クラウン スフィア ― Crown Sphere ―
taikist
プレシーズン エキシビションマッチ
1.新シーズン、まもなく開戦――!!
電脳技術の進歩により、新たな空間進出として仮想次元やメタバースの開発が進み、広大な電子空間を自在に制御できるようになった現代。人類は限りある地球の大地から、限りない電子の世界へと開拓を始めていったのである――。
当社の最新鋭の仮想拡張次元・AD(Additional Dimension)技術の結晶として、電脳空間で行われる仮想競技・クラウン スフィアが開催され、早三年。今回、三年の間 開発を進めてきた新技術を元に、システムの改修やルールの改定を含む大規模アップデートを実施!
生まれ変わったクラウン スフィアで白熱する試合を観戦しよう!
新シーズン、まもなく開戦――!!
――――――
――
「――と、いうことで! 前に通達があったように、今季からこの“スタンプラリー同好会”に、新メンバーが加入することになりましたぁ!」
いぇーい、と場を盛り上げようとするのは、ダークブラウンの髪を肩ほどで切り揃えた小柄な少女。長机を取り囲むように並べられたパイプ椅子の一つから立ち上がり、ポップでカラフルな装飾文字で“歓迎”と大きく書かれたホワイトボードをバンッと力強く叩く。
その横で、落ち着いた雰囲気の、青色と橙色がグラデーションになったような髪色の少女が流れていた動画を止めて、別の資料を開く。その資料は学校の準備室を模した部屋の窓側に、空中に浮かんだように掲げられた。
そう、この空間そのものが既に電脳空間なのだ。
「……にも関わらず、彼女についていまだに何も議論されていないのはどうなのかしら? 会長さん」
落ち着いた雰囲気の少女が掲示したのは、内部的に提供された新メンバーの資料。先ほど立ち上がった少女は、その落ち着いた雰囲気の少女の一言に不満そうに口を尖らせる。
「シーズン中は忙しかったんだもん、しょうがないじゃん! そう言うサフィーは何か案があるの?」
サフィーと呼ばれた先ほどの落ち着いた雰囲気の少女は、資料にマーカーを引きながら淡々と話し出す。
「攻撃ランクも防御ランクも特別高いというわけではないけれど、機動力が高いのは魅力的ね。奇襲を得意とするうちのチームには合っているんじゃないかしら」
「なるほどねぇ。じゃあ序盤から試合を動かしていく感じが良さそう? もしくはアタシみたいに、罠を張る係とか~?」
サフィーの意見に、金色のハーフツインの少女が椅子をぐらぐらと揺らして座りながら尋ねる。
「
「これで過労気味のシシリーちゃんも救われるってもんよ」
シシリエンヌと呼ばれた金色のハーフツインの少女は俄然嬉しそうにするが、椅子が倒れそうになって慌てて座り直した。
「そうは言ってもさぁ、序盤の機動力不足を補いたい感じはあるんだよねー。司令塔担当としては」
ゆるく巻いてボリュームを出した黒髪のポニーテール少女が、気怠そうに机に突っ伏しながら意見を挟む。皆の視線が彼女に集まったことを確認して、彼女はそのまま話を続けた。
「わたしはなかなか戦闘には参加できないし、会長は自由行動だし、何かあった時に対処できるのはユキ先輩だけじゃん? 正直ユキ先輩だけじゃ心もとないっていうか……」
「悪かったな、私では心もとなくて」
ユキ先輩と呼ばれた少女の、ピンクブラウンの髪から覗かせる鋭い眼光に睨みつけられ、ポニーテールの少女は苦笑いを浮かべて言葉を足した。
「あー……別に悪気があったわけじゃないんだけど。何て言うかなぁ、使える駒一つで三十分持たすのキツいって言うかさ」
足した言葉が余計にユキ先輩を苛立たせ、ポニーテールの少女にさらなる反論を繰り出そうとした最中、会長が二人を宥めるように落ち着かせた。
「まあみんな落ち着いてよ。今季は変わった部分もすごい多いでしょ? 私たちも少しずつ慣れていかないとだし、スプリングシリーズは丸々使って様子見っていうのもアリだと思うんだ」
「と言うと、スプリングシリーズの間は色んなポジションをやらせてみるってこと?」
サフィーが会長に問うと、会長は満足そうに頷いた。
「そういうこと! スプリングシリーズを通してやってみた感じでは、みんなのポジションもちょっと弄るかも。今回、さすがに色々変わり過ぎだしね」
「確かに……チーム人数の追加、それに伴う自由枠の追加、アビリティにツリーシステムの導入、ドラゴンの種類の追加、ステージの追加、イベントシステムの導入、報奨金の増額……だいぶ変わったよね~」
シシリエンヌが指折り数えながら資料に目を通していくと、そのあまりの変更点の多さに、しまいには頭を抱えてしまった。
「エキシビションを含めれば、上手くいけば26試合あるから、まあ各ポジション4回から5回は試せるわけね。やりながら適性を見極めるっていうのはどうかと思うけど……そもそもわたしたちが新システムに適応できるかわからない現状を考えれば、仕方がないか」
諦めたようにため息を吐くサフィー。それを見て全員が納得したようなのを確認すると、じゃあ改めて本題に入ろうか、と会長が通信機能を使ってある人物を呼び出した。
「ごめんね、待たせちゃって。入っておいで!」
その声に促されるように、細身の銀髪の少女が部室に入室する。緊張したようにぎこちない動きで、促されるままにホワイトボードの前に立たされた。
「はい、今季からうちの部に入部してくれた新メンバーです! 自己紹介をどうぞ!」
「は、はい!
そう言った後で、皆が少しの間沈黙してしまったために、ユイはやらかしてしまったと思った。ただでさえ緊張していたのに、少しズレた自己紹介をして完全にスベったと思って、第一印象はアホの子と思われたに違いないと、内心愕然としていた。
「へぇ~すごい! 足早いの? 何かスポーツやってた?」
しかし会長がこうしてぐいぐいとユイに迫ってくるので、少し調子が狂ったように、ユイはぎこちなく返した。
「あ、はい。えっと……陸上やってました」
「わぁ、陸上! みんな聞いた?! 陸上ガールだよ!」
一人で騒ぎ立てる会長に、サフィーが冷ややかな目を向ける。
「妙な絡みやめなさいよ……困ってるでしょ」
それを皮切りに場の空気が少し和み、ユイの緊張も少しほぐれたようで、その口元には笑みが浮かんでいた。
「ありがとう、ユイちゃん。好きな席に座っていいよ」
会長にそう言われ、ユイは軽く会釈して近くの席に座った。両隣には、シシリエンヌと会長が座っている。
「ユイちゃんは、クラウン スフィアのこととか、うちのチームのことは調べてきてくれてるんだよね?」
「はい。一応は」
「まあ、習うより慣れろだから、今回はとりあえずやってみてね。そのためのエキシビションだから」
感覚的な会長にサフィーが引き気味にため息を吐くと、それを面白そうにポニーテールの少女がニヤニヤと眺めていた。
「会長は相変わらず雑だよねー」
「いつもそれでどうにかなってるんだからいいでしょ? じゃあ早速、エキシビションの話に移ろうか」
雑にあしらわれて、しかしながらそろそろエキシビションマッチの話題に移らないと延々と駄弁ってしまいそうだったから、ポニーテールの少女はそれ以上何も言わなかった。
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