2.初回ミーティング!
「我々スタンプラリー同好会の試合は土曜の午前と、日曜の午後の2試合! エキシビションはステージ選べないから、その辺は完全に運任せになるね。新しく追加された要素も今回のエキシビションから適用になるらしいから、そうした急展開にも対応できるアドリブ力が試されるってことで、私たちはいつも通りを心掛けたいと思うんだ」
「ということは、いつも通り、わたしが司令塔でいいのかな。ポジションも変わらず<
会長の言葉に、ポニーテールの少女が小さく挙手しながら確認を取った。
「うん、
「じゃあ私は、フェーズⅠからってことですか?」
クラウン スフィアはフェーズⅠからフェーズⅢまでの三段構成で試合が進む。6つあるポジションは、それぞれ異なるタイミングから試合に参加することになり、それぞれに求められる役割も異なってくる。
調と呼ばれたポニーテールの少女の<鍵守>と、会長とユイの<道化師>はそれぞれフェーズⅠから試合に参加し、生き残ることができればフェーズⅢまで試合に参加し続ける、長期的に試合を動かすポジションである。
「そういうこと。よろしくね!」
「ってことは、結局わたしが使える駒ってユキ先輩だけってこと……?」
ユキ――
今までは調と悠暉子、そして会長の三人がフェーズⅠから試合に参加するメンバーだったが、自由枠としていずれかのポジションを一人増員できるルールに変わり、会長と同じ<道化師>を増員することができるようになった。
「まあまあ、仲良くやろうよ。ね? ユキは調ちゃんのサポートをしながら陣地を守ってね。私とユイちゃんはクラウンスフィアを奪取しに行くから、それができたらフェーズⅡかフェーズⅢから仕掛けよう。基本的にそれまでは攻めないってことで! 今回の相手は奉仕部と天文部だから、どちらかと言えば、天文部の方から崩したいかなぁ」
クラウン スフィアという競技におけるチームの目標の一つとして、名前の由来にもなっている宝珠――クラウン スフィアの防衛と奪取がある。自陣のクラウン スフィアを守り抜き、相手の陣地からクラウン スフィアを奪う。それが競技に勝利するための一つの指針だった。
「攻めの天文部と守りの奉仕部だから、こちらから攻める分には天文部を狙うのは妥当かもしれないけれど……フェーズが進んで人数が増えると、厄介なのは奉仕部の方じゃない?」
クラウン スフィアにおいて勝利を目指す他の指針として、討伐と生存がある。相手チームのメンバーに攻撃し、ダメージを与えて討伐すると、討伐されたメンバーは競技に復帰できない。そうして相手メンバーの数を減らし、討伐ボーナスも得るという戦い方と、それに反してチームメンバーを討伐されずに守り抜き、生存数の多さでボーナスを得るという戦い方。
どちらにしても特化しているチームを相手にすると苦戦を強いられることになるだろうが、守りのチームは人数が多ければ多いほど守りが固くなり、崩せなくなる。サフィーはそれを懸念して、狙う相手は奉仕部が先の方が良いのではと提言したのだった。
「それはそうなんだけど、今回はユイちゃんの初陣でもあるからね。正直、ルーキーのユイちゃんと
「さすが調ちゃん! よくわかってくれていて、会長は嬉しいよ……っ!」
わざとらしく大袈裟に泣いて喜ぶ仕草を見せる会長に、ユキも補足するようにサフィーに意見した。
「フェーズⅠの間に私もできるだけ罠を設置しておくようにする。サフィレットはそれでどうにか立ち回ってもらえないか?」
結局 私の負担が増えるんじゃない、と幾度となくため息を吐くサフィー――もといサフィレットは諦めたように、わかったと目を伏せた。
「あのー……フェーズⅡの話する前に、ほっしー起こした方がいいよね?」
「っていうか、そいつは何で寝てんのよ。さっさと起こして」
サフィレットのストレス値がどんどん上昇していくのがわかって、シシリエンヌが
「ふわぁ~……あら、新入りさんですか? よろしくお願いしますね」
乱れた金髪を手櫛で整えて欠伸を一つした星流は、何事もなかったかのようにユイに会釈して姿勢を正した。
「ほっしぃは、いつも通り、ドラゴンの相手をよろしくね。倒しちゃっていいからね!」
会長が簡潔に星流に役割を伝えると、わかりましたわ、と笑みを見せる。
フェーズⅡからは“ドラゴン”が出現する。チームの垣根を越えて共闘し、ドラゴンを討伐しなければ、ステージにもメンバーにも大きな被害が出てしまうので、早急な討伐が求められる。また、討伐すればボーナスポイントを得られるので、挑戦するメリットも大きかった。
「まあ、ほっしーは役割がシンプルな方が良いもんね。ほっしーに関しては、今後も<
その奔放さから、星流の駒としての扱いにくさを感じていた調は、隣に座る彼女の頭を撫でてやった。
「そんな感じで、フェーズⅢまでに盤面を整えて、最後はサフィーに暴れてもらう。いつも通りと言えばいつも通りだね。あとは状況次第で調ちゃんに任せる感じで!」
会長の無茶振りにも、調は気怠そうではありながらぐっと親指を突き立ててみせる。
「二試合目は、ユイちゃんは<
<建築士>は<竜殺し>と同じくフェーズⅡから参加するポジションであり、ドラゴンが出現するフェーズⅡにおいて、裏方として試合を動かすポジションでもある。フェーズⅠで裏方として動くことが多い<道化師>とは近い位置づけのポジションとして、会長はユイに経験させておきたいようだった。
「わかりました、やってみます……!」
「と言っても、エキシビションの勝敗はシーズンの順位には関係ないから、あまり気負い過ぎないようにね」
意気込むユイに、サフィレットが優しく補足した。
このエキシビションマッチはいわば、新しいシステムに適応するための準備段階のようなもので、運営側としても新しいシーズンでいきなり数々の変更点に順応できないことは承知の上で、こうした機会を用意していた。
「さて、それじゃあ今日はこれで解散! ステージが決まるのが木曜日だから、その時にまた色々考えよっか」
「了解。じゃあまた」
会長から解散の号令が出て、サフィレットは早速
「ユイちゃんも、もう帰って大丈夫だよ。次の集まりは木曜日だから、忘れないでね」
会長がそう笑顔を向けると、ユイはおずおずと口を開く。
「あの……リラさんは、どうして<道化師>なんですか?」
「どうしてって言われても……少なくとも去年までの環境だったら、今のみんなのポジションは最適だと思ってるけど? これからはどうかわかんないけどねー」
なんて、会長――リラはやはりへらへらとした笑顔を見せる。しかしユイには、その笑顔はどこか白々しく見えた。
「……リラさんの実力なら、最適なのは<
「……それはつまり、サフィーより私が<戦乙女>になった方がいいってこと?」
笑顔は笑顔だが、次第にそれは、少し背筋がざわざわするような恐ろしさを感じさせるものへと変質していく。それを見て、ユイは足が竦んだように何も言えなくなってしまう。
「あははっ、冗談だよ。ユイちゃんの言いたいこともわかるよ。だけど、私が<道化師>をやりたいからやってるんだ。チームのためにもそれで良いと思ってるし。もしそれが正しくないと思うなら、ユイちゃんが結果で示してくれたらいいな。私たちは一つでも多く勝つために試合をするんだから」
その決まり切った覚悟を宿した瞳の前では、ユイは何も言い返すことはできなかった。ただ、わかりましたと言って早々に退室するしかなかった。
「一つでも多く勝つために試合をする、か……。それを一番にできたら、本当はいいよね」
リラは誰もいなくなった部室で一言そう呟いて、自分も退室した。
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