第26話
「あそこはネカフェだったかなぁ。本屋としてたまに利用していたメインは何なのか怪しい店があったんだけどさ、本屋でも普通にあるBGMが流れてなくて雰囲気は図書館だったんだよね。ある時、多分誰かがウッカリ動いてイヤホンのプラグが抜けたらしく、個室から大音量が響いたわけ。……テテテ、テテ、テーテー、て。もう俺しばらく笑いが止まらなくてさ。お前どこで二時間サスペンス観てんだよいいところでヒキのSE入ったからってプラグが抜けるほど興奮するなよもうAV観てたほうがいっそ爽やかだわ今密室殺人事件起きてんのかよ崖まで追い詰めたろかあぁん? って内心ツッコミ続けて実質臨死体験でした、というお話です」
セルディオに頼る
叩いてみる?
▶プラグ抜いちゃえ
『ちょっ、破壊王さん? フッ……、クククッ、操作方法が分からなかったら私に聞けばいいのに、なんで、ククッ、あー苦しい。こんなに笑ったのいつ以来でしょう』
「お、一枚目のスチル来た感じ?」
ゲーム内の俺は見えてないテイでとぼけつつ、画面は特別な一枚絵に変わり、声優ボイスもきた。
『こんなに薄暗い世界でも……、人って笑えるんですね。私もまだ……、笑えたんですね。ありがとうございます。きっと貴女のその朗らかさが、これから多くの人を笑顔に変えていくのでしょうね』
近未来司書ことセルディオが目尻の笑い涙を拭いながら手を伸ばし、PC的な何かを操作する。椅子に座った主人公は、頭上を覆うセルディオをややとぼけた顔で仰ぎ見る。そんな一枚絵。萌え絵ってやつか?
[すべらない話仕込んでくるなや]
[感動っ、素直に感動させてっ]
[破壊王だけで台無し]
「多分ひとりだけ追い詰めても詰みそうだよね。他のキャラとのスチルもどーせあるんだろうし。ライバルっ娘たちの様子も見とかなきゃ危ない感じ? 乙女ゲー、忙しいな」
[追い詰める違う]
マップを見てテキトーに移動してイベントを探す。ゲーム内時計と連動してるんだろうし、スチル全回収とかする人スゴイな。俺残り数パーセントで正気に返って飽きるタイプ。
「男が乙女ゲーやり込んで転生するパターン結構あるからナメてた。はたから見たら俺ストーカーじゃん」
『お、うぃーッス。君も汗を流しに来たのかい?』
「オツカレーッス。夏場の脇汗この世から消したいでーす」
もう帰るところよ
▶勝負よっ
トレーニングルームにいつもいる爽やか細マッチョ、ツカサ・マクナドール。各キャラにミニゲームが用意されているらしく、クリアすれば好感度アップらしい。
ヴァーチャルなにかしら技術によってひとつの室内はグラウンドに、二人の服装は地味なジャージに変化。SFって言っとけばなんでもアリだな。
「わりと大きくなるまでSFのことをスペースファンタジーの略って思ってたなぁ。CIA、KGB、MI6、SDECE、昔大病を患ってたせいで略したアルファベットに惚れやすい」
厨二病? ぼかそうぜ。
画面はふたりのミニキャラが運動会みたいな競争をしている。その絵を背景に上から落ちてくる矢印や各ボタンを下のラインに合わせて押すリズムゲー。ぶっちゃけヌルい。女性ライトユーザー向けだからコレで良いバランスなのかな?
「DDRは何の略でしょう? てかアレまだゲーセンあるのかな。学生の頃はたまに遊んでた。一定以上上手くなると逆に動きがキモくなっていく凶悪トラップでさ……、引っかかっちまったぜ」
ミニゲームをサクッとクリアしてまた移動。ダイジェストでお送りするか。
「黎明期のRPGはパスワードを使うセーブだったって知ってる? 復活の呪文とか言ってさ、子供たちはノートに一字も間違えないよう書き残したんだとさ。レベルマックス最高装備のパスワードを知ってたらもうみんなのヒーローってわけ。解読できなかったのかな?」
▶これ……、縦に読んだら
AIに聞いて分からなかったら……
無理ー、分かるわけないでしょ
『ああ、本当だ。お手柄ですよ破壊王さん! でも……、どうして誰も気付かなかったのでしょう。もしかして、いやそんなまさか』
「チョロい答えほど難しい時もあるさドンマイ、てもしかして二枚目来た?」
セルディオが険しい顔でモニターを睨み、後ろで主人公が心配そうに見つめるスチル。なにやら不穏な展開? まぁアポカリプスだし。
「ラノベのタイトルの野暮ったさはしょうがないよね。俺の名付けと同じで、一目で内容を伝えて読んでもらおうって戦略なんだろうから。ただ、そろそろ被りすぎて次のステージに行くんじゃないかな。逆に内容がまったく分からないタイトルに」
▶シングナット一族、へいお待ち
もう肉球でいいです
アルファ・ケンタウリ星系戦記
『あー、珍しいジャンルを読むのですね』
「外れかぁ。三番目が無難とは思ったけど気になるじゃん」
[二番目も気になる]
「全然熟女出て来ないのな。俺年増呼ばわりする連中黙らせる自信あるのに。へーキミは葡萄の楽しみ方は生だけなんだフーン熟成したワインやブランデーの良さが分かる大人になってから出直しといでボーヤ」
ソルティドッグ
▶アレキサンダー
ミックスジュース
『貴女未成年でしょ』
「ちっ、デートイベント的なやつなら見逃せよ」
スチル三枚目。デートでバーカウンター連れてきてジュースて。
「ででんでんででん、な知事マッチョ型AIはコメディーだっつってんのにもー」
セルディオ、あなたが?
宇宙人?
▶マザーコンピュータ?
スチル四枚目。この閉鎖空間を仕込んでいるのはAI? という真実に触れた時、ライブラリに押し寄せる警官ぽいモブたちと彼らを率いるテオ様(リスナー呼び)ことテオドール・やべー忘れたまぁいっか。
「もしかして好感度によって敵味方ぐちゃぐちゃに入り混じってない大丈夫そ?」
可哀想な人たち
▶わたしは自由よっ
従います
セルディオとテオが体制について言い合う中、スチル五枚目。
テオとモブたちが光るシールド的な何かに覆われ身動きできない様子。
その絵を背景にサカキの上半身。コイツが何かで助けてくれた、と。便利だよなSF。
サカキの献身。ここは任せて先に行け、発動。
スチル六枚目。セルディオに手を引かれて走って逃げる主人公。どこへ?
ハイ七枚目。小型宇宙船? 脱出ポッド? に乗っていざ地球。
もうエンディングに向けて流れていくだけ。
荒れた大地。小さな森を囲む小さな島に着陸。
ここはアポカリプス、明るい未来は見えない。
でも、宇宙の牢獄よりはマシ。
船長だか艦長だかの言った通り、真に先がないのはアチラのほう。
『貧しい身なりも質素な食事も我慢できますが、読むものがないのは堪えますね。私を明るい方へ連れてきたのは貴女なのだから、楽しい物語、作って下さいね』
「あ、なんかきたきたオツカレー。もうひとつの地球に帰らせてもらいますー。あとこのシナリオで一番可哀想なサカキドンマイ」
夕焼けの浜辺で抱き合いキスするスチルでエンド。
「ただいまー。配信問題なかった?」
[素晴らしい]
[ハラショー]
[いろいろ問題あるけど、いい]
[これこそシリーズ化希望というかしろ]
「ないない。こんな配信二度としねーよ」
ブーイングの嵐を無視して続ける。
「あー眠ぃ、コッチは完徹二日目だっつーの。は? まだ元気ですけど? ただパフォーマンスは少し落ちるから早めに終わらてくれっつってんの」
[あ]
[あ、察し]
[了解]
[りょw]
[なに?]
[あとでスレおいで]
「んじゃ今日はここまでオツカレー」
何か忘れてないかいつものチェックを済ませて大きく溜め息、あー疲れたー。新しいことを始める時のカロリーの高さときたら。
買い置きしてあるコンビニのロールケーキを袋から出して丸かじり。男の一人暮らしなんてこんなもんよ。ティータイムしてるだけでも優雅だわ。
にしても、通じてるようで良かった。
今回はアドリブでリスナーと絡んだけど、これってライブじゃなくひとりで作れる。
さらに分かってはいたけど乙女ゲーって観る人を強く選ぶ。ヤローどもはおとなしかった。このスタイルの配信続けたらリスナー層が偏りそう。
だから他のキャラの攻略動画はボチボチ作りながら会員限定公開のほうへ。
乙女ゲーの男性実況て珍しそうだから少しはウケるんじゃね?
さて、チラッと気になるコメントが見えちゃったな。
そっかスレかぁ。リスナーたちは裏で何かのツールを使って情報共有しているとは思っていたけど、なんでベッタベタなスレを思いつかなかったかな。
配信モノといえば掲示板回がセットで鉄板じゃん今まで考えなかったってちょっと自分の迂闊さに衝撃受けちまった。
俺にとってはリアルだからしょーがない、のか?
良くも悪くも俺について話すスレを覗くほど趣味は悪くないから気付かないフリしとこ。
エゴサは今までしたことないし、これからもしない。
一日中、だから何? って内容を呟く人とか、スマホを片時も手放せない人とか、はたから見てるとしんどいけどやめられない中毒者ぽいから、俺はSNSを利用しすぎないよう気をつけている。
セルディオ、あんたの言う通りだよ。
SNSは誰とでも身近に関われる閉鎖空間だからこそ、距離感って大事だと思う。
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