3.光を追い、彼は行く⑥
深呼吸を終えた後、ユウタの様子を見計らっておばあさんは口を開く。
「少し、落ち着いたかな?」
ユウタは首を縦にゆっくりと振る。
おばあさんは笑顔で大きく頷く。
「よかったらお名前を教えて」
「荒木っ、ゴホッ…荒木ユウタです」
恐怖で詰まらせていた喉は、深呼吸だけでは通らなかったようで、始めの一言は掠れたような声となる。
少し恥かしくなったユウタは咳払いで声を整え、顔を下げながら上目遣い気味に目線を上にやり、改めて名前を伝えた。
「ユウタくんね……ユウタくんはどうしてこんな所で座り込んでいたのかな?」
ユウタの様子を微笑ましいな、と思いながら見つめていたおばあさんだったが、名前を確認するやいなや、当初聞きたかったことを改めてユウタに尋ねた。
ユウタは駄菓子屋の前で遭遇した不思議な出来事から続く一連の体験を明後日の方向を向きながら口を開く。
「山の近くにある駄菓子屋で、光がフワフワってしているのを見たんだ。それを追いかけてたら、ここに来てた……。何だか不気味な所に思えて、すぐに山を降りようとしたけど、あの石の穴に入っても元の場所に戻れるか分からなくて、怖くて動けなくなったんだ……」
話終えたユウタは目線をおばあさんの方へ向けた。
視線を向けられたおばあさんはと言うと、頬に手を当て、口をすぼませながら「光を……」と呟き、少し困ったような表情を見せている。
しばらく明後日の方を向いたまま何か考え事をしていたおばあさんだったが、ユウタが自分に視線を向けていることに気付き、慌てて話し始めた。
「あら、ごめんなさい。えっと……急に変な事を聞いて申し訳ないのだけど、私ってどんな風に見えるかしら?」
「えっと、おばあさんの格好って事?」
冷たい風が吹く。
相変わらず周りはざわめく若草色と大きな入道雲を携えた水色が埋め尽くしている。
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