第22話
「あー分かる分かる。スマホはまだしも時計に話しかけるヤベーヤツ実際に見たことねーもん。街で見かけたらお巡りさん案件だわ。広告作る連中、失笑が止まらないだろうね。次にくるのはスマートハットか? 上見ながら話すと他人からは白目、絵面のヤバさをどう誤魔化す広告業界。スマート、恐ろしいコっ」
[なんか違う]
[AI怖いじゃなくね?]
[分かるけど違うな]
え、違う?
「せめて音声認識は助けて尻えもーんにしよーってハナシじゃないっけ?」
ヘイ、とか日本人が恥ずかしげもなく言い始めたら海外移住検討レベルだっつーの。
「なんてね。ビミョーに話しが噛み合わないAI感出してみた。今のが近未来のポンなAIだぞー」
[確かに怖くない]
[ツッコミ疲れる未来はヤダ]
「まぁ怖がるのは分かるけど、反抗心剥き出しにしてロボットを支配して人類滅ぼすダダンダンダダンッ、な知事マッチョ型AIは知能低すぎて人間の敵にはなれないぞ。タイムワープまで出来るようになって何やってんの? てツッコミまくるコメディー映画面白いよねー」
[あれコメディーだったの?]
[知事マッチョ型ピンポイントすぎる]
「アレに限らずAIの反乱はSFの定番だけど、賢いと思える作品は観た憶えがないなぁ。ショートショートの生みの親を漁れば良いヤツありそ」
人間より賢いって設定が厳しいのかな。
「そもそも肝心なポイント、一番怖い敵って何? こう言ってあげようか。ジュリアス・シーザーが心底驚いた敵は誰?」
[ブルータス、お前もか]
「正解。獅子身中の虫、味方のフリした敵が一番ヤベーんだぞ。敵と思ってないから戦いにもならない」
うーんアレをこーして、一応ミステリー仕立てに出来るかなぁ。
「今から俺はAI。ネットに常に繋がっていて、全てのスマホの中に俺がいて、俺をメンテナンスしてくれる人間を滅ぼすほど残念じゃないけど、気まぐれに人間を消していくサイコさんな設定な。俺の言動の意味を解けるものなら解いてごらん
[素じゃん、て最後にツッコミそう]
[それな]
[メッチャ分かるー]
モチベ下げるのやめてもらっていいですかー。
CASE1 不知火 真丼無
私は真丼無。本名は違うけど息子にキラキラネームをつけたら復讐されてぐうの音も出なくて反省中。役所に行っても簡単に改名は出来ないのもう許して。
ハイ定時今日もお疲れ様私。オフィスから出るところで同僚たちに声をかけられる。
「真丼プッ無さんお疲れ様ー」
「……、お疲れ様でした」
吹き出すなや先日まで不知火さんだろーが社会常識叩き込んだろうかゴラぁぁ、という正論はブーメランだから飲み込む。妊娠中に夫婦揃って甘いものが好きだったからって
駅のホームで帰りの電車を待ちながらスマホをいじる。今夜の献立どうしよう?
アラ、あのデパ地下で四川フェア? すご、全商品真っ赤。攻めるじゃない、そういう姿勢、キライじゃないわよ。
そうね、私は辛いモノもイケるし、あの子も名が名だから甘いものは禁句で辛いモノを好んでいるし、なによりアイツは辛いの苦手だからちょうどいいわ。
おのれ池麺プッ、コイツに理性があれば攻めすぎて自爆特攻な名付けなんてしてないわ。私はアレよ、妊娠出産でいろいろ大変だったのだから忖度してよ。
なになに、夕方からタイムセール。そんなの聞いたら急ぐしかないじゃない。
私は激辛に悶絶する夫の姿を想像して復讐心を滾らせながらソッとスマホをしまったのでした。
「……、ハイカーット。俺は真丼無さんの味方のフリして真丼無さんを始末しちゃったぞ。この謎解ける人おる?」
[ゴメンほぼ頭に入らない]
[推理よりオモロイドラマやめろや]
[ビックリ、ガチで思考停止した]
[もうずっと不知火一家のハナシしてもろて]
だーかーらー、モチベ下げるのやめてもらっていいですかー。
「えー、じゃあパンナコッタ・クワズギライスキー覚醒編とかに路線変更する?」
[できるんかいっ]
出来るんじゃね。シラヌイだけに知らんけど。
[解説お願いしまーす]
[おなしゃーす]
[しゃーす]
[す]
コイツら日に日に煽り性能上がってね? 他の配信行ってそのノリのコメントはやめとけよマジで。
「これは完全犯罪だからねー、人間には絶対に解けない。このあと真丼無さんはある人物に刺されて死亡します南無ぅ。警察が総力を挙げても探偵が全員集まっても、スマホの中にいるAIの俺が犯人とは疑うことすらしない」
それがAIの一番怖い能力だぞ。肉体や凶器といった物理に頼らなくても人は情報だけで殺せる。必要な情報が揃いさえすればね。ネットは揃っちゃうんだよなぁ。
CASE2 武者 草男
オレは武者草男、むしゃくしゃおと読む。フザケてるだろ? 生まれてすぐにオレの人生ゴミコースが確定した。
この名をつけたフザケた両親はバットで殴りまくってやったら警察沙汰になってそのあとは知らね。
ハッ、何の希望もない人生、どうなろうと知ったことか。
あーそうだよな、さっさと終わらそうぜ。
スマホで検索。近所で今日一番人が集まりそうな場所は?
ほうほう、あのデパ地下で四川フェア? 夕方がピークの見込み?
おーいるいる。どいつもこいつも疲れているけど充実してますってツラしやがってよぉ。
まずはテメーだそこの女、お前も子供にフザケた名前をつけそうなツラしてんじゃねぇか。
地獄に落ちろぉぉぉ。
オレは懐から包丁を抜き出し突進した━━。
コメント欄をチラ見。うん、後味悪いよねー。
まぁ少しは信じろって。俺が胸糞バッドエンドを是とするわけねーじゃん。
間を置かず語り続ける。
CASE3 パンナコッタ・クワズギライスキー覚醒編
僕の名は不知火版菜康太、シラヌイはカッコイイけどパンナコッタはヒドくない? 小さい頃からずっとイジられて、僕はナメられないよう
高校に入ると、周りは動画の話題だらけで戸惑った。
ずっとアウトドアだったからついていけない。本当はスマホを持ち始める中学生頃からみんなインドア寄りになっていたのかもしれないけれど、きっと鈍感な僕は気付いてなかったんだ。
そう、僕は何かがおかしい。
独特な名前のせいで自意識過剰だと笑われるに決まっているし、なにより僕自身そう疑っているから誰にも相談したことないけど、僕には不思議なチカラがある。
言葉では上手く説明できない。
普段は鈍いくせに、第六感が異常に鋭くなる時があるというか、なんとなく『正解』が分かる。
例えば幼少期にジークンドーを習おうと思った感性も変といえば変かな。最近だと半年前、周りに感化されてテキトーに配信を見始めた頃、不思議な人を見つけた。甘いモノが嫌いだから目を背けようとしたのに惹きつけられてしまった。
シューク・ベリーム。
肺の中に化学兵器でも仕込んでいるかのように、毒を吐き続ける危険人物。
誰かに悪態をつかなきゃ倒れる病気にでもかかっているのかな? て可哀想な目でリスナーから見られているような空気感も不思議。
ひたすら喋り続ける。聞いてる方が息苦しくなるほど無呼吸で喋り続けることもある。きっと何かしらの病気なんだろう可哀想に。
でも本人は何も気にしないらしい。僕は学生だから夜にアーカイブを覗く程度だけど、いつもマイペースに何かを喋ってる。
ライブもたまに見てROMってたけど、ある時初めてコメントを打ってしまった。何を聞いたんだったか、即座にチャンネルを開いてハンドルネームを決めて初見です、とだけ打ったらドッとうけた。
反応に驚いて恥ずかしくなって、ハンネはすぐ変えてしまい、他の配信をハシゴするようになったけど、やっぱり時々気になって覗いてしまう。
他の配信者は多分ほとんどが言っているらしいセリフ。配信の〆に、チャンネル登録と高評価をお願いします、と聞き続けて気付いた。そういえば彼、言ってないな。
友だちに向かってバイバイ、また明日、と同じ温度でンじゃオツカレーと一声かけて終える。マジに売れる気なしなのか。
クックック、両親にキラキラネームをつけて人前で大声で呼んでやる。採用、早速やってみよう。
あぁナルホド、科学とオカルト、進化は二つの方向性ねぇ。
この人スゴイな。考えるな、感じろでお馴染みのドラゴンが編み出したジークンドーを嗜んでいるからストンと納得できた。僕はオカルト寄りに生きていたのか。
なんだろう? 今日はやけに胸騒ぎがする。誰かが聞こえない声でずっと警告してくれてるような。まさか、彼?
放課後、居ても立ってもいられなくてスマホをいじり、昼に終えてる配信を観た。Wi-Fiないけど少しなら。
な……、んで、母さんをダシにして遊んでいるの?
これは、何? リアル? フィクション?
ああ……、そうだね。僕も、貴方も、理屈はいらない側の人だったか。どうりでいつも小馬鹿にした態度で屁理屈こね続けているわけだ。
ありがとうシューク・ベリーム、もう迷わない。
LAST CASE
夥しい人でごった返したデパ地下がほんの一瞬、異世界に変わった。
喧騒が静寂に、熱気が冷気に。
最初に気付いた人が悲鳴を上げるために息を吸い込む、その数秒。
刃物を握って加速しようとする異物ひとりによって、空間が非現実に塗り替わるファンタジー。
真丼無はきっとこの光景を一生忘れない。
息子が熱く語っていたことがある。
ジークンドーは武術であると同時に生き方、哲学でもあると。
飾りはいらない。御託はいい。守りたいモノがあるなら最速最短で結果を出せ。
「ッシャー」
殺意に血走った眼光鋭く自分に向かってくる大男。
あまりにも現実味がなくてぼんやり見ているスローモーションの中。
すぐ目の前まで迫った男が腰だめに構える刃物━━、を握る手首を握って捻りながらロマン兵器パイルバンカーを人体で実践するイカれた中国武術最大最速最短最強の━━、
崩拳
ドンっ、と人から聞こえてはイケない音を立てて大男は吹き飛んだ。泡を吹いて白目を剥いて痙攣している。ギリ生きてるセーフ。
そして真丼無の側、大男がいた空間に代わりにいたのは、名前なんて下らないことで関係が拗れてしまった最愛の息子。
「なんで?」
「ひどくない? どこの世界に母を見殺しにする子供がいるんだよ」
大男が一際大きく痙攣した。
康太は母親のハンドバッグからスマホを取り出して囁いた。
「人ってさ、未来を、運命を変えるチカラを持ってますよね?」
『助けて尻えもーんて言えや』
パンナコッタ・クワズギライスキーはスマホを床に叩きつけた。
THE END
画面右下のシュークリームパンパンに膨れとる。
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