ギルド職員の裏稼業~最強のヒーローを育てるのは俺だ~

フユリカス

ギルド職員の裏稼業~最強のヒーローを育てるのは俺だ~

 俺の名前はレイ。

 ギルドの職員として、主に事務仕事をしている。

 年齢は二十七歳で、日々の業務は書類整理や冒険者の登録手続きがメインだ。

 冒険者としては微妙な経験しかないが、それでも俺はこの世界でやっていける自信がある。

 なぜなら、俺には一つ、いや、二つの大きな武器があるからだ。


 まず一つ目は、これまで学んできた知識だ。

 この異世界に転生してから、俺はこの世界の戦闘技術や魔法を学んできた。

 そしてもう一つ、それが俺の「育成能力」だ。

 俺には、誰にでも教えることができ、秘められた才能を引き出すことができる。

 まあ、表向きにはただの事務職員だから、それを知っている者は少ないんだけどな。


 そんなある日、ギルドに一人の少女が登録に来た。

 その少女の名前はリナ、小さな体躯の彼女は依頼者ではなく冒険者になるためにギルドに来たらしい。

 しかし、リナには一つ重要な欠点があった。

 それは――魔力が全く安定していないことだ。


「初めまして、レイです」


 リナに名乗りながら、俺はその顔をじっと見つめた。

 彼女は若干緊張しているようだが、目の前の俺をじっと見つめてきた。


「リナです……よろしくお願いします」


 彼女は小さな声で返してきた。

 ギルドの新人にはよくあることだが、一見すると彼女は特別な力を持っているようには見えなかった。

 ただ、俺にはどこか力強さを感じるものがあった。

 俺ならばその力を引き出せる自信がある。

 だから、思い切って提案してみた。


「君、少し訓練してみないか?」


 俺がそう言うと、リナは目を丸くして驚いたように俺を見た。


「え? 訓練って……」


「君には潜在的な力がある。だが、このままではその力を発揮することなく終わってしまうだろう」


 俺は冷静に彼女に説明する。


「俺が教えれば、君のその力を引き出せる自信がある」


 リナは少し考えてから、やっと頷いた。


「お、お願いします……!」


 その瞬間から、俺の育成が始まった。



 ◆◇◆



 リナの訓練を始めた最初の数日、思った以上に順調だった。

 彼女は素直に指示に従い、一生懸命に努力していた。

 ただ、魔法に関してはやはり最初から安定しない。

 俺はリナに、まずは体を鍛えさせ、その後で魔法の基礎を教えることにした。


 訓練が進むにつれて、彼女の成長速度は目を見張るものがあった。

 最初は魔法の使い方も不安定だったが、徐々にその力を安定させ、あっという間に周囲の冒険者たちに追いつくどころか、抜き去ってしまった。


 だが、それと同時にギルド内での噂も広まり始めた。

 俺がリナに何か怪しい薬でも飲ませているのではないかとか、彼女がこんなにも結果を出すのは俺と結託して不正をしているからだとか。

 その成長のスピードに、上層部の一部までも不審を抱き始めたのだ。


「レイ職員」


 ある日、副ギルド長のセバが俺を呼び出した。

 彼は俺をじっと見つめながら、


「君のやり方に疑問を持っている者がいる」


 と、言った。


「疑問?」


 俺は無表情で聞き返す。


「リナという冒険者の成長が早すぎる。新人がたった数ヶ月でああなるとは思えない」


 セバは眉を顰めた。


「君のやり方には、我々にも疑問が残るのが実情だ。これ以上続けると、ギルドの方針に反することになるかもしれん」


 俺は内心で冷静に思う。

 まあ、当然だろう。

 俺がやっていることは、常識的な訓練方法ではない。

 だが、俺には確信がある。

 リナには無限の可能性があり、その力を引き出すことが俺の生きがいなのだ。


「リナは、まだまだ伸びしろがある」


 俺は淡々とセバに返す。


「それに、これが最良の方法だ」


 セバは黙って俺を見つめた後、ため息をついて言った。


「君の信念は分かった。ただ、今後は注意してくれ。私だって優秀なギルド職員を失いたくないのでな」


 そう言葉を残し、セバは部屋を出て行った。

 俺はその背中を見送りながら、心の中で誓った。

 俺の育成は誰にも屈しない、と。



 ◆◇◆


 そるから数日後、魔法の訓練を進めるうちに、俺はあることに気づく。

 リナには、ただの訓練では引き出せないような力が秘められていると。


「君には、特別な力がある。だが、それを制御するにはさらなる訓練が必要だ」


 俺はリナに伝えた。


「さらなる訓練、です?」


「ああ、その通りだ。でも、これから君に課すのは、ただの訓練じゃない」



 ◆◇◆




 俺は冷静に言いながら、次の試練を思い描いていた。


 その試練とは――幻影の森での精神的な訓練だった。


 それから数日後、俺はリナにさらなる訓練を課すために、ある場所へ向かっていた。

 さらなる訓練――それは、彼女の心を鍛えるための試練だ。

 体力や魔法だけでは、最強の冒険者にはなれない。

 強くなるためには、心も鍛える必要があるのだ。

 具体的には、ギルドの外れにある『幻影の森』へと連れて行き、そこで訓練をする。


「リナ、この訓練は厳しいぞ」


 俺はリナに告げる。


「君の心を強くしなければ、本当の強さは手に入らないからな」


「はい、わかりました!」


 リナは決意を固めた様子で答えた。


『幻影の森』は、冒険者たちも避けるような場所だ。

 あそこでは、心の弱点が具現化し、目の前でそれが試されるという。

 リナには、過去の恐れや弱点を乗り越え、最高の冒険者になってもらうのだ。


「ここが『幻影の森』だ」


 俺はリナに説明する。


「ここでは、君の最も恐れるものが具現化する。それを乗り越えることで――君は強くなれる」


 リナは少し緊張していたが、俺の言葉に従い、森の中へと踏み込んでいった。

 深い森の中は、空気が重く、圧迫感を感じる。


 その時、リナの目の前に、彼女自身に似た少女が現れた。

 少女は泣きながらリナに手を差し伸べ、叫んだ。


「助けて……!」


 その声に、リナの顔が青ざめた。

 彼女の恐れていた過去、目の前に現れた少女――それはリナ自身の過去の姿だった。

 彼女の記憶の中で、最も深く、最も痛みを伴った部分が具現化したのだ。


「お願い、助けてよぉ……」


 その声に、リナは青褪め、汗を流し、足を止めた。

 彼女の目の前にいる少女は、まだ幼い頃のリナそのもので、涙を流しながら懇願している。

 リナはその場に立ち尽くし、過去の記憶が一気に蘇っているのたろう。


 俺はその様子を黙って見守っていた。

 後で聞いた話だが、リナは、幼少期に魔物に襲われ家族を失い、彼女ただ一人だけなんとか生き残ったそうだ。

 そうして孤独の中で成長し、冒険者になった。

 だが、彼女の心に残る最も大きな痛みが消えたわけではない。

 それが今、目の前に現れている。


「や、やめて……私はもう、過去を引きずってはいけないって決めたのに!」


 リナは、幼い自分に叫ぶように声を上げた。

 だが、少女は涙を流し続けている。

 リナはその姿を見て、昔の自分を思い出す。

 心の中で「どうして助けられなかったんだ」と自問自答し、過去の自分を責める気持ちが込み上げてくる。


「私は……私は、どうすればいいんの?」


 リナは震える手で頭を抱えた。

 その時、俺は静かに彼女に声をかけた。


「リナ」


 俺の声が、静かな森の中で響いた。


「君はもう、過去を超えた力を手にしているんだ。過去の自分を……痛みを引きずる必要はない」


「でも……!」


 リナは顔を上げ、俺を見た。

 目にはまだ涙が浮かんでいる。


「それに、君はもう一人じゃない。俺もここにいる。今、目の前にいる君を見て、君がどれだけ強くなったか俺が一番よく知っている」


 俺は少し歩み寄り、リナの肩に手を置いた。


「君は、その痛みを乗り越えてきたんだ」


 リナの目が揺れる。

 心の中で葛藤が渦巻いているのが見て取れた。

 過去の自分に対する責任感と、今の自分の成長に対する誇りが交錯している。


「でも、私は……!」


 リナの言葉が途切れる。

 その瞬間、俺ははっきりと理解した。

 この試練は、リナが過去の自分と向き合うことに意味があるのだ。

 過去の痛みや恐れを無視しても、それは決して乗り越えたことにはならない。

 リナは、その痛みを認め、受け入れることで本当に強くなれるのだ。


「リナ、過去を乗り越えたということは、過去の自分を否定することではない。それを受け入れ、前に進む力に変えることだ」


 俺はリナにそう言った。

 リナはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと頷いた。


「わかりました……! 私は、過去の自分を受け入れます」


 その言葉とともに、彼女の目に浮かんでいた涙が、少しずつ乾いていく。

 少女の幻影は、リナが受け入れの証として過去の自分を抱きしめるようにすると、次第に消えていった。

 森の空気が一変し、リナの周囲に穏やかな風が吹き抜けた。


「よくやったな」


 俺はリナに微笑みかけた。

 リナは少し恥ずかしそうに頭を掻きながらも、力強く言った。


「ありがとうございます、レイさん。私はもう、過去を引きずりません」


 その言葉に、俺は心の中でほっとした。

 リナは確実に成長し、心の中でも一歩を踏み出したのだ。



 ◆◇◆



 幻影の森を抜けると、リナは大きく息を吐き、目を輝かせていた。

 だが、その目にはまだ、少し疲れた様子が見て取れた。それでも、彼女の顔には確かな自信と誇りが浮かんでいた。


「よく頑張ったな、リナ」


 俺はリナの肩を軽く叩いた。


「君は、確かに一歩強くなった」


「はい! ありがとうございます!」


 リナが笑顔を見せる。

 その笑顔は、以前の不安そうなものとは違い、自信に満ちていた。


「次は、もう少し強くなってもらわないとな」


 俺は軽く微笑んで言った。


「まだまだ君の力を引き出す余地があるからな」


 リナは少し不安そうに顔を歪めたが、すぐに笑顔に戻った。


「ええ、もっと強くなって、いつかレイさんを驚かせます!」


 その決意を感じた時、俺は思わず心の中で呟いた。


 ――君は、もっと強くなる。そして、いつかは俺の最高傑作になるだろう。


 その日、俺はリナが最強の冒険者へと一段成長したのを見届けることができた。

 これからも、彼女を支え、彼女の力を引き出していくことが、俺の使命だと確信していた。


 だが、ギルド内での今後の動きが気になる。

 セバや他の上層部がどう動くか次第では、リナの成長を守り続けることが難しくなるかもしれない。

 それでも、俺はリナを育てる決意を新たにした。


 これからが、本当の試練だ。

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