第12話 私は遠賀さんと
「……なんでお前が」
まさに青天の霹靂。
宅配業者だと思って出たらまさかの
別れて二ヶ月振りのその姿、見間違いようもない。
同時に脳裏では男と楽し気に歩いていた姿を思い出し。妙な感情が胸を搔き乱すも、かといって悠長にしてはいられない。
俺は不安げな
まさかこのタイミングで。
少しだけ開かれたドアから入り込む冷気がまるで場を冷やすかのような空気感の中、先に口を開いたのは
「インターフォンも鳴らさずに悪かったわね。偶然、配送業者がいて。それにまさか誰かと一緒だなんて思ってなかったのよ……」
エントランスのセキュリティを抜けるタイミングが重なったんだろう。
その口調は自身の
そんな中、彼女の手元がきらりと光る。
手に持つのはどうやら合鍵のようだ。
視線に気付いた
「返してなかったのを思い出して。返しに来たの」
俺が
「荷物、纏めてくれたんだ」
少しだけ寂し気な物言い。
なんでお前がそんな顔……。
「鍵、なんでわざわざ。送ってくれば良かったのに」
もう長い付き合いだ。多分、
ただ用件がなんなのかはともかく、少なくともあんな場面を見てしまった俺からすれば、こと
これまでも何度か別れては戻りを繰り返してきた俺たち。
だけどそれはあくまで頭を冷やすためだったり、少し距離をとるための別れであって、少なくとも今回みたいに他の相手を求めてのことじゃなかった。
だから、今回は今までとは決定的に違う別れで。
それにタイミングも悪かった。
未だ不安げな表情を浮かべる
「分かるだろう。大切なお客さんなんだ」
用件が済んだなら早く帰ってくれ。
暗にそのこと告げると
その表情にはなぜか悔しさのようなものが浮かんでいる様に映った。
「
お前がそれを言うのかよっ——。
瞬間的に吹き上がる怒りと同時に、お前と一緒にするな。そんな言葉が口を突いて出かけた。
だけど抑えろ。少なくとも
「帰れよ」
出会ってから十年とちょっと。
努めて冷静に吐き出したその言葉は、多分今までで一番冷えた声だったと思う。
「……荷物、いつでもうちに送ってくれていいから」
その話しぶりに俺も理解する。
つまり、もう付き合ってた男と別れたってことなんだろう。
でも……。もう終わったことだ。
今後、
そんな確信染みた何かを抱きながら彼女の背中を見送る。
そして
「撤回してください——」
突如、背後から呟かれた声。背を向けドアを閉じようとした
すると
怒り、だろうか?
「……別れる前からだなんて、
「
同時に声を挙げる俺と
「
話し始めた
「あなたはきっと
「
目を
一方、突如守勢に回る羽目となった
一瞬俺に助けを求めようとするも早々に無理だと理解し、なんとか声を出すのがやっとという様子。
「な、なによ……。というかっ、そもそも急に割り込んで来て分かった
関係を訊ねられた四条さんは「私は……」と一瞬視線を彷徨わせながら俯く。
「私は……
……今は? と、いうかでもって?
いったい何を言おうっていうんだ。
そんな、次に彼女が吐き出す言葉が何なのか想像もつかない中、
まるで何かを決意したように目線を上げた
そしてきっと俺にも向けて、
到底信じられるはずの無い言葉を告げたのだった。
「でも、私は……」
「いつかっ……、いつか
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます