第13話 エピローグ
玄関先、
とっくに冷めてしまった紅茶を入れ直すと、背の低いテーブルの脇で正座する
「今日、僕は
「……すみません」
クッションの上、俯き加減にしゅんとする
まるで生徒が先生に
「怒ってるわけじゃありませんよ」
極力平静を装いながら告げると、
もちろん怒ってなどいない。
それどころか——
「正直、あんなふうに言ってもらえて。救われました」
俺がそんなことをするはずがないと、
本当に嬉しかった。
ただ
「でも、どうして急にあんなことを?」
「……我慢出来なかったんです。自分の大切な人を馬鹿にされたような気がして、悔しいじゃないですか」
俺を尊敬していると言ってくれた彼女の真剣な声が、
そんな中、訪れる数拍の静寂。
多分、今お互いに
「あの、
声が重なり、追いかけ目が合う。
一瞬視線を外すも先に続けたのは
「さっき、私があの場で言ったこと。嘘じゃありませんから……」
「……
「私、
次いで
そんな彼女の意志を受けて、でも俺は……。
「僕は
「そんなの。誰だって歳は取ります。それに年齢なんて関係ありません。なにより
真剣なその眼差し。自分の中で湧き上がる感情は多分、迷いだ。
「本気、なんですか?」
俺は確かめるように彼女に問いかける。
すると
あとは俺の返答次第、そんな状況の中で。
勢いは大切だ。でも流されるのは違う。
もしかすると今彼女は俺に同情しているだけかもしれないし。それに今後もし別れたとして、嫌でも仕事場で顔を合わさざるを得ないわけで。
気軽に付き合ってみようとは言えない。
ただ、四条さんと一緒にいられたなら幸せだろうと、そう思ってる自分がいるのも否定できないどころか——。
「
▽▲
「えっ!!? それほんとなの??!」
週明け、始業前のデザイン開発室に
自分でも嘘のような話なのだ。彼が驚くのも無理はない。
ただ、今となっては危険因子と化したこの人にだけは話しておかないと後々面倒なことになるだろうと思い、正直に話すことにしたのだが。
「ちょっと
「ごめんごめん。でも悪いけど、そりゃ驚くってもんでしょうよ? まさか『なっちゃんとどうだった?』って話を振ったら『聖女様と付き合いました』なんて返し、誰が想像するわけ?」
「まあ……、そうでしょうね」
よほど収まらないんだろう。
「へー」とか「はー」とか呟きながら何やらひとり納得し何度も頷く
「でもなによ、その期間限定って?」
そう。あの夜、
もちろん
「何に気を遣ったのか知らないけど大人ってのはねぇ、別れた後も表面上だけはきっちりと割り切れるもんなの。しかも三ヶ月ってあんた、試用期間じゃないんだから」
でも俺はともかく純粋で真面目な
だからやっぱりこれで良かったのだと今でもそう強く思う。
そんな感じ、依然として驚きの覚めやらぬ
同時に気付いた
一方の俺は軽く溜息を
始業前。おそらく業務上の用件はないはず。
設けた三ヶ月ルール然り、不用意に接触すると他の社員から余計な詮索を受けかねないんだけどな。
とはいえ、まだ付き合いたて早々の大切な彼女なのだ。
俺はドアを開けるとさっと廊下に目を配る。
こういう時、
部屋の入り口付近で話している分には誰からも怪しまれないだろう。
じっと見つめてくる彼女に用件はなんですか? と、そんな目を向ける。
すると嬉しそうにニコッと微笑み「会いに来ちゃいました」と
「会いに来ちゃいましたって……。帰ったらまた会えるじゃないですか」
「分かってます……。でも、ひと目だけでも
頬を染めながら存在感抜群の大きな目でちろっと上目遣いをされ、バクっと跳ねる心臓。まるで胸の奥の方を何かに掴まれたような破壊力だ。
若くして心筋梗塞になる人もいるというが、こういった事例だってあるんじゃないだろうか。
と、胸を押さえる俺に不思議そうな眼を向ける
「忙しいところすみませんでした。おかげさまで今日も頑張れそうです」
こと職場においては誰に対しても恋愛感情を押し殺してきたつもりだが、自分の彼女だと思うだけでこうも
「もちろん僕も同じです。でも今日はもう仕事の用以外ではここに来ないようお願いしますね?」
「……分かりました。あっ、お話してた通り今晩は私が夕食を作りますね。頑張りますので、楽しみにしていてください」
「分かりました。また仕事が終わったら連絡します」
お互いにニコッと微笑み合って。
嬉しそうな
多分こんなのが続いたら、
色んな意味でもたないだろうなと。
(1章了)
********************
初めましての方は初めまして。若菜未来と申します。
キリのいいところであとがきを。
というところで突然現れてしまいすみません。
エピローグまでお付き合いいただきましてありがとうございます。
ここまでの3週間近く、ほぼ毎日投稿を頑張れたのは沢山の応援をいただけたからに他なりません。本当にありがとうございました。
実はこの物語、元々は3万字弱の短編として考えていた一つの作品です。
そういった面から「留まることなく完結まで」という流れになっており、一方でタイトルや副題から
ですので、いま「続きが楽しみだ」と、そう思っていただけているのならすごく嬉しいことです。
このタイミングでの評価がどうなるか、というところではありますがもう少し続けるつもりです。
以降は短話、若しくは数話で1エピソードの形を取るつもりでして。
先々を気にすることなく各エピソードを楽しんでいただければいいなと思っています。
長くなりましたので逃げるようにこの辺で。
また近々、いずれかの作品でお会い出来ることを楽しみにしています。
若菜 未来
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