第20話



 「あぁダマスカスの包丁知ってる? アレ事情を知りたくて検索しようと思って忘れてたなぁ。もう何年か前に散歩系のテレビ番組だったか、日本橋で普通に売られてるのを見てメッチャ驚いた。日本刀を超える切れ味最強のダマスカスソードは製法が失われて再現不可能って聞いてたのに、何の前フリもなく最近人気の包丁ですて紹介されてさ、確かに独特の刃紋が浮いてるし、無知な出演者はそのあり得なさに誰も気付かずスルーしてるのがイラッときたなぁ」


 現存する一振りは大英博物館とか、そういう希少さなんだぞ。日本橋おかしすぎる。同じくらいイラッとしたのは、海外の好きなミュージシャンが来日した時、カラオケ番組に出演して日本の歌を歌うってすごいことしてるのに司会者が雑に扱ってたことだな。


 「もろファンタジーだよねー。日本橋を探検したら伝説のボッタクリ商店が隠れてんじゃね。てかそのへんにダンジョンが出現したら俺が商店作ってやる。買い取りの倍の値段で販売、良い商売です」


 ヴァンパイヤテンバイヤーなんつって。西洋の刀剣や鎧も大好き。


 [シュー君ファンタジーも考察してそう]


 「そりゃもちろん。ネット小説が盛り上がる前からファンタジー小説読み漁っとるわ」


 指輪を捨てる元祖のアレなんて映画化されるはるか昔の十歳くらいで読破しとるわ。だからホビットの違和感にすぐ気付いたんだが。


 「例によって俺の妄想と笑ってくれていいけれど、知的生命体には大きく分けると二種類の進化の方向性があると思う。一言で言い表すと科学とオカルトだ」


 胡散臭さの代名詞みたいなオカルトって言葉はあまり好きじゃないけどしゃーない。


 「まず定義をはっきりさせとこうか。科学とは、分かる分からないの二択で構築した説明体系のこと。オカルトとは、信じる信じないの二択で選別した主観のこと。クリスチャンの物理学者がおかしくないように、この二つは本来反発しない。歴史上はよく喧嘩するみたいだけど、科学をするポンと、オカルトをに説明したがるポン、自分の立ち位置を履き違えた二人のポン同士で争う」


 ニュートンがあの有名な秘密結社に所属していたように、ホントは喧嘩するような関係性じゃないんだよなぁ。

 ちなみに野暮だけどポンとはポンコツだよ。名称を変えるってキライだけどアウトにならないよう気を使うネットスラングは面白い。


 「科学を信仰するタイプは、例えばそうだなぁ、超常現象をプラズマで片付けたがる人とか? 実験して証明すれば誰一人ぐうの音も出ない。そんな当たり前のこともせず口で仮説とも呼べない戯言垂れ流して科学を気取るのはIQ低い」


 あの教授ってまだ元気なのかな? すげー昔の記憶に残る人だからもういないか。アレッ? バンダナ巻いてる教授は違う人か?


 「オカルトを論理的に説明したがるタイプは、うーん、西洋の宗教が分かりやすいかな。神の定義は人智を越える存在。なのに神の思惑だの天使や悪魔のヒエラルキーだの人が説明できたら人智の枠内でしょ。考えるな、感じろ、てドラゴンなノリが宗教なのに考えてコケる可哀想な人が西洋には多い」


 唯一絶対神、て概念がもう矛盾の塊だもんねー。日本人はピンとこないだろうけど、唯一絶対神てことは、悪魔の親もこの世の全ての理不尽も元凶コイツになる。理屈をこねると「神は死んだ」て結論になっちゃう。


 「ちなみにさっきの超常現象をプラズマでーって人もよく見たらコッチと同じ。つまり科学が正しいオカルトが正しいって主張が違うだけの中身同じポンが喧嘩するわけ。科学は何でも説明可能な領域。オカルトは科学では説明できないしする必要もない領域。ふたつは共存可能だけど世界が違う」


 この区別がつかない人の多さときたら。


 「本当に最終段階かどうかは別として、進化の果ては不老不死か、それに近い状態としよう。科学がそこに到達するとどうなるかは簡単に想像がつく。見た目までは知らんが全身人工物ロボットか、人格までデータ化してメタバースのどちらかだね」


 その環境に人間が耐えられるかどうかは疑問だけど。


 「オカルトが最終段階に到達すると、おそらくだけど精神生命体と呼ぶようなよく分からん存在になる。繰り返すけど理屈で考えることが無意味どころか有害な方向性だから、なんとなくそんな気がする、というノリで話すしかない」


 仏僧の解脱もソコを目指しているはずだけどどうかな。死んだらどうなるかは本人しか分からないからねぇ。

 そしてピンときた? こんなこと考えているのは自分の身に何が起きているのか把握したいからだよ。考えるな、て戒めているから結論は「知らんけど」になるけど。


 「でね、ファンタジーにおける定番種族、ドワーフとエルフが二つの方向性のメタファーに思えるんだよねー」


 やっとファンタジーに話を持ってこれた。長ぇわ。


 「ドワーフは、モノ作りに勤しみ、酒という嗜好品に目がなく、木を切り倒して鉱山を掘り進める。物質文明を表している」


 というか現代社会そのものだね。


 「エルフは、森で暮らし、原始的な狩猟採集を営み、魔法や精霊との付き合いに長けるといったスピリチュアルな在り方、精神文明を表している」


 そのくせどの小説のエルフも「神」を信仰していないのが面白い。精神文明の柱は神に思えるんだけど違うのか。

 

 「という観点で分析すると、ドワーフの最終形態はロボット。エルフの最終形態はハイエルフとでも呼ぶ精霊。人類はハイエルフの方向には行かないらしいねー、という話でしたオシマイ」


 そんで俺はハイエルフなんだよねー、という話でもあるのさ。ある意味2.エルフをタップしていたのか。


 「人類が科学よりオカルト重視になっていたら、歴史はどうなっているのか想像することはあるけど、おれの頭じゃギャグ漫画にしかならない」


 [むしろそういうの話してよ]


 「そうなん? まずヒミコさまーてノリが現代も続いてるとか。宝くじ一等の人がそのままヒミコポジションとか。今日の学校二限目はコックリさんとか。デコにバットをつけて十回回って犯人はお前だぁて指差された人が逮捕とか。今朝の情報番組観たら星座占い最下位で何やってもダメらしいから会社休みますとか。こんなんでいい?」


 [www]


 ウケるんかい。


 「絵面最悪になるのは戦争だね。日本とアメリカが険悪になったとしよう。日本人は深夜になると頭にローソクつけて死装束で近所の神社に赴き、ボブかサムみたいな顔写真を貼ったワラ人形に五寸釘を打ち付ける。一方アメリカ人は牛を斬り殺し、生き血でペンタゴンでも描いてヤギ頭の悪魔像に呪文の一つも唱えるのさ」


 死者数は圧倒的に少ないから平和ではあるか。国民総陰キャて絵面がヒデー。


 「あとまぁドワーフ寄りといいつつ、現代ですらオカルトが消えることはない。夜ひとりで墓参りは怖い、という感情がある限りはね。オカルトの視点で歴史を読み解くのも面白いよ」


 [どうぞ語ってもろて]


 「うーんじゃあ墓参りが怖い系で日本史の授業するかぁ教科書二万六千ページ開けぇ」


 相変わらずゲームやってるけど誰も見てなさそう。でもお絵描きアプリに代えてホワイトボードにして語るほどの内容でもないか。テキトーにかいつまんでいこー。


 「縄文時代中頃までの遺跡から発見される遺骨は体育座りをしている。何故窮屈な態勢で葬るの? これってさ、多分だけど手足を縛って葬ってるんだよねー。ちなみに古代ペルーの遺骨は布でグルグル巻き。棺桶の蓋を釘で打つのもそうだけど、土葬からゾンビの連想は古今東西共通らしい」


 出てきたら怖いよー、て感情は理屈じゃないもんなぁ。


 「弥生時代あたりからは身分が生まれて、死体にも『格』が生まれた。モブの死体はもう怖くなくなった代わりに、身分の高い人の死体は絶対ヤベー、て恐怖が生まれた。どうする?」


 俺は中国史に詳しくないから本家の始まりが何だったのかは知らんが。


 「その答えが初期の古墳。アレはノーライフキングが徘徊しないための巨大な重しだよ」


 ちなみにリッチも個人の創作な。


 「時代が進むと古墳の作りが変わっていく。ノーライフキングが徘徊しなかった事実に安堵して、土で抑えるより重い石棺で良くね? 内装豪華にしたほうが喜んでくれるんじゃね? といった改良が加わっていく」


 そういえばコレ言っとかないとダメか。


 「ちなみに何故山があるのに人工の山を重しにしたのか? それは、山に神様がいると信じていたからだねー。自分ちの庭に死体を埋められたらブチギレる。神に喧嘩を売ったらノーライフキングどころの恐怖ではない。あと海幸彦山幸彦って男神もいるけど八百万もいれば例外もあるってことで、基本日本では海や山にいるのは女神様ね。だから山は女人禁制、海に女は素潜りの海女までしかダメ、沖には来るなって発想になる。女の嫉妬は怖いってこと。こういう背景も知らず女性蔑視とキレる人もいるらしいけど、女を蔑んでいるのではなく、女神を崇めているんだぞ」


 ただし例外はいくらでもあるのが歴史のメンドイとこか。


 「山に皇族を埋葬した例はある。冤罪で処刑された皇子がいてね、その後持統天皇の息子が夭折しちゃったし、多分何か祟り騒ぎでもあったんだろうね。わざわざ墓を掘り返して山に埋め直した。生前その山かどうかは分からないけどその山と受け取れそうな歌を詠んでいるから、『女神様、貴女を慕うイケメンを側におくのでどうぞよしなに』てこと。ゲに恐ろしきは人の業」


 このてのハナシはいくらでも出来るけど、そろそろ時間だから今日はコイツで終わっとこうかな。


 「さらに怖いハナシ。皇子を埋葬した時、その現場で、その皇子の実の姉、確か巫女だったような、まぁうろ覚えだけど、その姉がね、犯人の女性天皇の持統の前で歌を詠んだのさ。ここまでを踏まえるととんでもない内容の歌をね」


 うつそみの 人なるわれや あすよりは 二上山を いろせとが見む


 「いろせとは弟。女神だっつってんのに、弟と呼ぶわね、だとさ。ゲに恐ろしきは女の戦い」

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