第2話

「とりあえず中入っ…いや知らない男の家に上がらせるのはどうだろう…」


俺は目の前の美少女を前にして思考を巡らせていた。

なぜ彼女が俺の部屋の前でうずくまっているのか理由は分からないが様子を見るに深刻そうだった。

話を聞いてそれからどうするか決めよう。


「家はどこだ?」


迷子という可能性が頭に浮かんできた。

ごく当たり前の可能性が抜けていた。

それほどまでに俺は焦っていたのだろう、理由も聞かず家の中に入れようとした自分が恥ずかしく思った。


「上です」


「…うえ?」


たった一言彼女はそう言った。

意味がわからずオウム返しのように彼女の言葉を反芻する。


「そう上、私の家は空の上の上の上【天国】にあります」


「は?」


人差し指を立てて上を指さす彼女に話がついていけない俺。意味が分からない。なんて言った?てっ天国?


「天国って…」


いや、デタラメを言っているのだろう。

天国から来たなんて想像がつかない。

首を振り頭を落ち着かせる。


「そうか…キミ名前は?」


「忘れました」


「忘れたぁ…」


ガックリと肩を落とす俺をぽかんと見つめる彼女。

すると冷たい風が頬を触った。


「さむ…詳しい事情は中で話そう、部屋に入って」


結局俺の家に上がらせることにした。

詳しい話を聞くのには時間がかかるし、外に晒されてるここで話すのも気が引ける。俺はドアノブに鍵を指して回し扉を開けた。


「…そうだった」


部屋片付けてないんだった。

玄関から奥の部屋までからペットボトルやカップラーメンのゴミが至る所に落ちてある。

そしてその奥の部屋には…いや考えたくもない。

ここ最近忙しくて身の回りの家事が全くできていなかった。急いでその場に落ちてあるゴミを拾い上げる。


「…どうしましたか?」


ドアの隙間から覗いてくる彼女。

視界に俺の放置していたゴミを見つけると目を見開く。恥ずかしい…。そして申し訳ない。


「部屋片付けるからちょっとまってて」


彼女に笑いかけてそういうと(上手く笑えているかどうかは分からないが)ドアをぐっと押して入る彼女…


「え!ちょっと待ってって」


スタスタと俺の横に経つと両手を組み祈るようにして何やら唱える。ぶつぶつと話していてよく聞こえないが呪文のようなものだろう。


「ゼーレンライニグング!(浄化する)」


途端下から風が巻き起こった。

思わず目を瞑る。ゆっくりと開けた時には、至る所に落ちていたゴミが綺麗さっぱり無くなっていた。


「え?何が起こった、ゴミが…消えた?」


説明を求めて彼女の顔を見るとにっこりと微笑んだ。


「どうですか?私の力は、凄いでしょう!少々汚かった部屋が綺麗さっぱりになりました!」


えへんっと効果音がつきそうなドヤ顔。

チラチラとこちらを見る感じ褒めて欲しそうだ。

そういったところはなんというか…年相応に見えて可愛らしい。


「ありがとう助かったよ」


そう伝えると「えへへ」とはにかんで頬をかく彼女。

天国から来たというにわかに信じ難い話だが、容姿や先程の力を見るに信じざるを得ないだろう。

綺麗になった廊下を抜け、部屋の扉を開けると更に綺麗になった部屋。電気をつけると、一目瞭然だった。放置していた床のベタベタもフローリングが輝くように綺麗になっている。

本当に凄いな。


ふんわりとしたソファに彼女を座らせ話を聞くことにする。


「お茶入れるけど温かいのと冷たいのどっちがいい?」


「温かいのでお願いします!」


「了解」


キッチンに向かいポットで湯を沸かして粉末茶をコップに入れてお湯を注ぐ。

スプーンでくるくるとかき混ぜてテーブルの上に置く。彼女と俺の分のふたつ。

今日はお酒を買ってきたが流石に初対面の人の前で飲むわけにはいかない。更に俺の部屋だし…。


取っ手の部分を彼女の方に向けて渡すと、取っ手とコップの底を支えるようにして両手で受け取った。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


律儀な子だなぁ…そう関心しながらテーブルの向かいに座る。


「いやちょっと待ってください!」

何やら慌てた様子で彼女が立ち上がる。


「?どうした?」


「この家の主人を床で座らせる訳にはいきませんよ!場所変わります!」


そう言って俺の所へ移動してくる彼女を止める。


「ちょっ待て俺は大丈夫だから」


「ですが…」


「むしろ客人を床に座らせる方が居た堪れないだろう、俺は良いから」


そう言ったものの彼女は何やら納得していない様子。


「でしたら隣に座ってください」

ソファのところに戻り座って隣りをぽんぽんと叩く。


「なんでそうなる!?」


「これなら私も貴方もソファに座れます!」


目をキラキラさせて言う彼女に俺は


「そうだね…」


と頷くしか無かった。










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