5.記憶は想いに①

おばあさんとユウタは少しだけ草原を散歩し、ちょうど二人が座ることが出来るくらいの幅の岩を見つけ、隣り合って座った。


「さっき言った通り、私は毎年一回家族に会うためにこの草原を抜けて、ユウタくんも住んでる街へお出かけしているの。年に一度しか家族には会わないから、毎年本当に楽しみにしているのよ。『この一年は元気で暮らしていたかな』、『今年はどんなお話をするのかな』ってね。家族と同じ空間で同じ時間を過ごす事ができるこの数日間は、今の私にとってはとても大事なモノなのよ」


先ほどまでの雰囲気から若干落ち着きを取り戻したように見えるおばあさんの様子をユウタは真剣な眼差しで見つめる。


「私が家族の事を見守ることしかできなくなって初めの年はね、皆んな私のことを思い出しながら、色々な『思い出』を伝えてくれていたの。その思い出話を聞くことができるだけで、私の心は充分すぎるくらいに満たされていたわ」


とても嬉しかったのよ、そう付け足すおばあさんの表情は落ち着いているようでどこか愁いを帯びている。


視線がユウタから逸れ、広がる草原を瞳に映す。


「でもね、数年も経つとそんな事も無くなっていったわ。毎年のように家族全員集まりはするけど、私の事を話題にしてくれる子は誰もいないし、家族で集まっても何だか流れ作業のようにサッと解散してしまうし……」


語気が強くなる。


おばあさんは自分の中に芽生えていた、自身の家族への苦々しい感情を認識しているが、今はそれを誤魔化すつもりなど微塵もない。


一方のユウタは語気が強くなったおばあさんに動揺するでもなく、神妙な面持ちでおばあさんの顔を見つめ続ける。


「このまま誰も私の事なんて気にも留めなくなって、年月がどんどん過ぎていってしまったら、思い出すらも消え去ってしまうかもしれない」



 家族への 非難 の言葉は止まらない。



「このまま私は家族から忘れ去られてしまうの……?!」


叫び声とも取れるような声で言い切った後、一呼吸置いて静かにおばあさんは言葉を付け足す。

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