第6話 聞いてはいけないことを、聞いてしまった

 さて、こちらは冒険者ギルド『キノッピー』。

 酒場のようなホールの一角で、荒くれ者達はおおいに盛り上がっていた。


 酒の肴は勿論、パトリシアとサフィールについてである。


「おい、マジかよ。サフィール様、二階の特別室に連れてっちゃったぞ」

「登録証に名前書かせるふりして、隅っこで口説いてたってことか?」

「そういえばメガネを外して、キスする一秒前みたいな感じだったな」


 まさかあのサフィール様が――?


「あのガタイで迫られたら、嫌でも怖くて拒否できないんじゃないか?」

「個室に二人きりか……さすがに心配だな。おいイサラ、お前ちょっと見てこいよ」

「ですがサフィール様に限って無体を働くなんてそんなこと……」


 まぁでも万が一もあるからなと、イサラは足を忍ばせて二階に上がり、特別室の扉前で耳をそばだてた。


『俺が衣食住の面倒をみてやろう』


 ――え?

 出会ったばかりの少女の、衣食住を!?


 イサラは仰天してペタリと尻餅を突く。


『その代わり、やるべきことはやってもらうぞ?』


 あんな成人して間もないような無垢な少女を囲った上、対価としてその身体を――!?


 聞いてはいけないことを、聞いてしまった。


 地を這うようにして逃げるイサラ。

 心臓がドッドッと跳ねる音が五月蠅くて、その耳にはもう何も届かなかった。




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