第4話

 

 「どもー、目に良いって感じたことのないブルーベリージャムの入ったシュークリーム、シューク・ベリームです」

 

 今日も今日とて配信配信。画面はFPSのトレーニングエリアをうろうろ散歩。さて今日は何を話そっかなー。


 このゲームは大きく分けると二種類のモード、遊び方がある。一つはエキシビションマッチ。純粋に遊ぶだけ。結果が何位でも何もない。


 もう一つはランクマッチ。倒した人数やダメージ量、順位によってポイントが加算減算され、実力に見合った階級に振り分けられる。色で呼んでるらしいが詳しくない。

 

 いつものエキシビションで特に勝ちにこだわるでもなく徘徊と狙撃しながらお喋り。近接は忙しいから逃げる。大半のプレイヤーから嫌われるヤーツ。


 「……、そうそれ、泥団子の艶が出るまで磨くって何? 中高生かもっと上か、大きくなってから番組か何かで見てショックを受けた憶えがある。まるで鬼ごっこやかくれんぼくらい普通の遊び、という態度が意味不だったなぁ。自分も周りの子供もそんな遊びしたことねーわ何その職人魂育ちそうな特殊訓練知ってたら絶対ハマってるっつーのズルい」


 [幼稚園で男児ばかりやってたような]

 

 同接八人。午前十時半だからこんなもんだね。一人でも返してくれると会話になるからありがてぇ。


 「わかりみィ。ヒソカに今だって機会があればやってみたいくらいロマンを感じるもん。陶芸教室のお手軽バージョンぽい」


 プレイヤーが少なくなってきたところで複数から狙われて呆気なくゲームオーバー。賑やかしだから別にリアクションもなく再度キャラ選択画面に移ると質問された。


 [シュー君ランクマッチはしないの?]


 他のリスナーからも同じ質問をされたことがある。ま、配信者あるあるだろうね。だから特にメンドーとも思わず以前と同じ答えを返した。


 「しないよ。アッチはガチ勢や暴言厨、不正者チーターが多くて疲れるでしょ。ヤンキーに絡まれそうなゲーセン好き好んで行く人おる?」


 [分かるけどもったいない]


 「順位に興味がないのもあるし、何よりリスナーを不快にさせたらダメでしょ。システムも嫌い。三人一組のチーム戦を強制するルールがヒドい。仲の良い三人で遊ぶ前提て。それ以外は余った者同士で組めーってボッチ最大のストレスと言える学校行事と同じやないかーい」


 [www]

 [言われてみればホントだ]


 「FPSの配信や動画は結構見ててさ、面白いけど不快な場面も多すぎる。暴言厨は論外だね。体育会系の部活動をしたことのある人なら当たり前の感性だけど、試合に負けてメンバーのせいにする人は一瞬でハブられるわ」


 ちなみにこんな話しをしながらシレっとエキシビションはしてる。内容に合わせてヤレヤレのエモート、我ながら器用。


 配信者も死ねとか殺すとか連呼するの不快だね。テレビやラジオのアナウンサーはNGワードを教育されてる点を鑑みて、生まれたてのこの業界はまだ未熟な子供だらけって感じる。

 ま、流石にこういう批判的な考えまでは話さない。無駄に敵作って良いことなし。

 んー、配信者の言動……、か。閃いた。


 「試しにランクマッチに行って実況してみよっか。リスナーを不快にさせないことを最優先に、というミッション」


 サクッとエントリー。以前配信外で遊んで民度の低い環境に呆れて離れたわけで、つまり俺のランクはそこそこ高い。自慢するほどではないがとりあえずルーキー帯は抜けてる。


 待機所に三人揃ったからキャラ選択をしてゲーム内の機能のVC、ボイスチャットをつなぐ。


 「よろしくお願いします」

 『……しくお願いしまーす』

 

 一人から遅れて返事。もう一人は無視かVCをつないでないか。ガラの悪そうなプレイヤーではないだけ当たりだね。しかも返事の声は女性。これだけで喜ぶ男は多いんだろうなー。


 「罰ゲームで変なこと喋るけどスルーして下さーい」

 『……』


 自分は配信者でこういう事情があって、なんて説明は誰にとってもウザいから平然と嘘をつく。結構便利ワードだよね罰ゲーム。さっそくヒかれたけど。かまへんかまへん。この人もリスナーも笑わせてやる。アニメ声を意識して、と。


 「コホン、では始めます。封印されし厨ニ全開ロールプレイング実況!」


 三人一組二十組が飛行機から次々飛び降りてゲームスタート。 


 「フーン、獲物が散ってくね。ボクたちも行こうか。兄さん、姉さん、狩りの時間だよ」

 『……、え?』


 飛行機からダイブ。同接が増えてきてコメント欄もざわついてる。


 [ショタボきたー]

 [クール系ミステリアスショタw]

 [野良が戸惑ってて草]

 [使ってるキャラオジサンは減点]


 チッ、キャラがナイスミドルなのはミスったけどしょーがないでしょ。全部都合よくいくわけあるかぁ。なんて内面の動揺は出さない。照れるのも一番ダッセー。やるからには演じきれ。


 「ただいま、自由な大空。ゆっくり漂いたいけどちょっと野暮用があってさ。またあとで。さて、と。あそこに降りようか。フフッ、最初の獲物はキミたちに決定」


 他のチームの降下地点に被せて着地。即座に周辺に散らばってる武器弾薬の類を回収して武装、飛んできた銃弾から現在位置を特定して牽制に撃ち返してダッシュ。スライディングによる加速からのジャンプしながら物陰に隠れたプレイヤーを視界に収めてマシンガンフルオート。


 今回は勢いでやっちゃったけど、降下地点を被せるのはガラが悪いからしないほうがいいそうですハイ。行列に割り込むくらいに嫌悪される。

 相手の嫌がることをした人が勝つ殺し合いのゲームでルール違反ですらないのに何ヌルいこと言ってるのやら、とは思うけども。日本人的美意識ってやつかな。


 「ワンダウン。残りは……、ソッチか。兄さん六秒耐えて」


 ある程度デキる人にとっては常識だけどこのゲーム、地形を憶えて立ち回りを意識していると、味方の位置と足音や銃声からどこで何が起きているかおおよそ把握できる。


 一秒走って上り坂で見えない向こう、二十三メートル先の壁裏を思い描きながらグレネードを山なりに投擲。すぐにダッシュ再開。横から迂回する形で。


 五秒後に爆発。兄さん(?)に詰めようとしていた敵が吹っ飛び、後ろを遅れてついていくもう一人の敵の意識が向いてる隙に背後に回り込んで連射。

 落ち着いて片付けてから吹っ飛んだ敵にもトドメを刺す。


 「ピクニック気分のお客様はお引き取り下さい、なんてね」


 視聴者に見えるよう、一旦視点を主観から俯瞰に変えてエモート。キャラに執事のような礼をとらせたらウケた。


 [うますんぎ]

 [神グレやば]

 [謎の強キャラムーブのりのりw]


 プレイヤーが倒れると所持品の入った棺桶に変わる。基本は開始しばらくは周囲を探索してより品質の高い武器やサポートアイテムを集めるのだけど、集めた敵を倒すと手っ取り早い。


 「早くも相棒みーつけた。アルテミス、ボクを呼んだのはキミかい?」


 狙撃銃にガチャコンと弾を込めるボルトアクションを見せながら一言。もちろん狙撃銃なんて何種類もあって別に相棒ではないしアルテミスなんて名でもないし呼んだこともない。出たとこ任せでソレっぽいことを言うだけ。唸れ俺のアドリブ力ぅ。


 「はいはい急かさないで。今日も思う存分鉛玉を食らわせてやろうね」


 マップの外側から内側に向かってダメージゾーンが収縮していくからとりあえず内側へ移動する。対人系FPSの定番だけどこの仕組み考えた人スゴイ。


 しばらくは会敵なく物資を漁りながらの移動だけになりそう。一応マップの仕掛けのレーダーを使って索敵とか重要な作業はあるけど、絵面に刺激はなく無言になりがち。普段は常に雑談タイムだから気にしないけど今はどうつなごうか。


 「にしてもこの蠱毒、超人たちの潰しあいはまどろっこしいよね。どうせ世界ランク十位以内あたりにヤツが紛れているんでしょ? クスクス、ボクに始末されたくなくてここまでするとか必死すぎて可哀想」


 ヤツとやらの設定必要かな? とか考えながら走っていると画面の一部、数ドットが動いた。三百メートル向こうの山肌に潜む敵発見。一般プレイヤーは見つけるのは無理かもだけど、一応配信機材には金をかけていて、なかなか大きなモニターだからこれくらいはできるのですよフフン。ちなみにプロはできて当たり前。吸血鬼スペック全開でも多分負ける。なんであれ一芸特化の人って人外だもん。


 マップに印をつけて情報を共有する。


 「待ち伏せだよ。気をつけて。まぁあれで隠れたつもりなんてたかが知れるけど。ボクのホークアイをナメるとは、フフッ、お仕置きしなきゃ」


 メインモニターの隣にもう一枚二十インチだったかな? のモニターを置いていて、コメント欄専用にしているから見やすい。過去一盛り上がってるのを横目にニヤニヤしながら敵に近付くと、敵から百メートルあたりで姉さん(黙)が秒殺された。


 弱っ、て声に出しそうになったアッブネ。うーんなんか違和感が。まぁいいや。


 「姉さん蘇生はあと。物陰に隠れて待っててね」


 ダウンするとゆっくり移動することしかできない。この状態で攻撃を受けて体力がゼロになるか、味方に手当てされずに二分経過で死亡判定になる。


 さっさと決めよう、と遮蔽物の小岩からスコープで敵を覗こうとした瞬間、小岩の向こう側に着弾音。ウワぁ、コイツチーターやん。まだ確定するのは早いけどウォールハックと呼ばれる不正、壁が透けて見えてるでしょキモっ。


 ま、分かればどうってことはない。着弾音が途切れて二秒待つ。大抵のプレイヤーはこの場合、次のチャンスに備えて残弾があっても弾倉マガジンを交換するのがセオリーと動く。その隙をついて俺は小岩からスコープで覗く、と。


 「フーン、随分狭い穴から狙ってるねぇ。それで防げると思ってるならマ・ヌ・ケ」


 敵が装弾して改めて狙いをつけようとした瞬間ヘッドショット。最高品質のヘルメットをゲットして装備していればダウンは防げるけど、コイツらまだ中盤にもなってないのに待ち伏せするためにロクに物資を集めてないはずだからその可能性はほぼない。その点も変なんだよなぁ。何がしたかったんだろ? 考えても分からないからスルーするけど。


 「ねぇ知ってる? 本物のスナイパーってさ、対象との距離と高低差から三角関数使って射線を測量して、温度湿度風向き風速からの偏差も暗算して、実戦では平均一キロメートル前後から針の穴を通して初めてスナイパーを名乗るんだよ? 何の障害もないこんなお遊びでこのボクが外す可能性はゼロだよご愁傷さま」


 まるでリアルの俺が本物のスナイパーかのようなイキったセリフと共に残り二名もヘッドショットでしとめ、敵チームは三名ダウンで手当て不可能だから全滅判定で棺桶に変わり、姉さん(弱)に駆け寄るとコメント欄は拍手喝采に包まれた。


 ちなみにドキュメンタリーかなにかでスナイパーについて知ってスゲーと思ったことがあるから言っただけ。三角関数? さいん子さいん孫さいんウッ、アタマが……。

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