第6話 告白

 夕方、僕たちは練習場へ到着。


 正直、彼女に合わせる顔もないが、結果を報告すると伝えてしまったため、行くしかない。

 今は調子に乗った自分を殴ってやりたい気分だが、これも自業自得というもの。


 すでに入口は目の前。


 受付にはいつものように爽やかな笑顔で接客する海未さんがいて、和んでしまうと同時に不安も押し寄せてくる。


 熊谷も気を使って「大丈夫だ」と言ってくれるが、元々の僕は臆病者だ。

 どんな顔して彼女に会えばいいかわからないし、声に出す自信もない。


 けれど、全て僕の思い込みだった。


 僕を見た海未さんは楽しそうに話しかけてきて「どうでした? 上手くいきましたか?」と優しく声を掛けてくれる。


「ダ、ダメでした。135も叩いてしまいました」


 僕が恐る恐る答えると「あら、それならいっぱい練習できたんですね。良かったです」と、それはもう優し気な笑顔で答えてくれるから、僕も楽しくなってしまった。


「そうなんです。ゴルフ場の芝は練習場のマットと違って、すごく難しかったです。でも、今回経験できてわかったので、次はいいスコアーが出せると思いますよ」


 まさか僕が、こんなお調子者だとは思わなかった。

 本音を言えば、もうゴルフを辞めようかぐらいに思っていたのに、これだ。


「そうですね。翠川さんはいっぱい練習をなさっていましたから、大丈夫。次も楽しみにしてますね」


 そう笑顔の彼女に言われたことで、僕は変な勘違いをした。

 というか、してしまった。

 練習する姿を見てくれていたかと思うと、嬉しくなってしまって……。


「はい! もっといっぱい練習して上手くなったら……」


 あれ、僕は何を言おうとしているんだ?

 でも止まらない。


「上手くなったら?」


「僕とお付き合いしていただけませんか?」


「えっ?」


「あなたが好きなんです!」


 ……言ってしまった。

 というか、上手くなったらとかどこいった。

 もう完全に告白じゃん。

 舞い上がりすぎだろう。


 でも、彼女は本気で受け止めていないようで……。


「うふふ、翠川さんって、面白い方なんですね。お付き合いはできませんけど、そうですね。誉めてあげることは出来ますよ」


 と、うまく躱されてしまった。


 今思えば、それも彼女の優しさだったのだろう。


 僕も冗談で済ますことができたら良かったのだけど……


「そうですか……」


 と、わかりやすく落ち込んでしまった。


 そんな姿を見兼ねた熊谷が、僕を外へと誘う。


「翠川、一回頭を冷やせ。すみません、ウミさん。こいつ今日の内容が悪すぎてどうかしてたんです。ちょっと、目を覚まさせるので、これで失礼します」


「あ、はい。またいらしてくださいね」


「わかりました」



 こうして熊谷に連れられて練習場の外へ出た僕だったが、もう涙が止まらなかった。

 自分勝手な暴走で失恋したのだから当然と言えば当然だが、もうここにはこれないということが一番つらい。


「だから言っただろう。彼女には惚れるなって」


「うん……」


 そう責められても、僕に考えられる思考は無かった。

 彼もそれを察してか、慰めてくれるらしい。


「俺がはっきりと言わなかったせいでもあるが、もうここへ来れないなんて思う必要は無いぞ」


「ど、どうして……? 僕は、彼女にあんなことを言ってしまったのに……」


 そう、それが一番ショックだった。

 いくら舞い上がっていたからといって、あれは無いだろうと自分でも思う。


 ただ、そのあと熊谷の言った言葉が、心に刺さる。


「目が曇ってたんだよ。おまえ」


「…………」


「恋は盲目っていうだろう。人は恋をすると、周りが見えなくなるんだ」


 ああ、そうかも。

 確かに僕の目には海未さんしか映っていなかった。


「そうだね」


 彼の言葉で少しずつ落ち着いてきた僕は、ようやく自分を見つめ直すことができ始めていた。


 けど……、その続きは更に衝撃だった。


「だがな、それは彼女も同じだ」


「えっ、おまえ何言って……」


 そう、僕はずっと彼女を見ていたつもりだったけど、全く見ていなかったことに気づかされたんだ。





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