3.光を追い、彼は行く⑤
何もない空間で恐怖に押しつぶされかけていた中、突如として声をかけられたためか、ユウタは明らかに大げさに見えてしまうような恥ずかしい驚き方をしてしまう。
足が竦むとはこの事を言うのだろう。
ユウタは自分の中で恐怖のパラメータが限界を突破するのを感じ、足が動かせないでいる。
そんなユウタを他所に声の主は歩いてユウタの正面に回ってきた。
(……おばあ、さん?)
目の前にいるのは、ユウタより一回りほど背の細身の老婦人だった。
「どうしたの?」
おばあさんは心配そうにユウタの表情を伺うが、ユウタは恐怖で顔面を蒼白させ口を開けない。
何か言わなきゃ、ここから動かなきゃ、思考と行動が一致しない事にますます焦りを覚え、鼓動はどんどん早まっていく。
固まるユウタを他所におばあさんは更に近づき、その視線を腰を落としたユウタと同じ高さまで下げる。
自らが恐怖の対象として捉えられている事を知ってか知らでか、柔らかい笑みを携え、「大丈夫だから、まずはゆっくりと深呼吸しましょう」と伝える。
おばあさんは自身の胸に手を当て、大袈裟に息を吸って吐く動作をしてみせた。
ユウタも釣られるように深呼吸を始める。
震えが止まらず、うまく息が継げない。
心臓の脈打つ音がいつもより大きく聞こえる。
おばあさんは、震えながらも深呼吸を開始したユウタにほほ笑みながら「落ち着いて、自分のペースでね」と伝え、自身も深呼吸を続ける。
_____息を吸う、鼓動は空気に押され早くなる。
_____息を吐く、心は徐々に落ち着きを取り戻す。
何度か繰り返すうちに、ユウタは恐怖心が自身の中から少しずつ薄れていくのを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます