第5話 戦う理由
私はトカゲもどきと手を繋いだままダンジョンの外に出た。
う、眩しい!
今まで暗いダンジョン内にいたから外に出たらいきなり太陽の光が眩しく感じる。
あれ? ここってモンスター世界だよね?
普通に空に太陽があることに私は驚く。
空も人間界と同じく青い。
一瞬、人間界に戻ったのかと思ったが私の手はトカゲもどきが握ったままだ。
モンスターたちが人間界に来ることはないだろうからやはりここはモンスター世界なのだろう。
「おお、ご苦労様。第六班は無事に生還できたようだな」
「はい。係長。第六班。全員生還です」
私の目の前に空中に浮いている一つの大きな目玉から触手がいっぱい出ているモンスターが現れた。
そのモンスターに私と手を繋いでいたトカゲもどきが元気に報告する。
ひい! 触手系モンスターって初めて見るけど怖い!
「うん? その娘は誰だ?」
「あ、このお姉ちゃんはダンジョンで迷子になっていたから連れて来ました」
「ふむ。もしかして人間か?」
目玉触手モンスターが私を訝し気に見た。
疑われてる。どうしよう。
人間って認めた方がいいのかな。
どうするべきか私が心の中で焦っていると私の代わりにトカゲもどきが答える。
「いえ。お姉ちゃんは人型モンスターですよ、係長。これからモンスターお役所の面接に行くらしいんだけど迷ってダンジョンに入っちゃったみたいです」
目玉触手モンスターは警戒を解いて先ほどより優し気な視線になった。
「そうか。新しい職員候補か。それなら大歓迎じゃ。えっと帰還記録をつけないとな」
そう言ってペンを触手で器用に持ちノートに何かを書き込む。
触手モンスターって意外と器用なんだね。
触手だと思うから恐いけど手が何本もあると思えばいいのか。
手が何本もあると便利かも。
触手を普通の人間の手のように使っているのを見て私は感心してしまいそんなことを考える。
「第六班は無事帰還と。よし、これでいいだろう。第六班は明日から三日間の休暇を取っていいぞ」
「やったね! みんなお疲れさま~」
「やれやれ、少しは疲れが取れるわい」
トカゲもどきたちが嬉しそうに笑顔になる。
だが私は先ほどから聞いていたトカゲもどきと目玉触手モンスターの会話の内容が気になった。
「あ、あの、無事に生還できないモンスターさんたちがいるんですか?」
「うん? ああ、だって人間に殺されちゃうこともあるからさ。ダンジョン係って給料はいいけど命懸けの仕事なんだよね」
トカゲもどきは普通に話してるけど私は心が重くなる。
人間とモンスターがダンジョン内で戦っているのは学校で習った。「戦士」と呼ばれる人間も亡くなる時もあると。
それはモンスター側も同じなのだ。
「あの、人間とモンスターって何で戦ってるんですか?」
そんな疑問が口から出る。
「え? そりゃ、人間から一般モンスターを護るために決まってんじゃん。僕たちは役人モンスターだから一般モンスターを護るのもお仕事のひとつなんだ」
仕事………仕事で命を懸けるの?
「それにさ。僕たちも家族を養わなきゃいけないし。大切な家族を護ることができるのは僕たちにとっては誇りさ」
家族………モンスターさんたちも家族を護るために戦っているんだ。
そう思うと私に家族のいるこのトカゲもどきが戦って死ぬ姿を見たくないという感情が湧き上がる。
「人間と戦わない方法は無いんでしょうか?」
「う~ん。基本方針は上のモンスターが決めることだから僕も分からないけど、でもさ、人間って僕たちを見ると問答無用みたいにいつも攻撃してくるから話し合いにもならないよね」
確かに。先ほどダンジョンでモンスターを見つけたら「戦士」はすぐに攻撃をしていた。
それは人間であれば普通の行動だ。ましてや彼らはモンスターと戦う「戦士」なのだから。
何だろう。
何か心がモヤモヤする。
「かかりちょーーー!!」
「何だ騒がしい」
そこへ大きな蝶のようなモンスターが飛んで来た。
「大変です! 所長が抜き打ち視察にいらっしゃいましたあああーっ!」
「なに!? 所長が!」
「ぴゃ! 所長が来たの!?」
目玉触手モンスターもトカゲもどきたちも慌てている。
所長って誰のことだろう?
みんながこれだけ慌てるんだから偉いモンスターなのかな?
「所長ってどなたですか?」
「お姉ちゃん! 所長って言ったらモンスターお役所のトップの所長だよ!」
へ? モンスターお役所のトップ?
ということは私の上司になるかもしれないモンスターってこと?
それは大変だ! 最初の印象が悪いと面接もダメになっちゃう。
突然の未来の上司になるかもしれないモンスターの登場に私も焦りを隠せない。
ど、どうしよう。自己紹介から始めるべき?
それに自分は人間だって言った方がいいのかな。
トカゲもどきたちも右往左往していた。
「何を騒いでおる」
私たちが騒いでいると低い美声がその場に響き渡る。
声のした方を見るとそこには人間の姿をした美しい銀髪に赤い瞳をした男性が立っていた。
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