5.記憶は想いに③

「僕はね、おじいちゃんとおばあちゃんの家に行ったら、必ず仏壇の前に座って手を合わせるんだ。僕は会ったことが無いけど、そこにはお母さんのおじいちゃんとおばあちゃんが眠ってるんだって。でね、お母さんがいつも言ってるんだけど、仏壇で手を合わせる時はね、絶対におじいちゃんとおばあちゃんの事を思い出しながら手を合わせてるんだってさ」


 おばあさんはユウタを凝視する。胸の奥から何かが押し寄せて溢れるような感覚に包まれる。


「もう二人ともいなくなっちゃったんだけど、一緒に遊んでもらったり、教えてもらったりした事は、全部じゃなくても自分の中に生きていて、今のお母さんを手助けしてくれる。そうやって言ってたよ」


 ふと、家族の事が思い起こされる。


 夏休み、冬休み、ふとした週末、孫を連れて我が家を訪れてくれた娘夫婦と共に過ごす時間。ただ取り留めもない話をして過ごしたり、或いは孫を連れて近所のデパートへお買い物へ行ったり、遠出をしたり……。


 時には叱る事もあった。孫の行儀が悪い時には大きな声を上げて直接言葉を放ち、娘に対してその事を諭す事もした。


 孫に遊びを教える事もあった。得意なあやとりを孫に教えたらとても楽しそうに見てくれて自分でもやるようになった。

新しい形を発見したら真っ先に自慢しに見せに来てくれた。


 今日、帰るまでに見た家族の事を振り返る。


 自分の事が話題に出る事はなかったが、皆が囲う食卓には家族に教えた料理が沢山並んでいる。その光景は共に食卓を囲うことができなくなってからも変わらない。



 皆一様に笑顔だった。



 沢山ある思い出は、その場所から存在が消えたからといって露と消えてしまうものなのか。




「だからさ、消えることなんてないんだよ」




 ……忘れられてなんていなかった。




 おばあさんは振り返る。

 

 岩に腰を下ろしたままのユウタに近づき、そっとその頭に手を乗せる。


「どうしたの?」

「何でもないわ。ただね……」


 見上げるユウタに優しく伝える。



「ありがとう」



 孤独感に呑み込まれかけていた自身の心をその純粋な気持ちで引っ張り上げてくれた少年に、言葉では表せないほどの感謝の念を乗せて、おばあさんはひと言、力強く伝えた。




「さあ、今度こそ私のお話はお仕舞いよ。次はユウタくんのお話を聞かせて」

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