第25話
「ちぃーす、パンダの動画観てると俺コイツらより頑張ってね? て不条理感に襲われるクランベリーの入ったシュークリーム、シューク・ベリームです」
もう自然界で生きていけない貧弱な草食熊が、笹を持つグリップ力を高めるために小さい六本目の指が生える進化してるて、方向性間違ってるよな?
[ちぃーす]
[カワイイは正義]
[ドンマイ]
[動物動画は黙って癒やされとけ]
「分かってるさっ。動物と張り合っても不毛なことくらい。でも俺、俺ぇ、全力で座って尾てい骨骨折した野生のダチョウの話を聞いたらぐやじぐでぇ」
逆にコイツらはどうやって今まで自然界を生きてきたんだよ完敗だよ鳥のくせにスプリンターを目指す進化といい存在丸ごとオモロすぎだろ。
[泣くポイントどこ?]
[すべらない小ネタいくつ持ってんの]
「ンじゃ今日は珍しく乙女ゲーとやらに手を出すぞー」
情緒がどうとかツッコミは無視して話を進める。俺にいちいち付き合ってたら疲れるぞ。
「おっと安心しな。俺にBL趣味はねーよ。そこ貴腐人どもはしゃぐなぁー。女主人公を操り女性目線になって、世の女は男のどこにトキメクのか勉強しようって趣旨だよ。でも変な夢見ないように先に現実教えてやる。……、見た目が九割な」
[オワタ]
[はい諦めた試合終了]
[そんなことないもん(口笛)]
[六割くらいにしとこ]
「タイトルは、デッド・オア・アポカリプス。乳揺れ格ゲーと間違えてキッズが買ったらどーすんだまったく。死か終末かってどっちも終わっとるやんパンダに向かってビーフオアチキンとか聞いてんじゃねーぞ、というノリで手が出てしまったのです出来心です」
[あーまたカルトゲーを]
[ソッチもたいがい名前九割な]
ククク、甘ーい。今回は事前に調べて仕込んでるんだよ。いつも見切り発車で衝突事故寸前だからな。少しは学ぶのさ。
じゃあ今日は小芝居に付き合えゲームスタート。
「……、アレッ? ここは…、え? 何で? コントローラーは、モニター、リスナーは……、はぁ? え、だって、今配信……」
画面は少女漫画系主人公の上半身を中心に、近未来なサイバー系内装の室内。服装は首から下を全て覆うピッチリした薄いライダースーツのような、ただしメタリックなシルバーにピンクの差し色だからいかにもなアニメ風宇宙服。右上にゲーム内時計らしき表示。あと当然右下にいつもの俺のガワも。今日は小さめ。
[なに?]
[どしたん?]
[あー、まさか]
「おお、乳が……、揺れねーな」
[最初の感想ソレ]
[分かるけどw]
[ネット小説でよく見るアレ?]
「マジか。何いきなりゲームの中に入ってんの? 配信中だから困るんですけどー」
[転生したら乙女ゲーの主人公だった件]
[実演始めよったw]
「ここ何? まぁ宇宙船だよな確実に。宇宙飛行士の訓練受けたことないけど大丈夫そ? とりあえず徘徊してみっか」
[ノリ軽]
[メンタルお化けかよ]
画面には選択肢がひとつ。外に出る、をコントローラーでポチりはするけどリスナーに向けてはそんなことしてませんよってテイで。
『認証システム起動。名前を登録して下さい』
「俺どーやって部屋に入ったん?」
部屋の扉を開けるためにお約束の名前入力画面に変わってお約束の文章が表れたからツッコみながら入力、と。
破壊王
[もうボケる気しかないやん]
[ベリーいれんのかい]
「あー、地球からリスナーがツッコんでるような気がするー。聞こえてる? いいことを教えてやろう。底辺配信者ですら、いや、人気配信者ではないからこそ、なにかしらのオンラインゲームでその配信者になりすます害悪野郎はたくさんいるんだよ。だから俺の場合はベリーを使うのはあのFPSだけってルールで防衛してる。あと名前にVTつけて無駄に配信者アピールしないとか。自分で住所をバラしてピンポンダッシュに悩みたくねぇ」
他のゲームで流用されるようなネーミング、自分の正体をアピールするネーミングは、人気配信者以外は攻撃してくれって言ってるようなもんじゃん。なんなら人気配信者も攻撃されるし。
いつものFPSを例に挙げるとゴースティング。知ってる配信者もしくは明らかに配信者と分かる名前を見て、同じステージで遊んでいると気付いたプレイヤーがゲームしながら配信を覗き、その配信者のキャラが今どこで何をしているのか全部分かるからイヤガラセしたれ、とか。
扉を出ると宇宙船全体を俯瞰するマップ画面になり、各施設や部屋を選ぶ仕様。今はいわゆるチュートリアル状態だから行ける場所は一択。
「おおー、艦橋、ブリッジってやつか」
『よく来た破壊王、まずは我々を取り巻く状況から説明しよう』
「真顔で呼ばれると照れるな」
画面に船長だか艦長だかの絵。五十代くらいのイケオジ。文章は俺の朗読。ボイスもあるけど全体の一部、スチル絵の時とかだから。
そんでこれが乙女ゲーを選んだ理由でもある。
ギャルゲーだったら女性ボイスを大量に俺がすることになる。軽く地獄だな。
あと俺はツラも良ければ声も良い。事実を謙遜するのもバカバカしい。吸血鬼のガワは与えられたモノかというと多分違う。まぁ今は考察はいいか。
この声を好きと言ってくれるリスナーもいて、ほぼ確実に女性リスナーとして、ASMRは恥ずかしくて拒否ってるからこれくらいのサービスは、ということで。一番キツ……、恥ずかしい台詞はスチル絵とともにプロの声優に任せた。
『眼下の地球を見たまえ。かつてあの星は青と緑に覆われていたと信じられるか? 人の愚かさの結実として、地球は死の大地に変わってしまった。放射線の吹き荒れる地上から、かろうじて健康体と呼べる者を探し集めてこの宇宙コロニーに避難させたが、人口約五千人、二十代以下は約三百人、正直先はない』
「結構いますやん」
『だがっ、我々は諦めるわけにはいかんのだ。いつかきっと、地球は青と緑に覆われた星に戻る。その時、我々人類が笑顔で帰るために、命を繋ぐ希望が必要なのだ。……、現在十五歳から二十歳までの女性は君を含めて三名。頼む、力を貸してくれ』
「逆ハー成功させて子作りしまくれって良くかっこよく言い換えたな」
流石乙女ゲー。設定も説得もぶっ飛んでる。少数の女性で産めよ増やせよは無理ゲーじゃね?
[合いの手入れる小芝居やめて]
[破壊王ジワる]
「余裕余裕、俺TSしてもヤローと寝る趣味ないけど問題解決には協力してやんよ。要はそのへんのヤローどもを熟女好きにジョブチェンジさせればいいだけじゃんテメー歳を重ねて今まで何見てたんだよ三十越えてからの女の性欲ナメんなアイツら池にパン屑撒かれたニシキゴイだぞ」
……無理です
▶ 頑張ります
もう一度説明お願い
とか喋りながら選択肢をポチる。
[違う意味にしか聞こえない]
[破壊する気や]
[ヤローども逃げてー]
マップ画面に変わり、まだ制限はあるものの、移動できる白枠が増えた。まずはー、
「なにはともあれ情報が大事だよねー。クリアすれば帰れるのがお約束ってか」
本も本棚もなく、塾の自習室みたいな仕切りだらけのスペースとPCぽい機械。あるあるー。中央周辺はメカニックな台座がいくつか。何人か囲んで地球のホログラフを見ながらあーだこーだって絵面が浮かぶわぁ。
史書を検索
▶小説を検索
眠くなってきた
「TSって誰得なんだろうね。普通に考えてこの状態を喜べるのは元が逆だったタイプ、性同一性障害の人だけだと思うんだけど。TSモノがウケるってことは自分の性について真剣に悩む人は結構いるのかな?」
『おや、ここに人がいるのは珍しいですね。何かお探しですか? お嬢さん』
画面に登場したのは大学生くらいの青年だった。長身、色白、水色の長髪を後ろで括っていて、緑に差し色は茶の宇宙服。近未来司書? メガネなしはベタを避けたか。そういうトコだろうね、売れない理由。強引愚昧道もだけど、王道逸れると大体コケる。
「イマジナリーリスナーに話しかけた俺も悪くてアブナイやつだけど、アンタもたいがいだからな。図書室は私語禁止、常識だぞ?」
▶警戒する
馴れ馴れしく話す
会釈して立ち去る
『へえ、立派ですね。ここは閉鎖空間だから犯罪の心配はほぼしなくていいとはいえ、閉鎖空間だからこそ距離感って大事だと思うんですよ。ああ失礼、私はセルディオ・ハーマン。ライブラリの主みたいなものですから困ったことがあれば遠慮なく質問どうぞ、では』
セルディオは画面から一旦消えて、奥の仕切りスペースに座る絵に変わった。
「これ好感度が上がったのか? 自分から非常識に話しかけてきて常識説かれたら合格ってまぁまぁダメなヤツだけど第一獲物だからキープ。どうやって熟女好きに誘導すっかなー」
そのあと各移動ポイントで攻略キャラと順次遭遇。
トレーニング室で爽やか体育会系。
植物園でギリセーフかビミョーなショタ。
何の戦略か不明な戦略室で性格悪そうな参謀キャラ。
誰と戦うのか不明な部隊で隊長の堅物。
そして我破壊王の幼馴染という設定に無理がある王子様キャラ。
隠しキャラが何人かはいそうだけど、とりあえずメインはこんなもんか。
そんで逆ハーエンドを目指すわけないから今日の攻略はひとりに絞るとして……。
「だーれーにーしーよーかーな」
[テオ様(堅物)落として]
[普通にサカキ君(体育会系)でしょ]
[高評価押すからパルパル(ショタ)で]
[初コメだからお願いクイン(王子様)]
普段おとなしめの女性リスナーの圧っ。
乙女ゲー、おそるべし。
「電波受信中、よし、ターゲット決定」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます