第4話 彼女の魅力
僕たちは持ってきた百球を打ち終えたので、今日は練習を辞めて帰ることにする。
始めた時と同じように、今度は整理運動をしてから受付のある部屋へと戻ってきた。
受付では他のお客さんの相手をしている彼女がいて、それを羨ましく思ってしまう僕が残念なところだけど、どうしても一声掛けたくて待っていると、向こうから声を掛けてくれた。
「お疲れ様です。どうでしたか。楽しめました?」
その爽やかな笑顔に癒され、さっき迄の卑しい気持ちがスーッと抜けていくのを感じる。
どうやら僕は完全に恋をしているらしく、もはや止められる自信は無い。
今も声を掛けられて、舞い上がっているみたいだ。
「は、はい、最初は難しいって思いましたけど、熊谷のアドバイスが効いたのか、少しずつだけど当たるようになりました。まだまだ練習が必要ですが、ゴルフって上手く打てるとすっごく気持ちいいんですね。ちょっと、嵌まりそうです」
僕も練習で満足な成果があったことで、自信もついていたんだろう。
自分で思っている以上に饒舌だった。
けれど、それを見ていた熊谷が呆れた様子で口を挟む。
「何言ってんだ。俺があんだけ誘っても来なかったくせに」
まあ、それもごもっとも。
「僕も、もっと早く来ればよかったと反省しております」
だからそう言っておどけて見せたのだけど、それを聞いた熊谷からは、まさかの発言があった。
「そうか、ならいいが……。
「そうね、それは失敗だったわね」
「やっぱ、そう思うでしょう」
「…………」
えっ、えっ、えっ、今、熊谷のヤツなんて言った。
ウミさんって、もしかして彼女の名前?
くっそ、あいつ彼女を名前で呼んでいるのかよ!
僕が困惑していると、それに気づいた海未さんが話しかけてきた。
「あれ、どうかしました?」
「あ、いや……、熊谷があなたを名前で呼んでたから気になって……」
僕にはそれがショックだった。
もしかして、そんな親しい間柄だったのかと若干へこんでいると、彼女には自然なことらしく、理由も教えてくれる。
「うふふ、実はですね。私の名前、
天使だ……。
いや、そういう事じゃなくて。
「なら、僕も名前で呼んでもいいんですか?」
自分でも驚いたことに、珍しくグイグイ行く。
なんか、この機を逃したら終わりのような気がしていたからか、止まりそうにない。
でも、彼女は快く返事をしてくれた。
「ええ、構いませんよ。もう、名字で呼ぶ人なんて全くいませんからね」
やっぱり天使だ。
「ありがとうございます、海未さん」
「うふふ、さっそくですね」
「すみません……」
この時の僕は、有頂天になっていたんだと思う。
今日会ったばかりの人と、こんなに親しくなれることなんて、今までになかった。
あとから思えば、それが彼女の接客術だということもわかるが、まだ若い僕には早すぎた出会いだったんだろう。
すっかり海未さんに夢中になってしまった僕は、熊谷に借りる予定だったゴルフ道具セット一式を自腹で買ってしまい、ここへ通い始めることとなる。
総額で10万円を超す大きな買い物だったが、この時の僕に後悔は無かった。
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