第19話
午前九時半。
音源確認して登録、と。音楽関係はプロに任せたほうがいいのか毎回悩む。なんだかんだ一人でやってたら慣れてきたけど。
会員限定で視聴できる演奏動画が少しずつ増えてきて、なんかVtuberらしいって感想になるのが我ながら笑える。
欲を言えばアレだな。3Dじゃなくて嘘くせーってのが恥ずかしいからスタジオ借りてモーションキャプチャーがどうとかやってみたいな。そのうちメッチャコスト低くなるはずだからっ。
会員限定だから視聴回数も、そもそも会員数もお察し。
いいけどね。ケチつける連中には見せたくないもの中心のコンテンツをまとめてるだけだから。
リスナーの要望が地味にしつこくてやってみた、配信外で黙ってプレイしたガチモードのFPSが一番ウケてる。ひどくない? 無言、ダメ、絶対を胸に頑張る俺全否定ですか。
まぁガチと言っても手は抜いてるし喋ってるけど。
ゲーム内キャラが行動に応じてお喋りするからボケてみた。
『アイテムボックス投下っ』
「親方ぁ、空からショットガンがっ」
『雑ぁ魚発見』
「見たまえ、人がゴミのようだ」
『ダメージゾーン収縮が始まったぜっ』
「五秒で支度しなっ」
『どうやらもうセーフティエリアに入っているようだね』
「三分待ってあげようではないか」
『グレネードを投げたぜっ』
「目がぁー、目がぁぁぁーっ」
『シールド割ったぜっ』
「流石ママっ」
『よこしなっ、ソイツは私の物だっ』
「ママぁ、待ってよー」
一言コメント「あんたは黙ると落ちる天空城ですか」
君たちは毛繕いの代わりにツッコまないと沈むラッコかい。
演奏はゲームミュージックのみ、各楽器を使ったひとりバンドで収録している。そろそろ違う何かをしたいしボケたいなぁ。
競争に勝つには二通り。人より優れているか、人と違うことしてウケるか。
器用貧乏の俺は後者を考え続けなければ勝てない。
いやまぁ誰に勝つとか意識はしないけど、より良いモノを作る姿勢は持って当然だから。
とはいえ音楽使ったボケは無理か。スベるか怒られるオチしか思い浮かばない。
人と違うことって点だけに囚われると、例えばそうだなぁ、バイトテロの動画で炎上とか? コイツ何がしたかったのって不快な自爆をしてしまう。
大勢の人が関わる他のメディアと違って配信は個人で進めるから暴走が怖いな。特に俺はそんなつもりはなくても何かを攻撃しちゃうようだから、せめて言葉使いは乱暴にならないように気をつけている。
死ね、殺す、バカ、アホ、この類いは言わないように。絶対言ってないかは自信ないけど。ヒロユキが言ってた? それはノーカンでお願いしまーす。
おっと時間だ始めよう。
「どもー、人混みは避けてマスクもするからコロナ騒動についていけないラズベリーの入ったシュークリーム、シューク・ベリームです」
ホントは吸血鬼に縁無さそうってだけだけど。
「結局コロナって何なんだろね? もうこの世から消えない気配すら感じるんだけど。年中居座るインフルですか? 初期のパニックが懐かしい。空港閉鎖とか」
コメントはかかった人の悲鳴多め。病気知らずの身体になったのは素晴らしい、のか? ないものねだりだからどっちもどっちか。
「世界中が対応グダグダだったよね。誰が悪かったとか非難して終わりじゃなく、どう動けばコロナを消せていたのか反省して次に活かせないのかな? そういう建設的なハナシがまるで聞こえないのが情けない」
もしかして人間の知性退化しとる? て感じるのは気のせいだろうか。久し振りにコメンテーターとか紹介される胡散臭い連中のいるテレビ番組観たら全員バ……、昆虫か何かの前世まで若返っているようにしか見えなかった。あの人が言葉で無双できるわけだ。
「とか社会派気取っても疲れるから日課のお散歩スタート」
さっき増やした演奏動画の報告したら、会員ではなく普通に公開しろよとのコメントが。コイツ頭沸いてるなぁ。コメントが多い時は無視するし、アンチは黙ってブロックする方針だけどサラっと煽っとくか。
「上手い人の演奏が見たければそういう動画は星の数ほどあるよね。なのにわざわざ俺の演奏を聴いてケチつける人種ってもう他に何もすることがないほど暇なんでしょうね可哀想。申し訳ないけど俺はそういう人の相手をしてあげるほど暇じゃないんですよゴメンねプププ。俺の演奏なんてありふれた余興は、あくまで俺を推してくれる人だけが観ればいい。ホラ、小学生のお遊戯会と同じだよ。観に来て感動するのは親御さん。自分では何も生まないくせに他人の作品にケチつけて金を稼ぐ寄生虫が足を運ぶ場ではありませんよサヨウナラー」
何のために無数の配信があると思ってるのやらお前も快く推せる人の配信行ってらっしゃい、てことでブロック、と。
「演奏動画アップはあくまで親御さんへの業務連絡でした。今後もこういうやりとりあったらメンドイから会員だけに伝わる隠語でも作っとくか」
親じゃねーし、といった類いのツッコミ無視して考えてみる。
「あー、今日はナンカ眠ぃー、調子でねぇーわ、……、は? 俺三日寝てねーし。というダルそうな演技が始まったら、コイツなにかしらのコンテンツ作った自慢したがってると察するがいい」
[それ隠語じゃなく茶番な]
「そういう説もある。料理動画撮ろうとしたら意外な壁があった。俺プライベートでさ、料理しながら一生独り言するほどまだイカれてないから無言動画になっちゃった。今アテレコしてるから楽しみにしとけー」
『実況はワタクシ天使のシュークと解説の悪魔、ベリームさんでお送りします。ベリームさん、よろしくお願いします』
『ハイよろしくお願いします。今日はパンナコッタ、ですか』
『なんでもリスナーにとっては思い入れがあるからと、他の料理動画を観て自分も作れる気になって初めて挑戦するらしいです』
『清々しいほど失敗フラグが立っていますね』
『余裕余裕。杏仁豆腐と同じじゃね? 知らんけど。杏仁豆腐、作ったことないけど。とは本人のコメントです』
『立った。フラグが立った』
『テーブルに材料を並べて確認していますね。これは基本に忠実、ベリームさんもニッコリですアァーっと、アレはラム酒ではなく……』
『ええ、見間違いのないレベル、いやラベルで大吟醸ですね』
『何故言われた通りの材料を用意できないーっ』
とかボケ続けてる。後半納得いかなくて煮詰まってるところ。パンナコッタだけに。
あと演奏もだけど料理も身体を映さないように撮るから不自然感がどうにもならないんだよなぁ。
「最近落語にハマってニワカになって、ひょっとしたらコレ特技になるんじゃね? てヤツ見つけた。三題噺って分かる?」
話術の頂点だから以前から知ってはいるけど、ツウぶると怒られそうだからニワカと言っとこ。
「三つのお題をもらって即興でハナシを作る話芸といえばいいのかな。俺話術だけは即興得意だからイケそう。でも本家のアレは、声音や間の置き方といったテクニックも込みの芸だから普通に真似してもまさにお遊戯レベルにしかならない。そこでエンタメに昇華する方法を考えたわけですよ」
ドヤァ、て顔をするとゲーム画面右下に映るガワもドヤ顔をして、頭上のシュークリームが膨らむ仕様です。
「とりあえず試してみっか。スタートと言ったら思いついた単語を何でもいいからコメントして。伏せ字になる類いは禁止。最初に並んだ三つを採用するよー。スタート」
コメント欄に番号ふるか迷ったけど、ノッてくれるリスナーは十人いれば良いほうと判断してやめた。スタートで失敗したらもう挽回ムリじゃい。
[コロナ]
[なにこれ]
[ゲシュタルト崩壊]
[文化祭]
[ヘッドショット]
「本家の落語家も発狂しそうなお題ありがとう。やってやらぁー……、ハイ整った気がするぅ」
なめんなよコンチクショー。ちなみにゲームは戦闘中な。だからヘッショ混ざってるのは分かるとして他は何だよ。
「おー、隣のクラスは猫カフェかーわいー。なぁ、ペットショップ十回言ってみ?」
「ペットショップペットショップペットショップペットショップペットショップペットショップペットショップペットショップペットショップヘッドショット」
「……、なんでもねーよ」
ドヤァ。
[www]
[あ、そーいう]
[お巡りさん]
[ハンター放出]
[プログラム]
[おーい単語出しまくれー]
「SS(ショートショート)三題噺と名付けてみた。ってまだスタート言ってないんですけどぉー。まぁいいよ、俺に分からせようなんて百年早ぇって分からせてやる……、ハイ、整った気がするぅ」
制限時間が迫り、ついにヤツが解き放たれたっ。
『ハンター放出』
「きゃー、来たー、逃げてー」
「あのねぇ君たち、いい歳してショッピングモールを走り回っちゃダメですよ。他のお客さんの迷惑になるでしょ?」
「うす、すいませんっシたぁ」
ドヤァ。
[そろそろ来るぞ]
[弾込め用意]
[撃てっ]
[チャラ男]
[進化]
[車エビ]
「ちょっと、聞いてる? お題並べることしか考えてなくない? ハイ、整った気がするぅ」
ハハハ、この程度の悪ノリでキレてたら付き合ってらんねぇよ。
「そこのお嬢さんカワウぃねぇー、俺とドライブしない?」
「なにそのクルマ?」
「ローブスター」
ドヤァ。
[パチスロ]
[ドライアイス]
[ラフレシア]
「……………………、ハイ、整った気がするぅ」
「お、スモークの演出きたぁ。臭ぇっ、臭ぇっ、臭ぇっ、揃ったぁ」
CRラフレシア
ドヤァ。
今日は少し早めに配信終了。
ドヤり疲れてバタンキュー。
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