第2話

 転職組、しかもまだ入って半年にも満たない俺なんかよりずっと先輩ではあるが、よわい6つほど下の彼女を見ていると自分がオッサンに思えて仕方がない。


 まあ実際そうなんだけれど。


「大丈夫ですよ。良かったらお掛けになってお待ちください」


 近くにあった手ごろな椅子に着席を勧めると素直に腰を下ろす四条よじょうさん。


 一方の俺は出来立てほやほやのモックをプリンターから取り出し、表面に磨き加工を施してゆく。

 というのも今回は時間制約があるなかスピード優先で製作したため、積層面が少々荒いのだ。


「ほんとにごめんなさい。私のせいで無駄な作業をさせてしまって」


「いえ。不特定多数が触れる試作品ですから、逆に壊れるくらい触ってもらえてありがたいですよ」


「そう言っていただけると救われます……。でも、すごいですね」


「何がですか?」


 言葉の意味が分からず作業台で首を傾げると、四条よじょうさんは俺の手元に向け存在感抜群のくっきりとした二重の目を向けてくる。


遠賀おがさんの手際てぎわがです。たしか、以前は大手に勤めてらっしゃったんですよね?」


「まあ、はい。大手と言っていいのかはさておきですが」


 瞬時に地獄(煉獄?)の日々が脳内を駆け巡る。

 たしかにあそこで鍛えられたのは間違いない。だが少なくとも礼は言いたくない。その程度にはブラックな会社だった。


 などと談笑している内に粒度りゅうどの細かなサンドペーパーで最後の仕上げを済ませ、俺は掌に乗せた長手15センチほどの試作品モックを彼女の前に差し出す。


「いかがでしょうか?」


「すごいっ。ピカピカです!!」


 受け取るとそれはもう嬉しそうにはしゃぐ四条よじょうさんである。彼女の笑顔を見ているとこちらの頬も自然と緩むというものだ。


「と、時間。急がないといけないんじゃ」


 たしかプレゼン会議は16時からだったか。今回プレゼンターである彼女は資料など事前準備も必要なはずだ。


「本当にありがとうございました。この御礼は必ず」


 大切そうにモックを抱えながら改めて丁寧に腰を折る彼女に向け、俺は首を横に振る。


「仕事ですから御礼なんて。それよりも評価につながりますので、今後も沢山ご依頼いただけると嬉しいです」


「なるほど。じゃあ『遠賀おがさんはすごい』って、課の皆に言い触らすことにしますね」


 そう言うと冗談めかして微笑む四条よじょうさん。


 こちらも「是非そうしてください」と軽く笑顔を返し、もう一度腰を折り今度こそ退室した彼女の背中を廊下で見送ると振り返った。

 

 予想した通り、そこに立っていたのは身長こそ俺同様に一般的な尺であるものの、やたらと体躯の良いシルエット。


「やっぱりいたんですね、アキさん」


「あら、バレてたの?」


 悪びれもぜず首を竦める彼(彼女?)こそは我がデザイン開発室の室長、つまり俺の上司である。


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