5.記憶は想いに②
「って、今の今まで考えていたのだけどね」
いきなり大きな声を出したと思ったら、急にケロッと表情を変えたおばあさんを、ユウタは何が起きたのかと目を丸くして見つめる。おばあさんの感情の急激な変化に動揺したのか、鼓動が早く、大きくなるのをユウタは感じた。
「多分ね、私だけ時間が止まってしまって皆んなから置いていかれている事実に、気持ちが追いついていけてなかったのだと思うわ」
ふぅ、とひと息ついた後、「寂しさを感じている事を認められなくなるほどにね」と付け足す。
「人の記憶は移ろいゆくもの。過去の記憶は時間が経てば薄れてゆきやがて消えていく……良いことも悪いことも。私たちはその流れの中にいるに過ぎないのよね。ユウタくんが話を聞いてくれたおかげで、それを受け入れることができそうだわ」
おばあさんはユウタの方を向き、優しく微笑む。胸に引っ掛かって取れなかった物がポロッと落ちてスッキリした、そんな顔つきで話し終えたおばあさんは、両手を合わせてをパチンと鳴らした。
「はい、このお話はお仕舞い。長話に付き合ってくれてありがとう」
そう言ったおばあさんは、岩から腰を上げ大きく深呼吸をしてみせる。その姿はどこか若々しさを感じさせる。一方ユウタはと言うと、大きく息を吸うおばあさんの様子を見ながら、何か引っかかっているというような様子でいる。
「おばあさん」
おもむろにユウタがおばあさんに話しかける。おばあさんはめいいっぱい吸い込んだ空気をはぁーと勢いよく吐き出し、「どうしたのかしら」と聞き返す。
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