第15話



 午前九時ちょっと。法律事務所を出て特にこってはないけどお作法として肩をもんで疲れた感だしながらチャリに跨った。

 収益雀の涙とはいえ金銭絡む以上、そろそろいつでも相談できる弁護士くらい用意しとかないとねーってこと。

 ネットは誹謗中傷だの開示請求だの名誉毀損だの焼肉定食だの魑魅魍魎だから。

 ちなみに相談したら税理士とハナシをつけて税金関係もどんとこいとのこと。弁護士使えるヤーツ。


 ナントカイーツ尾行しているような気不味さを隠してチャリ漕ぎながら都心を離れて三十分くらいで帰宅。配信間に合ったセーフ。なんかアイツ俺を二度見してきたけど感じ悪っ。ママチャリ漕ぐ吸血鬼に追い越されたくらいで驚くなよ。


 「どもー、イチョウ並木を見るとおセンチになるクランベリーの入ったシュークリーム、シューク・ベリームです」


 [こんちゃー]

 [秋だねー]

 [珍しくまともな入り]

 [普通の感性、風邪?]


 「ひどくない? 俺はただ、茶碗蒸し以外に使われない銀杏を思うと物悲しさを感じるって高尚さをアピりたいだけなのに」


 日本人は食べ物に執着する民族なのに銀杏無視されすぎて可哀想。


 [今日もイカレてた]

 [安心]


 「はいはい今日も安定のFPSやってくかー。これを越えるちょーどいいゲームってまるでないなぁ。もういっそパチスロゲームやりながらお喋りしてたらダメ人間ぽくて面白そうな気がするけどダメ?」


 [じゃあダメ人間ロールプレイで]


 「オッケー。ウォームアップにやってやらぁ」


 飛行機からダイブ。軽く漁って装備を調えたら近くのホバーキャリアーくるまに乗って突撃。


 「ヒャッハーどけどけーパラリラパラリラシューク・ベリーム、シューク・ベリームです。シューク・ベリームに清き一票をどうかお願いしますっ」


 初動ファイトしている群れに突っ込んで離脱。止まったら撃たれまくって即死だし。


 [ダメ人間の定義っ]

 [確かに最近ウルサイけどw]

 

 そういえばこのゲーム、アイテムゲットできるスロットマシーンあったよなぁ。

 くるまから飛び降りて家に入ってスロットの前へ。


 「ザワ、ザワ、ザワ、ザワ……」


 [はよ押せw]

 [なに賭けてんだよ]


 とか時間かけてたら見つかって撃たれてゲームオーバー。たいしてネタ思いつかなかったから早めにやめとこ。


 [ついに政治家まで毒牙に]

 [消されるゾ]


 「あんな活動第一歩で珍走族と同じことしないと自分の名前もアピールできない連中が国益になるかどうか考えるまでもないのにねぇ」


 創意工夫の概念欠けてんの?


 [シュー君だったらどうする?]


 「簡単だよ。まず俺のポスターはこう。正体は妖精。見つけたら運気アップ。で、選挙期間中は忍者のコスプレしてカーテン持ってそのへんのビルの壁に張り付く。見つけた人に手を振ったり握手したり。あとは見つけた人がSNSで宣伝してくれる」


 人って逃げると追いたくなるもんね。誰にも迷惑をかけず全員楽しめる選挙くらいしてみろや。


 [次は妖精のロールプレイ]


 「オッケー、て何をどうすりゃ……?」


 まぁお喋りしながら行動で示すか。煙幕まき散らす特殊能力アビリティ持ってるキャラを選択してスタート。

 

 ところで配信者あるある。同接数千いくような人ですらアンチコメってあるわけで、当然俺にも悪意まみれのコメント打ってくるヤツはいる。

 対応は配信者によって様々。いちいち反応して喧嘩したがる人もいるみたいだし、完全無視する人もいる。同接が多いと大変だから権限渡した人モデレーターにブロックしてもらう人が多いみたい。


 俺は同接百から二百程度だからひとりで処理してる。コメントの流れが早い時は見なかったことにして放置。しつこい場合は即ブロック。コメント欄がゆっくりで他のリスナーの目に止まりそうと判断してもブロック。


 大事なのはリスナーが不快にならないこと、だからね。俺自信は何言われても響かない。例えば俺が女性Vtuberとコラボして、キレたユニコーンが攻撃してくるならまだ可愛気があるけど、誰ともつるまず配信している俺を攻撃するのはただのやっかみだからな。


 お前イケメンすぎるぞゴラぁっ、て不細工に言われても、ねぇ? アザッスでもドンマイでも何言ってもキレるなら無視しかなくない?

 ああそうそう、今のところ俺を攻撃するアンチはもれなく男だね。女性Vtuberのアンチは女かな? このへんの心理は考察すると面白そう。


 [シュー君大丈夫そ?]


 ブロックが遅くて目に止まっちゃったか。スルーしてくれたらありがたいけど心配してくれてるならちゃんと応えとくか。


 「あなたが好きです、と書いた手紙はラブレター。古風に言うと恋文。誰でも知ってるよね? じゃあ、あなたが嫌いです、と書いた手紙は何て言うの? そんな名称は無い。嫌いな人に手紙を書く残念な人がいないから。今までいなかったから。最近いきなり大量に湧いたんだよねーネットこわっ」


 時々煙幕出しながらシュタタタと走り抜ける。敵は無視。移動し続けながらアイテム回収していち早く中央へ進む。


 「多分テレビ業界の人は残念な人と多く接してきたんだろうなー。そんで放送に不適切と判断してデータは闇に葬ってたんだろうなー。でも誰でも気軽にコメントできちゃう今、今まで表舞台に出てこなかった残念な人が一斉に登場してるんだよねー」


 中央付近の建物のワンフロアに持ってるアイテムの大半を捨てて、ダッシュで外へ。次は何持ってこようかな。

 

 「きっとこの人たちは学校に嫌いな人がいたら、あなたが嫌いですと書いた手紙を机か下駄箱に入れるんだろうね。虎ファンのアンチ巨人とか言って連日ドーム球場に通ってブーイングするんだろうね」


 弾薬の種類多くてメンドイ。テキトーでいいか。


 「嫌いな配信は観なければいい。自分の意思で観て、不快なコメントするって何だろね? 犬猫どころか昆虫ですら嫌いな相手には近付かないのに、この人たちにはその程度の知能もない。俺が大丈夫かって? 心配してくれてありがとう。Gを相手に来世は頑張れスリッパでスパーン、くらいの感情しか湧かないから大丈夫だよー」


 [で、それ何やってるの?]


 「妖精のイタズラ」


 中央周辺の使えそうなアイテムを一箇所にまとめているところ。最終局面で全員困れククク。


 「まぁ自分を高める努力をする人は他人の足を引っ張る暇はない。他人にちょっかい出す時点でソイツもう将来性ないんだよねードンマイ」


 [今絶賛足引っ張っとる妖精が]

 [おーいブーメラン返ってきたぞー]


 「おいおい、これは他プレイヤーの足を引っ張っているのではなく、俺が優勝するための布石じゃい」


 お茶目な妖精のイタズラは陰湿な攻撃判定やめてよー。


 「意識高い系は苦手だからソッチと一緒にされるのも困るけど」


 [出た。必殺ブルータス]


 「いつの間にそんな名が……、カッコイイじゃないか。俺一度でもリスナーに向かって、高みを目指そーぜ、とか、生まれたからにはデカいことしよーぜ、とか寒すぎるセリフ吐いたことある?」


 いやマジで意識高い系と思われるのは心外だわ。チャラ男呼ばわりされたほうがマシ。


 「自分ひとり、高みを目指すのは勝手だし立派だよ。でも高みを目指す至上主義に取り憑かれて周りを巻き込もうとするのはただの迷惑だね」


 おお、なんかフロアにアイテムありすぎて絵面がおかしくなってきた。他プレイヤーが見たら悲鳴上げるかも。


 「拈華微笑ねんげみしょうて仏教のエピソードが好きだから語ってやろう。ある日仏陀は広場に座ってボケーっとしていた。大勢の弟子たちは困惑しつつ、師匠のすることだからと真似して座った。半日くらいかどうかは知らんがメッチャ時間が経ったあと、ついに仏陀は動いた。ちょい離れた花を指さした。で? 弟子たちがさらに困惑を深めるなか、摩訶迦葉まかかしょという弟子だけはニッコリ微笑み、それ見た仏陀は言った。以心伝心ハイ合格ぅー今日からお前が二代目レッツパーリィーフォー」


 [捏造やめろ]

 [チャラい]


 「まぁ最後は真面目が耐えられなくてふざけたけど、中身は理解できたかい? これは公案と呼ばれる正解はなく自分で考えろというハナシだから解説は野暮なんだけどね。少なくとも俺はこう解釈してる」


 仏陀、花を指さし

 「ねえねえ、わしら一日中無駄なことしてた。まるであのお花みたい。あれっ? 花って無駄なのか?」


 摩訶迦葉、ニッコリ笑ってサムズアップ

 「花のような人生最高すぎて草」


 流石に全部には程遠いけどせっせとアイテム集めていく。そろそろ他プレイヤーも集まってくるから慎重に。


 「普通に笑ってりゃいいんだよ。どこにもゴールなんてないし、誰とも競争しなくていいし、誰かを傷つけても全然楽しくない」


 どうしてこんな簡単なことが難しいんだろうねー。

 回復アイテムしこたま抱えてフロアに戻ると敵がいた。


 「おんどりゃ貴様何漁っとるんじゃお代に命置いてけやー」


 マシンガン乱射事件。


 [ほぼほぼ予想してた]

 [実家のような安心展開]

 [こんな妖精はイヤだの大喜利だったか]


 悟ってるわけないじゃん俺俗物だもん。

 あーもー漁夫来ちゃう。譲らん、この場所は譲らんぞー。

 珍しく本気モード。フロアの各窓からざっと様子を見て敵影があれば狙撃。近距離まで近付かれていたら煙幕を出し、複数から狙われないようにしつつ一対一で素早く片付ける。


 [普通に無双できるんだよなぁ]

 [それでも視点が滑らかなのがw]

 [キル集の動画くらい作れよ勿体ない]


 「ゲームで無双してイキッても黒歴史だわ。それよりプププ、ここにきて残り人数の減り早っ。物資が尽きとる」


 回復アイテム欲しい? ゴメンね大量に隠しちゃった。グレネード欲しい? ホラ大量にくれてやる。

 一度バラまいて一旦フロアに戻ってアイテム補充したら屋上に登り、隠れている周辺にありったけのグレネード投下。

 激ロー(瀕死)で飛び出した敵を狙撃でしとめ、残りひとり。

 屋上から飛び降り回復中の敵の背後に着地、サクッと暗殺。


 ファンファーレに祝福されながら高笑い。


 「フハハハ、妖精のイタズラ大成功」


 [ジェノサイド]

 [運気アップ……、か?]

 [大半のプレイヤーは気付いてなくね]


 「目が肥えすぎっ。もっと普通に褒めろー」

 

 だからネタプレイはたまにしかやりたくねぇんだよ。


 ずっとあとになって知ることだけど、プレイヤーの誰かが配信者だったらしく、壮観なフロアで乱射する俺が映った切り抜き動画が上げられてSNSでも拡散されたらしい。


 タイトルは『アイテム独占する妖怪?』


 イっム。(ほっとけ)

 

 

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