たったそれだけの再会
ほんの気まぐれだった。
だってあの子は、わたしのことを覚えているはずなどないのだから。だから、全部1人でやるつもりで、それでも、どうしても会いたくなってしまって。律儀に街の入り口から歩いて行こうと思って。
これはほんの偶然だったのだ。
「アカネ……っ」
まだ早朝だと言うのに、そこには1人の女性が居た。
遠くからでも分かる。ああ、立派な先生の格好をしてる。あの頃よりも髪が少し短くなってる。身長、少し伸びたのかな、分からないや。
――いや、待って。
「……シオン?」
なんで、なんで覚えているの?
どうしてそんな風にうずくまって泣いているの?
まるで、あの時の貴方みたいに。
「――思いだして、くれたの?」
それが嬉しいのか悲しいのか、ちょっと怒ってもいいのか。
分からないわたしの心を最も満たしたのは、
「――シオン!!!!」
「シオン」、だった。
※※※
泣き崩れる私の視界に、ふいに何かが映った。はじめは幻覚だと思ったが、それが現実であるとすぐに分かった。
だってこんなにはっきり見える。
「……この、魔法」
炎の少女が、居た。
ツインテールの少女が、私に手を差し伸べている。ああ、あり得ない。だってこの魔法は、アカネの。
訂正、私はそれが現実であると思いたかった。はっきり見える幻覚に、今は縋りたくて。
「アカネ、なのですか?」
問いかけに炎の少女は答えなかったが、その代わりにそっと抱きしめてきた。
炎の熱に身構えた私は、その優しい温かさに目を見開く。そうだ、この温かさ。やっぱり、これは。
「ごめんなさい……ごめんなさい……アカネ。私は、貴方に酷いことを、押し付けてしまった」
こんな幻覚まで、見るほどに憔悴する資格など、私にはないというのに。
『シオン!!やっぱり、わたしのこと、覚えてるの……!?』
ああ、今度は声まで聞こえている。
「そうでしたね……アカネの声は、こんな感じでした。幻聴と言えど、今だけは少しありがた――」
「幻聴じゃないよ!!こっちを見て、シオンっ!!」
「……え」
ぐいっ、と頬を何かに掴まれて、顔を無理やり引っ張られた。
その視線の先には、シュシュはもうなくなってしまったけれど相変わらずツインテールで、身長は少し伸びたけれど私よりも小柄で、そして。
私の大好きな笑顔を浮かべた、最愛の人の顔が、そこにあって。
「……あ、かね?」
「うん。君の、アカネだよ」
「どう、して……」
「うーん……話せば長くなるんだけどね、えっと」
その困った時にする仕草も、声色も、ああ、アカネだ。
アカネ、アカネ……。
「アカネっ!」
「わっ、ちょ、シオン!?」
私は、もう二度と離すまいと、アカネを全力で抱きしめた。そこには確かにアカネが居て、懐かしいにおいがして。
「⋯⋯貴方のことなど、覚えているわけないでしょう。貴方の魔法は、完璧ですから。私の愛した人の魔法ですよ?5年間――貴方を忘れたままでした」
「……シオン、じゃあなんで」
「分かりません、いや……私は、あの時貴方に隠れて本を書いていたんです。貴方との出会いから、別れまでを記した本を。ちょうど昨晩、それを寮長さんに渡されて、一晩をかけて読むうちに……思い出したのです」
「そんなことがありえるの?だって、わたし――やりたくなかったよ。でも、シオンが言うから。シオンがあんな表情をするの、初めてだったから……ちゃんと魔法、使ったのに」
お互いを確かめあうようにきつく、きつく抱擁をしながら私たちは囁き合う。
ああ話したい事、謝りたい事、沢山あるけれど。
「……アカネ、これからまた一緒に居れますか?」
「――うん。そのために、人間やめてきたから」
「えっ?ええと……詳しく聞かなければいけないことが沢山ありそうですが、ひとまず」
私はアカネを離し、その頬に軽い口づけを落した。
「おかえりなさい、アカネ」
「うん。ただいま、シオン」
今はただ、この再会が幻ではないと、願うばかりだ。
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