第29話
「初詣は行ってないなぁというか行かないなぁ。人混み嫌いだから近寄りたくもないね。ラッキー求めてコロナにかかったら天に中指立てたくならない? みんなもマスクは徹底しとけー。おや初見さんアケオメー、こたつ猫くらいまったりしてけー」
ちょっと初見多め。正月ってテレビに飽きた人を取り込むチャンスなのか? 時代の先いってます感出してるけど所詮はサブカル、テレビパイセンにはまだまだ勝てないっスよ。
黎明期のVtuberがテレビ出演して氷河期がぬるま湯に感じるほどスベリ散らかしてた光景は軽くトラウマだからな。いやもう放送事故と呼んでいいくらい可哀想だった。アレはテレビ側も悪い。カラオケ好きな一般人をアメフトの祭典スーパーボウルに連れて行って国歌斉唱させたらどうなるか分かるでしょ。今思うとテレビ局の悪意だったのかも。縄張り荒らす敵だもんね。
「正月番組はお笑いだけ観るけど、少しせつなくなるんだよね。推しが全然売れないから。スッゴク笑ったネタがあって、そのネタを披露したコンビが出るネタ見せ系の番組は楽しく観てたのに、いつの間にか解散していて、片方だけが芸人として活動を続けて裸芸でブレイクした時の悔しさときたら。お前もっと知性派のコントしてくれたやん?」
不良が口喧嘩しながらゴミ拾いや分別するコントは笑いながら感動してたのに、安心して下さい、じゃねーよ目を離した隙に何があったんだよ。
あとエアギターでブレイクしたヤツもっ。漫才が好きだったのに相方は怪談語る人になってるしなんなん。
[あるある]
[私個性的アピのあるある?]
「あー分かる。俺も自分で言ってて思った。でもそれ言っちゃうと全員仲良く自爆スイッチポチッとな、て分かってる? こんなマイナーな配信観てるってそりゃあもう」
覆面被ってパンイチで格ゲーの必殺技を出そうと頑張る動画でも投稿してやろうかゴラぁ。物理無視した精神生命体だからわりと実現可能という。
飯食って深呼吸して寒さに震えながらママチャリを漕ぐ無駄に細マッチョな怪人物のどこが物理無視かは自分でも疑問だけど、おおよそ分かった気ではいる。しつこいけど理屈じゃないからテキトー。
俺は俺の思い込みで作られている、てな感じらしいぞ。
[もっと人気があってもいいのにドンマイ]
[喋りながら外さないってスゴ]
[今年はイケるかも?]
「いや俺って結構勝ち組側なんだぞ。個人勢の男部門では上位いってんじゃないの? 調べたことないから知らんけど」
少なくとも知ってるスゴイ個人勢はみんな女性だし。あとは日本一とか言えるくらいゲームの上手い人たちだけだぞ。
お、ゲームといえば。
「プレイを褒められるの久しぶり。サンキュー初見さん」
もう惰性でやってる状態のFPS。思考のリソース五パーセントしか使ってない感じ。
[勝ち組がンな書初め貼るか]
[チーター?]
[素直にスパチャ解禁すれば]
三が日限定、画面右下のガワに書初め持たせてる。勝訴、の構えで貯蓄。
去年は使いすぎて通帳の数字が悲壮なんだよ。最大というか最小四桁とか金銭感覚狂った大学一年生の春かよ。
流石に今は持ち直してる。配信関係以外は金遣い荒くないし。でも余裕って大事ということで。
「ククク、チーターと思うくらい上手いって良い褒め言葉じゃん」
コメントから悪意を感じたからそういう意味なんだろうけどあえて逆に捉えてお礼。
[いやどう見てもWHじゃんw]
フィーシュ。煽られてるって自覚もなく誘導されちゃってカーワイー。にしても正月に湧くなよ害虫が。
「ウォールハック、壁が透けて見えてる不正って? そっか君にはそう見えちゃうかー。よーし折角だからお年玉。今日は賢い立ち回りとはどういうことか解説してあげよう。ウチのリスナーにガチプレイヤーはいないと思うけど、知っておくとそれだけでも上手くなるぞ」
キャラを操りトコトコ歩かせる。どのポイントが面白いかなー?
「ランクマッチしてたりそういう配信観てる人はピンとくるけど、チーターってさ、最上位とそのひとつ下のランク帯に大量に混じってる。最上位は当然として、ひとつ下ってどういうことか分かる? チーターには大きく分けて二種類いるんだよ。プロ、元プロ、プロを目指している人、そういう上手い人が大会で結果を出さなきゃって追い詰められたり魔が差して不正をしてしまうパターン。ドーピングしちゃうアスリートと同じ。ドーピングはダメだけど、そのアスリートは不正しなくても相当上手いことに変わりはない。ただただ努力を台無しにした残念な人、でしょ。そんなチーターは最上位にいる」
上手い人がズルしたら当たり前だね。
「もうひとつのパターンが、なんの努力もしてないしする気もない正真正銘の雑魚が不正に手を出した結果のチーター。自動で照準が合うオートエイム、障害物を無視して他プレイヤーがどこにいるか見えるウォールハック、撃った時の反動がなくて当てやすいアンチリコイル、弾が曲がって当たるホーミング、なんてチートもあるらしい」
ホーミングなんて見たことねぇわ。アッチで遊んでたら遭遇するんだろうか、あーヤダヤダ。
「このゲームのランクマッチは撃ち合いの強さと立ち回りの上手さ、ふたつないと上にいけない。立ち回りとは、二対一、三対一って数的優位を作るとか、高所などの有利な位置から遮蔽物のない不利な位置を攻撃するとか、勝てる可能性を上げる行動のこと。雑魚が不正に手を出しても、撃ち合いは強くなるけど頭を使う立ち回りは雑魚のままだから最上位帯までいけない、というわけ。チートがあっても二対一は蜂の巣にされる」
この辺りでよさそうかな。ソロだからあまり複雑な動きはないけどかえって分かりやすいか。ビルの屋上から周辺を見渡して、と。
「いたいた。スコープで拡大するとコイツ。ピン差して画面に表示された情報から俺との距離は二百八十メートル。撃ち合いの音がまだ聞こえてコチラに走ってきている姿からコイツは削られて負けると思って逃げてる最中、今、障害物で俺から見えなくなった。でもね……」
画面のかなり遠くをスコープで覗きながら解説。敵が見えなくなったから一旦視界を通常に戻して、照準を違う箇所に合わせた。
「この建物の階段下を見ていてね。三、二、一、ハイ」
[はあ?]
[マ?]
[ヤバ鳥肌]
カウントダウンに合わせてほんの一瞬、影が横切った。
「次はココ。俺からは、そして当然みんなからも横に長い壁しか見えない。でも俺にはさっきの敵がココから飛び出てくるのが分かってる。確率は八十パーくらい。三、二、一、ハイ終わり」
回復する間も惜しんで逃げていた敵がソコから姿を現した瞬間ヘッドショットで棺桶に変わった。
古参リスナーまでチーター疑惑持ったか? いやからかい混じりで困惑ってところか。
ビルから離れて歩きながら解説。銃声ですーぐ誰か来るから。
「各キャラは身長が違うから移動視点が違うせいで体感速度が違うけど、アビリティによるバフ・デバフがない時、全キャラの移動速度は同じ」
まぁそうじゃなきゃ三人一組で移動するランクマッチはグダグダになるわな。
「そんで俺のような変人はのんびり歩くけど、ほとんどのプレイヤーは効率厨に呪われているかのように一秒止まることすら惜しむ」
トイレに駆け込もうとしてます?
「つまりA地点で目撃した敵がどの方向に走っているのかが分かっていれば、B地点に何秒後に現れるか簡単に分かる。もちろんスライディングの加速を織り交ぜるから多少は誤差があるけど、誰もがスライディングを利用するから結局トータルの時間は同じなんだよな。ある程度上手い敵であればあるほど簡単に分かる。射線管理と言って、ある地域を通る時、遮蔽物を盾にして撃たれにくい安全なルートはココ、という選択肢はかなり絞られてるんだよ。逆に初心者はそういう考えがないから先が読めない。エキシビジョンは初心者が多いから俺も予測はしょっちゅう外す」
まぁ外しても初心者だからどのみち脅威じゃないけど。
さて、さっき遠くから見た壁に到着。すごく単純なネタバラシ。
「何故ココから敵が現れると分かったのか、壁の裏を見てみ?」
そこだけ足場にできる箱が置いてあった。
「この辺りで他の場所から壁を越えようとするとよじ登るモーションでほんの少し時間がかかる。この箱に乗るとピョンピョンと跳んで早く越えられる。だから初心者以外、ましてや敵から早く逃げようとしているならココを通る予測は高確率で当たる。俺はマップのこういう特徴を頭に叩き込んでるから画面の見えない場所まで全部見えているし、一度見た敵がどこに何秒後に現れるか頭の中でカウントしている。なんなら最初に飛行機から飛び降りる時、いつも俺は最後のほうで飛ぶけど、大体のプレイヤーがどのあたりに降りるか見て傾向を把握しているから、どの方向からの攻撃はないって安全なルートを選んで呑気に歩いてるんだよ。これが立ち回り」
毎回チャンピオンをとるのは運任せだから無理だけど、毎回五位くらいはキープしている。これは実力。
「でね、今話したことなんて上級者にとっては当たり前なわけ。秒のカウントをしてるかどうか、細かい点は違うとしても、みんな無意識に敵の動きを頭の中で想定している。扉の向こうで影が右に動いた。あの通路からアッチに出てくるなら燃焼グレネードをソコにまいて足止め、俺達は左に突撃して一枚減ってる敵チームを叩くぞ、とか」
そういう上級者にとってはいちいち言葉にする必要もない行動の意味が分からない人ほどコメントでデカい口を叩く。
「つまり、上手い人の動きには全て理由があるんだよ。どこを見て、どこを通ってどこに移動するか、何が聞こえた時にどんな反応をするか、上手い人が何故今そうしたのかを、他の上手い人は見て分かる。今の判断早ぇーとかって驚くことはよくあるけどね。画面に流れるログも見逃さない。コンマ一秒、画面の端で敵が発動したアビリティのエフェクトも見逃さない。撃たれた瞬間、死角だろうと撃った敵がどこにいるか頭の中では見えている」
そろそろ害虫にトドメを差してやるか。
「ところが、頭を使ったことがない真正雑魚のチーターには動きに理由がない。突然壁を凝視して止まるってお前猫? とか、え? 何で視線はソッチで照準だけ反対にいくのモニターの向こうで二人羽織してる? とか、一切ブレずに敵を倒した瞬間突然銃口が暴れるってお前の銃は誰か転生してる? とか、まるで意味不明な挙動をする。だからチーターって、見る人が見れば一発で分かる。観戦モードでチーターの視点にすると違和感だらけ。言い換えるとだな、人に向かってチーターかと尋ねるのは、自分はエアプですと宣伝しているのと同じなんだよひとつ賢くなったねお年玉は喜んでくれたかなエアプ君あけおめー」
俺がプロ級の腕を持ったチーター疑惑は晴れない? そんなヤツがエキシビジョンでお喋りしながらやる気なくプレイしているって、プロレーサーが違法改造バイクに乗ってスーパーにお買い物ってくらいヤベェよ。もう何がしたいんだよ。
まぁ吸血鬼は存在がチーターか。だから本気でプレイしない、という一面はある。ちゃんと努力している人は好きだから邪魔するのは申し訳ねぇ。
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