第5話
「綺麗にしてもらえると嬉しいよね」
そう言ってプリンターの
その愛らしい姿は癒し以外の何ものでもなく、正直いつまでも見ていられそうであるが——。
残念ながらそろそろ切り上げなきゃならない。
というのも、納期の近い
少々の名残惜しさを感じながらデスクに戻りPCの電源を落とした俺は、よっとリュックを片方の肩に掛けると先に出入口へと向かう。
「機能試作の詳細が纏まったらまた教えてください。あと、次のステージからは室長が担当することになると思います」
「え。担当、
「ええ、多分そうなるかと。でも本気で商品化を目指すなら室長に預けた方が安心ですよ。あの人、こと設計に関しては本当に凄いので」
「そうですか……。って、長々とごめんなさい。私が居たら鍵、閉められませんよね」
慌ててこちらに向かってくると、
すれ違いざま、もう定時を過ぎているというのにまだ艶やかな髪がサラサラと揺れ、仄かに甘い香りが鼻先をくすぐった。
未だ白い息こそ見えないものの、十二月に差し掛かろうという空は既に夜の匂いを漂わせていた。
本当、日が落ちるのも早くなったものだ。
「さて、どこで片付けるかな」
さすがに副業を社内でなんてことは
静かに腰を置けるいい
前職では禁止されていた副業。というかそもそもそんな時間なんて無かった。
でも今、業務終了後の俺はある意味社長だ。
飲食費は必要経費として——。
「今日はダトールにしとくか」
いつの時代も経費削減、利益率優先だ。
▲▽
翌朝、寝不足の眼を擦りながらマンション自室のドアを開けると丁度お隣さんと鉢合わせた。
そう言えば、いつの間にこの年代の女子を女の子だなんて思うようになったんだろうな。などと考えながら。
「どうも。おはようございます」
軽く頭を下げるとお隣さんも「おはようございます」と涼やかに返してくれる。
どうやらゴミ出しを終えたばかりらしく、まだ部屋着のようだ。
ちなみに引っ越してきてから半年ほど。
引っ越しの挨拶を除けば何度か顔を合わせたことがあるだけで、面と向かってちゃんと話したことは一度もない。
もちろん今日も例に漏れず。
そう思い挨拶もほどほど戸締りをしていると「あのぉ」と珍しく声を掛けられた。
振り向くと、迷いながらといった
「いえ、大したことじゃないんです。ただ、お知らせしといた方がいいのかなぁと思いまして」
「お知らせ、ですか?」
意図が掴めず小首を傾げる俺に彼女は頷いてみせる。
「もしかするとお気付きかも知れませんけど。実は
「ああ。そういえば引っ越し業者さんが来てましたよね」
「そうそう、それです」
日曜だったか。
あの日もしかして
なるほど、同居人が入居してきたってことなら納得というものだ。
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