第1話 厳粛なるシエンス共和国議会①
余白の多い大きな会議室の中央で、7名の議会員と2名の参考員がおごそかな長方形テーブルを囲んでいた。
ここはシエンス共和国の国政会議、シエンス共和国議会の場である。
上座から大統領、副大統領、5名の各省長官が順に席を埋めており、少し離れた下座側に臨時召喚された科学省開発主任の2名が座っていた。
この2名の開発主任のうちの片方こそが、件のマッドサイエンティスト、ベント・イニオンである。
ベントは出席者の顔を順番に見ていた。
それぞれの名前を思い出しているのだ。
明日には忘れているだろう、などと考えつつ、顔、名前、肩書き、年齢などのバラバラに持っていた情報を一致させる仕事をしていた。
「さて、次はウィルド王国侵攻計画についてですが、ティリー軍事省長官、進捗の報告をしてください」
議会はディスティーナ・ラトミン副大統領が議長を務めており、彼女が会議を進行している。
その彼女に指名されたのは、スキンヘッドの強面の男、リーマ・ティリー軍事省長官だった。
「はい。シエンス軍の軍備は万全です。あとは戦略兵器の完成を待つばかりとなっております。その戦略兵器開発の進捗については、サイス科学省長官から報告をお願いします」
ここで指名されたのが、科学省のトップでありベントたちの直属の上司でもあるネス・サイス科学省長官である。
白髪の混じったオールバックの下で放つ眼光は、ほかの長官たちを威嚇するかのような力強さを備えている。
その外見に見合う声で彼は報告を始めた。
「はい。科学省では2チームに別れ、それぞれで兵器開発を進めております。第1チームはリベール・オリン開発主任の指揮のもと、投下型核融合爆弾を開発しております。第2チームはベント・イニオン開発主任の指揮のもと、超感覚刺激波発生装置を開発しております」
「前回の報告ではまだ検証事項が多いとのことでしたが、チームリーダーが来ているということは、大きな進展があったということですか?」
議長の視線が若き開発員のふたりに刺さり、ほかの視線もそれに続く。
サイス科学省長官の目配せをした先はオリン開発主任だった。
淡い金髪と長身痩躯は見つめるだけで折れてしまいそうだが、彼は見た目に反して堂々と報告を始めた。
「はい。投下型核融合爆弾の通称を投核弾とさせていただきます。この投核弾の理論は以前から構築済みでしたが、使用するにはリスクが高すぎるのではないかという懸念がありました。下手をしたら被害範囲がシエンス領土まで及ぶのではないかと。しかし、この点については解消に至りました。というのも、太陽系の地球で同様の兵器を実際に使ったという記録が見つかっております。その記録を元に算出すると、現在開発中のものは威力としてはウィルド王国の首都のみを破壊する程度に納まる見込みです。これでウィルド王国の中枢を壊滅させ、王国を完全に掌握できるはずです」
シエンス共和国の科学力は特に移動技術と観測技術が進んでおり、銀河系内にある遥か遠い惑星から独自の文明や技術を取り入れたりしている。
シエンス共和国においては、その対象惑星のひとつでもある地球から取り入れた技術や概念が特に多い。
「それはすばらしい報告ですね。その投核弾の完成までには、どれほどの期間がかかりますか?」
「試作品は完成済みですが、実使用テストが必要です。そのため完成時期はテスト日程の調整により大きく変わります。また、安定的な製造設備の導入が必要になります。こちらは回していただける費用によって変わってきます」
「わかりました。そちらについては別途、調整会議を実施します。では、超感覚刺激波発生装置についてはどうですか?」
今度はすべての視線がベントへと向けられた。
普段はあまり声を張るほうではないが、広い会議室にふさわしい声量を努め、現状の報告を始める。
「はい。超感覚刺激波発生装置についてですが、こちらは通称を《Generator of Extrasensory Stress wave》から取ってGESとさせていただきます。GESの開発は小型試作版が完成しており、効果も実証済みです。人間以外の生命に照射すれば、その者の感覚を麻痺させ、完全に無力化することができます。あとはひとつの装置で多人数を相手に効果を発揮できるよう大型化すれば実戦で使用可能です。こちらの装置を用いれば、無血のうちにウィルド王国を占領することも可能となります」
ベントが報告したあと、しばしの沈黙が流れた。
それはまるで空気が凍ったような雰囲気だった。
報告に何か失言でもあったのか。
臨時召喚されたベントには普段からこのようなことがあるのかわからないが、議会のこれまでの流れからすると、どうしても異様な雰囲気に感じられた。
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