第28話
十二月十七日 午前九時五十八分
待機所は、と。八十人ちょっと。
ま、まぁまぁ。同接百人前後からもう増えそうな気配はないけどいいもん。
配信始めて一年でこれは個人では偉業と呼んでよかろうなのだ。
そうそう、サラッと一周年過ぎてたけど自分の記念日とか気にしないから忘れてたし、きっとこれからも気にしない。ただし彼女ができたらソッチ関係の記念日は外出時の戸締まりより気にしとけ。空き巣より怖い体験すっぞウっ頭が。
じゃあこんな俺を推してくれる連中に世間より早いクリスマスプレゼーンツ。
あとなんか俺のいないところでコメント多いのイラっとくるな。自宅なのに帰宅したら鍋パ始まってる、みたいな。
[オハー]
[うぃーす]
[今日も家事しながらだからROMってまーす]
[オツカレー]
[まじめなヤツおる]
[まぁラジオ寄りだし]
[お、始まるぞー]
[もう口ずさんじゃうよどーしてくれんの]
[おのれフリーて言っとけ]
[あれ? なんかちがくね?]
〜(前口上)身も心も震わせて、誰もが肩を寄せ合う師走も半ば、熱燗だけでは足りない、慰められてもより惨め、多くの願いが届いて途方に暮れる、ウチ秘密結社なんですけど〜
そう、吹雪に荒れ狂う夜の日本海を背に着流し姿の男の頭上にシュークリーム。
コテコテの絵とともに流れるのは和の心、ド演歌。聴いて下さい骨の髄まで。
〜サンタとやら そこ正座 シルバーシート? いいからsit down〜
周りに三角木馬や
〜ここは日本 よく来たな 降雪ビミョー 煙突もないのに〜
赤い帽子を取られるおじいさん。え? なにを? て顔に加虐心が湧きそう。
〜空飛んで 大丈夫そ? ドローン落ちて 叩かれるのに〜
頭にソっと載せられるシュークリーム。思いの丈を叫んじまいな。
〜コノクニハ ナンデスカ? メリクリレンコ コヅクリデスカ?〜
劇画調でなんでやねんのおじいさん。西洋人に説教されるほどソッチが真面目とは思わないけど、日本人の宗教観はチャラいからなぁ。
〜安心しなさい古来より 思いを受け止め宙を舞う
悔し涙も劣情も ビンタで吹き飛べ元気ですかー〜
シュークリームを頭に載せた顎が特徴的な往年の名レスラー登場。
〜清し 聖なる夜 その裏で 轟く詠唱〜
空をかけるトナカイの引くソリに乗ったレスラーが微笑みながらプレゼント投下。
〜リア充 爆発しろ ボンバイエ メリクリボッチ〜
イルミネーションツリーに群がるカップルに天から無数に降り注ぐ導火線に火のついたベタな爆弾。ここマックスでコブシをキかせて喉逝きそうになった。爆発しろー、ではなく、ン゙爆発しろろろろぉぉん、な。
「どもー、ネットに関わってるとこういうテロ本当にやりそうなヤツが現れそうな気がするエックスデーまであと何日かは別に気にしないイチゴの入ったシュークリーム、シューク・ベリームです」
[何故今日]
[フェイントえぐいて]
[待てができない駄犬か]
[カァーッがうっさいカァーッが]
[そろそろ予定教えてくれ]
[くそ、心に染みちまった]
[往年のレスラーに思い入れある?]
[おい重症者おるぞw ]
[リスナー全員ボッチに決まってんだろーが]
[メリクリボッチー]
[いいなソレ]
[メリクリボッチー]
相変わらずいいリアクション。テメーら全員高評価じゃー。
「カァーッはヴィブラスラップと言ってだな、安いけどこのためだけに取り寄せたネタ楽器だから連打してしまった(カァーッ)」
演歌や時代劇といえばコレでしょ結構テンションアガるー。エコーと並ぶ声芸に使えそう。
「何故今日か、ふう、やれやれだね。人と同じことしてるヤツは何も考えてねーんだよ。クリスマスをいつ祝うかカレンダー如きの指図は受けないよーだ。本音はそれなりに時間をかけて作って披露が一日二日はコスパハラスメントだろ。ウエスト絞って結婚式終わったらリバウンド上等でフードファイターになるん? それはそれでイカスけど」
実は真面目な歌も作ってあってイブに流すけど秘密。流石にふざけ過ぎたら不快だから。
「怨念を込めた歌っていったら演歌だよねー。いうて全然詳しくないけど。ちなみに分かった上でまぁいいやって歌ってるからツッコミ不要の箇所がひとつ。ボンバイエは何語か知らんが、やっちまえの意味だとさ。爆発イェー、ではない。そう受け取っても面白いから歌詞にしたのだ」
[最初のシッダンで演歌違う]
「だからー、人と同じことしてたら程度が知れるんだよ。カラ、どんどん破ってこーぜー、声出してこーぜー、メリクリボッチ高校ー、ファイおーファイおーファイおーパーリラっパリラパーリラふーうふーう(カァーッ)」
[酔ってる?]
[いや通常運転だぞ]
[新入りか? 慣れな]
「まぁ新しいことっつっても実は前例あるんだよ。もう今時完全にオリジナルな何かが生まれるとは思えないな。日本の書籍のミステリー。みんなは、十二月にどの月刊誌も一月号と嘘をついてくる理由を知ってる? て聞いたら分かるよな。百年くらい前までは普通に、十二月に十二月号を発売してたんだけど、ウチはA社より一ヶ月早いですよ、なんのウチは二ヶ月、それならウチは三ヶ月、て意味不明の競争が起きて一年ズレたあたりで正気に返って、これからは十二月に一月号発売までにしとこーぜ、と各社が集まってルールを決めたらしい。いや十二月に十二月号出せよ、てまともな意見がないから未だに正気ではないってオハナシですオソロシヤ」
外国人につぶらな瞳で質問されて恥かく前に戻したほうがよくね?
「というわけで早めにメリクリ言っても問題ないでしょ。日本に敬虔なクリスチャンなんてほぼいないんだから二十四日に盛り上がる意味分からんな。何日はなんの日だから何しましょー、てノリがイマイチついていけない。普通に死人も出る今日のどこが目出度いんじゃー、て正月に叫んで髑髏を掲げて通りを練り歩いたリアル一休さんほどぶっとんでないけど」
[一休さんのハナシプリーズ]
「引き出しは少ないなぁ。友だちの雀が死んだらガチ泣きして葬儀を行って戒名までしてあげた話が好き、くらいかな。しかも書の達人だから墨汁と筆で書いた戒名の漢字に雀のシルエットが隠れているという。日本で一番面白い仏僧といってもよさそう」
[引き出し四次元ポケットやんけ]
「一休さんというより彼の立場、禅僧が面白いんだよね。俺のいうオカルト、科学では説明できないしする必要もない領域を突き進む塊みたいな存在だから」
公案ってやつはその代表。答えはない自分で考えろ、という問いかけ。
「ある意味一番分かり易いのは禅僧がほぼ一生やってる坐禅だね。あれに何の意味があるかというと、
あれ、これってアニメのネタだっけ。元ネタはもっと古かったような。あまり憶えてないから自信がない。まぁいいや。
「この橋をわたるべからず、と言われて真ん中を歩き、端じゃないからセーフ。これ、リアル一休さんが一番嫌悪した屁理屈なんだよね。フィクションとはいえ何故これを一休さんにさせたんだろうガチでキモい。付け加えると、ぽくぽくぽくチーン、て考える時間が禅僧失格。即答しろ未熟者、と警策でケツバットされる」
[シュー君だったらどう答える?]
「橋の問題? 渡らなくていいなら無視するし、渡らないと困る時だったら普通に渡るよ。それでまぁケチつけてくる人が現れるのがお約束として、そいつに言ってやる。お前息をするべからず。当然相手は守らないから何故破るか聞いてやる。お前に命令される謂れはないと怒ったら、ブーメラン乙、と全力で蔑んでやる。マジでこの程度は即答しろよってハナシだし、一応断っておくとこれは公案という禅僧クイズでは全然ないから勘違いしちゃダメだぞー」
一休さんの兄弟子が公案をこのテの屁理屈問題にして世間に出題しちゃったらしいんだよね。だから一休さんはガチギレしたらしい。
[じゃあアレは? 虎の絵]
「あー、確か……、屏風に描かれた虎を退治しろ、というお題に対してぽくチーンと考えて、ボクが捕まえるから追い出して下さい、だっけ? え? マジに考える必要なくない? 俺だったらお題を出されて食い気味に屏風を蹴り破る。逆にこれ以外の正解なによ?」
屏風が何千万円とか芸術がどうとか他人が決めた価値なんぞどーでもいいわ。文句や賠償はお題を出した人に言え。
「まだネタ問題あったっけ? あればなんでもいいよ。俺もリアル一休さんもアッタマ悪い屁理屈こねて一休さんを名乗るコスプレボーヤじゃ相手にならないから」
こういう時、検索して大量に投下とかってイヤガラセをしてくる人がウチのリスナーにいないことが誇らしい。その類いは初期にブロックだからと言ってしまえばそうだけど。
「坐禅の始まりは以前話したことのある拈華微笑ってエピソードになる。ずーっと座ることに意味なんてない。ないけどそれ言うならあらゆることに意味なんてない。一生ボケーっと何もしなくてもいいさ。キリストの生誕を祝いながら仏教の奥義を教えてあげる。あなたが生まれて今
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