第3話


 巨大イモムシが吐く蜘蛛の巣みたいな糸をかわしながら側面に回り込み、ダガーで三連撃をいれる。雷属性利いてなさそうコリゃ武器変えとこ。


 「偏見なのは分かった上で、ひょっとしたら声の良さと顔の良さは比例するのかな? て考えちゃうくらい男女共にアイドルみたいな声優多いよね。そんな声優を推す人もたくさんいるから声以外もウリにする選択は成功なんだろう」


 巨体を活かした転がり攻撃が地味にキツい。あと絵面ヒデェ。


 「ただ、どう言い繕っても客前で積極的にキグルミ脱いじゃったわけで。ダメージを受けたのは一部の人達とはいえ、アニメの夢を壊して目を覚めさせてしまった」


 おっしゃ撃破ぁ、てちょっと待って。何このエフェクト。第二形態? 序盤のくせに鬼畜すぎない?


 「その人達もね、きっと己の感情をもて余したと思う。アニメキャラの中の人が顔出すなんてヒドいって言い分は、サンタクロースを信じているの? って類の嘲笑を浴びると分かっているし、なによりまだアニメが好きだから声優に怒りを向けられない」


 まじか。脱皮して中から人型ロボット出てきた。雷属性有効のフラグ回収は今かよ。ライトニングダガーを装備……、って演出キャンセルして突っ込んできやがったナニコレ面白っ。


 「そんな一部の人達にとって最後の希望がVtuberなんだねぇ。オリジナルなアニメキャラが自由に喋る。多少例外はあるけど原則顔出ししない。自分のコメントを読んでくれることもある。理想が刺さりまくった」


 バックステップ、サイドステップを多用して避けながら動作パターンを憶える。

 ビジュアル系か厨ニのように両腕を広げて正面の謎空間から蜘蛛の巣発射。右水平移動に合わせて偏差撃ちしてきた糸を左ステップに切り返してかわす。

 そのままもう一度左ステップすると瞬間移動か縮地か知らんが一瞬前にいた場所にボスが現れ正拳突きを空振り。隙は小さいから二度切りつけてバックステップ。広範囲にエフェクトが散るボスの回し蹴り空振りざまぁ。


 「でも彼らのトラウマは深く、ついに現れた理想のVtuberは眩しすぎた」


 幅跳びの挙動で肉薄しながら両手を組んでスレッジハンマー。空手かプロレスかどっちなんだいっ、と刺突を繰り出す。狙い通り外れた代わりに前進モーションでスレッジハンマーを回避。

 お互い背中合せで硬直する一瞬ショートカットコマンドをタタン。剣術スキル兜割りィ。


 「行き場のなかった怒りの矛先を得て攻撃性高杉君。リアルをさらけ出した声優の二の舞いはゴメンとばかりに、Vtuberがちょっとでも異性と関わるとヒステリックに反応する。恋愛かどうかは別として異性と関わる機会はいくらでもあるのにその程度の分別もつかないほど盲目になる」


 垂直大ジャンプでボスの後ろ回し蹴りを回避。空中でギュルんと半回転してボスを眼下に見据えてドタマかち割ったりー。

 いったん離れて仕切り直すとあとはもう作業だね。喋りながらチクチク。斬って刺して合間にエモートポチって煽ってみる。

 派手に爆発してボス消滅。体力少なめ? 参加人数で強さが変わるとかありそー。


 「そんな彼らはアンチやユニコーンと呼ばれている、というのが俺の見解。悲しきモンスター誕生秘話、説得力ありそ?」


 [雑談かバトルかどっちかにしてもろて]

 [初見のソロでこれはねーよ]


 「えー、サービス精神メガ盛りDXでアンチコメとかやってられまへんサイナラー」


 ボスにも見せたエモ、地団駄踏ませてからダッシュでボス部屋を出た。

 確かにテンション上がって上手くプレイしすぎた。反省反省。


 「ハイ洞窟抜けたァ。結局ココ何? そろそろ次の街で買い物とかしたいんだけど。ネタバレ禁止と言いつつ一人くらいは指示厨いてもいいんやで」


 [マイナーすぎて無理]


 「まぁね。徹夜明けに作ったかのようなゲームバランスから察してはいた。イモムシからロボットって何だよ王道から逸れようとする意気込みは買うけどコレ獣道だよ」


 とりあえず種類が変わった雑魚を蹴散らしながら森の中を駆け続ける。崖に開いた穴を通って洞窟から出ると森て。


 「道は自分で作れってメッセージ? 強引愚昧道のタイトル回収やかましいわ。あとただの一人も他プレイヤーに会ってないのが地味に怖くなってきた。思い返すとスタート地点にいた連中、BOTな気が……」


 [サクラ? 運営の闇に踏み込んではいけない]

 [オンラインの過疎てすぐ伝わりますね]


 「おや、誰か来たようだ……、ってしばらく黙る茶番は悪質だからやめとこ。なるほど過疎か。確かに平日田舎のデパートもこんな空気感だったような。本当はてっきり誰も挑まないルートに来ちゃったのかと。スキー場で初心者コースのリフトに乗ったつもりがプロコースだった件、みたいな」


 RTAどこ行った? 自分でも思うけどまぁいいや。初見で生き急いでワチャワチャする絵面が面白そうと思ったってだけだから。


 [シュー君Vtuberにならないの?]


 「ちょっと待ってシュー君呼びズキューンきた。性別言わないで脳内補正お姉様だから。あー、なんか補充されたはぁ」

 

 [かわよ]

 [あらボウヤ鼻血]

 [www]

 [シュー君おねショタ希望なのカナ?]


 「フュっ、クククク……、おいコラなんでおじさん構文混じってんの誰得だよっ!」


 キモすぎるリスナーがツボって腹痛いからエコーをかけて大きめの声でツッコんでやった。


 珍しくコメントも笑いが絶えないから、ショタじゃねーわとショタボを作ってボケてしばらく引っ張っていたら脈絡もなく大きな落とし穴にはまって滑落。古代遺跡っぽいマップを探索し、包帯ぐるぐるマミーのフリしたロボットのボスを撃破し、ドロップしたイベントアイテムらしき果実を火口に投げると火の鳥が飛び出して、背に乗ると新しい街まで自動で飛んでって上空から捨てられて人口の泉に落ちた。


 「やっと一段落ついたからそろそろ終わりにしようかな。予想以上にグダグダだったから次は普通にプレイしまーす。配信外で経験値稼ぎだけさせてちょうだい」


 おっと忘れるところだった。


 「少し前の質問、Vtuberにならないのか? 今の趣味配信で割と満足しているから分からない。収益化くらいは目標にしてて、叶って要望が多ければなるかも。んじゃセーブしたしオツカレー」


 いつものルーティン。切り忘れがないかチェックしてから一息ついた。


 うーんやっぱ時代はVtuberかなぁ。近い将来メタバースの環境に適応が求められてメンドくさそーとか悩んでいるけど準備くらいはしとくか。

 器用貧乏は正解。何やっても一流にはなれなくてもそこそこ上達できる。お絵描きは練習中。他の武器として、とりあえずギターでも買ってみよう。


 大丈夫、この感覚。記憶はないけど前世の俺は学生時代にギターをかじってるとみた。なんとなーくコードが分かる。でも得意気な自信は感じないからすぐ挫折したんだぜきっと。前世、お前の仇はとってやる。


 記憶については何が起きているのかサッパリ分からない。授業や本などで得たと思われる知識は多く残っていて、経験、感情に紐づく思い出は昔見たB級映画の内容くらいにボヤケてる。


 引きずる性格でもないし別にいいけど。

 整う感覚に心地良く包まれながら眠りに落ちた。

 好意的な感情を贈ってくれる全ての人にありがとう(と思いつつ女性限定)。


 夕方目が覚めて近所のスーパーに買い物に出かけて帰り道。

 小さな横道のすぐ先、電柱の影から半身を出した何かがコチラを凝視していた。


 また湧いて出たか。

 コイツらが何かは分からない。便宜上いかにもソレっぽいから妖魔と呼んでいる。

 姿に統一感はない。今日のやつは頭から足元までゴザで簀巻き、目元の穴からギョロ目の妖怪風。他にスケスケ人間のユーレイ風や頭と腕だけカマキリな人間って怪異風も見たことがある。


 メタ読みすると元凶は俺なんだろうね。俺とは無関係にこんなのが跋扈してたら日本はとっくにパニックだわ。

 まぁ一般人には見えてなさそう。  

 殴る蹴る食い殺すといった物騒な真似もしないっぽい。

 ただ、放置はマズいって警鐘はガンガン鳴る。台所のGと同列?


 というわけで周囲に人気はないのを確認しながらチャリの速度は緩めずエナジードレイン。今までと同じくバトル展開も何もなく妖魔は消滅した。

 あー、不味。エナドリ汁のうどんくらい何かムカつく。そのココロは? 気持ち悪くて何かを冒涜している不快感もあってそのくせ栄養価は高そう。


 俺が吸収するエネルギーは陽の気と陰の気があるっぽいって言ったじゃん? コレがその根拠。心地よいモノと不快なモノが糧になるらしい。


 俺の身に何が起きて身の回りのファンタジーは何なのか、一応考察してアタリはつけてるけど所詮は憶測。結論は分からない、としておくしかないし別に今のところそれで困りはしない。


 物語だったら日ノ本には古よりアヤカシと戦う組織だの一族だのがいて、そこに所属する美少女か師匠キャラが俺を見つけて接触してきて、ファンタジーについて解説したり俺の能力を鍛える展開確定だよな。


 フィクションだから面白いのであってリアルだったらウザすぎて逃げるね絶対。


 リアルは分からないことだらけで当たり前。いちいち気にしてたら何も出来ない。

 だから関わってくるなよ厨ニ組織。一番ありえそうなトコは内閣調査室とか? 宮内庁の闇に潜む陰陽寮とか? ちょっとロマンを感じるのが余計ヤダぁ。


 おっとアイスが溶けちまう。

 ペダルに力を入れて加速した。あー電動アシスト欲しいな買おうかどうしよー。

 



 

 



 

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