最弱推理のSランク冒険者

夜九笑雨

第1話


「シンさん、探して欲しいものがあるんだけど」


僕が冒険者ギルドのロビーで昼寝をしていると受付嬢のレビーが話しかけてきた。


レビーはこのギルドで一番の美人受付嬢と噂されている。


そんな彼女のお願いだ。


男として断るはずがないのだが──。


「眠い」


僕は非常に眠かった。


「そんなこと言わずに話だけでも聞いてちょうだい」


レビーは腰に手を当て呆れたように言ってくる。


ちょっぴりしつこいところがレビーの悪いところ。


そういうところがいいという男もいるらしいが。


このまま断り続けてもずっとついてきそうだから諦めさせることを諦めよう。


「で、探して欲しい物って?」


「猫なんだけど」


「猫?」


一枚の猫の写真を手渡された。


小さい黒猫。


付箋が張られていて、フーちゃんと書かれている。


きっとフーちゃんという名前なのだろう、この黒猫。


「で、このクエストの達成報酬は?」


大事なことなことなのでレビーに確認しておく。


「は? そんなものあるわけないでしょ」


受付嬢にあるまじきことを言いだしたぞ……。


いや、だって、


「アルマジカの捜索依頼が出されていた気がするけど」


アルマジカ。


硬い表皮に覆われた薬の源材料になる魔物。


捜索達成報酬が1000ミアだったか。


「猫と薬の源材料を一緒にしないで」


「えー」


「それにあなたなら簡単に見つけられるからギルドとしてもわりに合わないのよ」


「それってさ──」


「差別じゃないから、区別だから」


そうですかい……。


僕はとりあえず感覚を広げ世界を感じた。


鳥の鳴き声、赤ちゃんの笑い声、街の住人の話し声、空気の温かさ。


時間と空間の亀裂から覗く様々な情報。


世界にアクセスする感覚。


そして、見つけた。


「あそこ」


僕は天を指さした。


つられてレビーが天井を見る。


そして目を丸くした。


なぜなら、冒険者ギルドの垂木部分に呑気に昼寝をかましている黒猫がいたからだ。


「あんなところにどうやって……シン、ありがと。ちょっとあの猫拾ってくる」


「いってらっしゃーい」


僕は手を振りながらレビーを見送る。


ちなみに、僕の名前はシン。


ギルド所属の隠れSランク冒険者。


二つ名は『見つけ屋』。


異世界からやってきた人間は探偵と僕を呼ぶこともある。


まあ、そんな僕は今日も眠いので寝ることにする。


おやすみなさーい。

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最弱推理のSランク冒険者 夜九笑雨 @fujiriu

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