第2話 沢山頑張ってくれたんだね
前職でも上司だった彼は
俺をこの会社に誘ってくれた恩人でもある。
センター分けのボブカット、
ちなみに顎髭ほか頭髪以外のあらゆる部位は永久脱毛済み。一応本人曰く
まあ、それはともかく。
「実はずっといたんでしょう。どうして入って来なかったんですか?」
「だってぇ。あの聖女様と二人きりになるチャンスよ? 邪魔しちゃ悪いじゃない」
「ですからそういう気遣いは無用ですって、前から言ってるじゃないですか。というか……、そもそもさっきふらっと出ていったのも——」
俺の言葉に
この顔、確信犯だな。
ほんと、この人は。
俺が別れたと知るや、やたらと
「まあまあ、そんなに怒らないでよ。私だって罪悪感を感じてるんだから」
ドリップコーヒーにお湯を注ぎ終えた
「だって
「偶然タイミングが重なっただけですよ。そもそも振られたのは俺の至らなさが原因ですし、少なくとも
「そうは言うけど、やっぱりねぇ。あっ、話は変わるけど今週だったわよね? なっちゃんとの食事」
なっちゃん。
秘書課の
この前、偶然
「だから、どうしてそんなに嬉しそうなんですか……。それと勘違いしないでください。彼女とはただ
「それはどうかしらねぇ。どんな理由にせよ、なっちゃんが誰かを誘うってだけでも珍しいことだし。あ、待って。つまりもう本命は
「だから
「ま、それはそうと。今日、定時までは待ったげなさいよ? あの律儀な
「それは俺も思ってました。というか、その時
▽▲
——「こう見えて室長って何かと忙しいのよ。じゃ、今日は戸締り宜しくね」
そう言ってまたふらりと出て行ってしまった
残された俺は本日の業務を終えた3Dプリンターの手入れをしつつ、壁掛けの時計を見遣る。
もうすぐ定時だ。
さすがにそろそろ会議も終わっている頃合いだろう。
などと考えていると、廊下からこちらを覗く人影に気が付いた。
予想した通り
ほんとになんというか、礼を欠かさない律儀な人である。
と、少し開かれたドアの隙間からちょこっと顔を出す
「すみません、定時間際に」
入室した
「大丈夫ですよ。それよりプレゼンのほうはどうだったんですか?」
少々緊張の面持ちで訊ねると彼女はこくりと頷き、その
つまり望むべき結果を得たのだろう。
「おかげさまで。機能試作に進めることになりまして」
「そうですか。それは良かったですね」
機能試作に進む。それは次ステージに向け、一定の予算が下りたことを意味する。
「はいっ。といっても商品化にはまだまだ遠いですけど。でもほんとに、
今朝始業早々、
正直あの時はこっちも焦った。
時間制限有り、一発勝負の
「礼なら
「そっか、今日は君が沢山頑張ってくれたんだもんね。ほんとにありがとう」
御礼の言葉を口にしながら、慈愛に満ちた優し気な眼差しをプリンターにへと向ける
なるほど、たしかにその姿は聖女様と重ならなくもない。
そんなある種感心の想いで眺めていると、今度は不思議そうな眼をこちらに向けてくる彼女に気が付いた。
「どうかしましたか?」
「いえ。この子、男の子なんだなぁと思って」
「え……」
そういえば。
たしかに俺、さっきプリンターをこいつとか彼とか呼んでたか。
どうしてそんな風に言ったんだろう……。
自分でも不可思議に思い小首を傾げていると
「無意識だったんですね。でも、それって
「まあ……そうかもです。実はこいつ、前職で使ってた
「だからかぁ。実は私、
「え。そんな風に見てたんですか?!」
不意を突かれ慌てる俺を見て
ほんと油断も隙も無いとはこのことだな。小まめに掃除してて良かった。
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