第4話 迷子
私は隠れている岩陰からモンスターたちの方を見た。
「ヨロゴン、大丈夫? けっこう攻撃受けてたけど」
「いやあ、ワシもそろそろ引退かもじゃな。鎧の硬度が年々落ちているからなあ」
トカゲもどきが鎧のモンスターの身体の様子を確認している。
へ? モンスターって人の言葉話すの?
「すまんな。ヨロゴン。俺たちはあの銃弾って奴に弱くてな」
今度は狼のような獣姿のモンスターが鎧のモンスターに謝っているようだ。
「なに、これも仕事の内じゃわい。これで勤務評価ランキングが上がれば特別ボーナスもらえるしのお。ふぉっふぉっふぉ」
鎧のモンスターの顔は兜を被っていて表情は分からないが笑っているらしい。
え? なんなの、この穏やかな空気は………
モンスターって人間を食べてしまうようなモノじゃないの?
あ、でも人間が食べられてしまうなら私はモンスターお役所に就職なんて無理よね?
そこで私はあの職員募集の紙を取り出す。
よく見たらこれって日本語で書かれてるもんね。
つまりモンスターたちは日本語を使っているってことだよね。
今話している言葉だって日本語だから私にも分かるんだし。
さっきまで恐怖だけしか感じていなかった私だが少し冷静さを取り戻した。
四体のモンスターはヨロゴンと呼ばれていた鎧のモンスターの身体を庇うように手を貸しながらダンジョンの奥に行こうとする。
その様子を見て私は再び慌てた。
ちょっと待って! 私を置いて行かないで!
ここに置き去りにされたらダンジョンを抜けることも入り口に戻ることも出来ずに死んでしまう。
そう思った私はとっさに岩陰から出てモンスターたちに声をかけた。
「ちょっと待ってください! 私も連れてって!」
四体のモンスターが一斉に振り返る。
「………………」
「………………」
私と四体のモンスターの間に無言の時間が流れた。
「ぴゃ! にんげん!」
トカゲもどきが一番早く正気を取り戻し叫ぶ。
「ガルルルル」
狼のようなモンスターが牙を見せて私を威嚇してきた。
死神のようなモンスターも鎌をかまえて鎧のモンスターも剣を私に向ける。
いやいやいや、今までの和やかな雰囲気はどこへ行ったのよ!
私は敵じゃないですからあああああーっ!!
「す、すみません! 私はモンスターお役所に面接に行きたいだけなんです!」
私は職員募集の紙をモンスターたちに見せながら必死になって説明した。
四体のモンスターはお互いに顔を見合わせていたがモンスターたちから殺気が消える。
「なんだあ! お姉ちゃんって人型モンスターかあ! びっくりさせないでよお!」
トカゲもどきがホッとしたように声を出した。
ひ、人型モンスター??
「あ、あの………」
「お姉ちゃん、モンスターお役所の面接行くんでしょ? 何でこのダンジョンにいるの?」
「え? あ、えっと、道に迷って……?」
「あ、分かった。お姉ちゃんって、里を出てきたばかりなんでしょ?」
「さ、里?」
トカゲもどきはスッカリ私に気を許して近付いてきた。
よく見ればトカゲの顔はしてるが瞳が丸くてちょっと可愛くも見える。
モンスターに可愛いって言ったら失礼だよね。
ここでトカゲもどきの機嫌を損ねてまた攻撃されるわけにはいかない。
「自立するために里を出てモンスターお役所の面接を受けに来たんでしょ?」
確かにモンスターお役所に就職するのは親から自立するためなので私はトカゲもどきに頷く。
「は、はい。親から自立したくて……」
「分かるよ、その気持ち。僕たちモンスターは自立できたら大人の仲間入りだもんね」
え? そうなの? モンスターって親から自立しないと大人と認められないものなのか。っていうかモンスターにも親がいるのね。
私は自分の描いていたモンスターに対してのイメージが変わっていく。
「このダンジョンは人間の世界と繋がっているから危ないよ。いくらお姉ちゃんが人型を取れる上級モンスターでも自立する前じゃ人間には勝てないもの」
上級モンスター?
人型モンスターって上級モンスターなの?
私は頭にはてなマークばかりが浮かぶがここは人間ってことを隠しておいた方がいいかもしれない。
このダンジョンで頼れるのはこの四体のモンスターしかいないのだから。
「ごめんなさい。モンスターお役所の場所が分からなくて」
「だったら僕たちについてきな。これでも僕たちもモンスターお役所の役人だからさ」
「え? 貴方たちはモンスターお役所の役人なんですか?」
「うん。今はダンジョン係やってるからこうやって人間と戦ってるんだ」
ダンジョン係………?
いろんな係があるのかな。
「さあ、他の人間に見つからないように一緒に帰ろう」
トカゲもどきが私の手を掴む。
なぜかその手は温かく感じてトカゲもどきも生きているモノだと私に伝えてくる。
いつの間にかもう恐怖は消えていた。
「よろしくお願いします」
「うん。じゃあ、みんなで帰ろう」
「そうじゃな。人間に会うと危険じゃからな」
鎧のモンスターもそう言って私を護るかのように背後についてくれる。
モンスターさんって意外といい人?
いや、いいモンスターなのかな?
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