第5話 初ラウンドの結果
あれからひと月が経ち、僕は毎日のように練習場へ通っていた。
熊谷がやり過ぎは良くないというので練習は一日五十球と決め、受付にある休憩スペースでゴルフ雑誌を読んだりして過ごす日々。
土日に行われるゴルフ中継もテレビで見るようになったし、時間があれば熊谷も練習に来て教えてくれるので、僕の腕はグングン上達していると思っていた。
今なら、とてつもないスコアーが出せるんじゃないか。
そう勘違いするほど自信もついていたが、それを言うと熊谷から「そんなわけあるか!」と、突っ込まれたりもした。
でも、楽しい。
ここで海未さんに会えるってのもだけど、僕は日々上達していく自分に酔っていた。
まさか、これほどまでに嵌まるなんて思っていなかったし、もっと早くからやっていればと後悔したりもした。
けれど、僕が現実に気付くまで、あとわずか。
この三日後の日曜日、僕はコースデビューを果たすのだ。
ゴルフなんて簡単じゃん。
なんて思っていた僕が叩きのめされる。
そんな日がもう間近に迫っていた。
迎えた当日。
場所は料金が安いという理由から、車で1時間くらい走ったところにあるゴルフ場だ。
日曜日でもプレー代は一万三千円で済み、食事込みでも一万五千円でおつりがくるというのだから、やはり安いのだろう。
僕が調べたところでは、二万円なんてところもザラにあった。
入社二年目の僕にはその金額でも安くないというのが本音だが、これもゴルフをするため仕方ない出費と諦めよう。
とにかくコースへ出ることが大事だ。
そんな強気の僕だったが、いざコースへ出てみると、散々な結果が待っていた。
スタートホールでまずは空振り。
最近では全く無かったのに、いきなりこれだ。
理由は緊張して身体が硬くなっていたから。
「落ち着け、翠川。練習場を思い出すんだ」
熊谷がアドバイスしてくれるけど、僕の耳には入ってこない。
これがテンパるってことなんだと、あとから知った。
その後も、ようやく前に飛ばした打球はゴロ。
次もゴロ、それもダフってのゴロ。
ゴロしか出ない。
理由は簡単。
ここは練習場のマットではなく、芝生の上だ。
多少ミスをしてもマットで滑ってボールにヒットしてくれる練習場と違い、芝生の上では地面に刺さるだけである。
おまけに地面は右足下がりに左足下がり、つま先上がりにつま先下がりと多種多様。
熊谷が言うには、傾斜地それぞれに打ち方があるらしく、今日はそれを教えるつもりだったようだが、もうそれどころではない。
変に自信があっただけに、上手くいかなさ過ぎてパニックを起こした僕のゴルフは、散々だった。
前半ハーフを終えてのスコアーが72。
ハーフのパーが36だから、単純に2倍の回数を打ったことになる。
酷すぎだ。
それでも昼食を摂って少し落ち着いた僕は、慣れもあってか後半のスコアーを63と少し持ち直したが、トータル135と初ラウンドを散々な内容で終えたのだった。
ちなみに、一緒にプレーした熊谷のスコアーは78の6オーバー。
自称シングルプレイヤーというのも嘘ではなかったようだ。
この後、結果を海未さんに報告しなければならないが、どう言ったらいいんだろう。
僕は行きと違って憂鬱な面持ちで、練習場へ向かうのだった。
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