であることはマストだったなぁ。
俺のバンクは虎だったっけか。
そうかそうか。新崎さんはウツボカズラか。
……ん? ウツボカズラ?
それはなに、生き物判定? それとも、皆が生き物で妄想する中、敢えて植物を選ぶっていう逆張り?
「いっぱい貯められそうで選んだっけな」
ああ、そういう……
てか凄いな。なんでそんなに一昔前の少年漫画に詳しいんだよ。
しかもジャンプとかじゃなくてコロコロコミック。
小学生男子……いや、アラサー男子のような人だ。
「好きなコロコロ作品で打線組もうかな」
いやそれはもうさ、中高年の楽しみ方じゃん。
いないだろ。好きな作品ランキングならまだしも、好きな作品で打線組むJK。
マジで年齢迷子なセンスしてるなこの人。
「……無理。野球のルールわかんない」
わかる。俺もわからん。
しかも打線組むのとか、ルールわかってても難しいだろうしな。
「もういいや。勉強しよ」
それは……そうだな。
第一に今授業中だしな。
「図の放物線Bは、高さ7mの木の上にいる敵の忍Aの手裏剣における……」
……新崎さん。
今は数学の時間だぞ。
「この手裏剣の描く楕円に現れる敵の忍者の特徴、及び……」
中忍試験第1試験のペーパーテストの問2を解く時間じゃないんだぞ。
「こんなの解けるわけない……」
そりゃそうだよ。
不確定条件の想定と力学的エネルギーの解析を応用した融合問題なんだから。
「じゃあこの問題、新崎、わかるか?」
「A⊂Bです」
「ん。正解」
なんで解けるんだよ。
新崎さん今の今まで中忍試験の最中だったろうが。
「どうしよう……このままじゃ一生下忍だ」
大丈夫だろ。少なくとも俺よりは好成績だって。
俺もこんなことなら、天井に鏡の一つでも仕込んどくんだったよ。
「よし、今日はここまで。各自復習しとくように」
ああもう、この席になってから全然授業に集中出来ない。
「くっ、なめないで。私は逃げない」
NARUTO好きすぎだろ新崎さん。
もういいよチャイム鳴ったんだし。
「巳・未・申・亥・午・寅」
あっ……
「火遁・豪火球の術」
修行の成果だな。印を結ぶのに1秒もかかってない。
でもそれは先生に向けていい術じゃないぞ。新崎さん。
「ド根性シャンプー、帰りにやろ」
今日結構冷えるけど、大丈夫か? 体調とか崩さないか?
「諦めないのが、私も忍道」
ヒロインだなぁ。
家に帰って問2の続きでもやるのかな。
そういえば、ナルトとボン・ビー太、ド根性って部分は共通してるな。
俺は普通に傘さして帰るけど、応援してるよ。新崎さん。
次の日、新崎さんは学校を休んだ。
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