第2話 もし、上手くなれたとしたら……
僕が初めての来場と知った彼女は、ここの利用方法を丁寧に説明してくれる。
「ここが受付です。来場の際には一声お掛けくださると助かります。それから貸し出し用のボールですが、打席側に専用の装置がございます。球数は五十球か百球のどちらかを選んでいただく形で、利用は現金のみ。五百円玉か、千円札での対応となりまして、隣に置いてある籠をボール排出口に設置してから投入願います。
あと、打席で使うボールですが、ここの練習場では専用のレンジボールを使用しておりますので、それ以外の利用はお断りしております。ボールを貸し出す装置が壊れる恐れがありますので、どうかご遠慮ください。
と、こんなところですかね。
もし、わからないことがありましたら、お気軽にお尋ねくださいね。以上です」
僕はその透き通るような声に聞き惚れていて、説明が終わったことに気付かず、熊谷に腕を小突かれて我に返る。
「あ、は、はい。ありがとうございましゅ」
うわっ、噛んだ。
恥ずかしい……。
「うふふ、では、ごゆっくり」
「はい……」
たぶん、めっちゃ笑われたと思う。
隣で熊谷も笑っている気がするけど、無視だ無視。
でも、あんな可愛い子がゴルフ練習場で働いているなんて驚きだった。
もしかして、ゴルフって人気のあるスポーツなのかな?
僕がそんな事を考えていると、熊谷が「おいっ、彼女に惚れるなよ」とか、言ってきた。
「な、な、な、なんのこと?」
僕は動揺丸出しで応えてしまうが、否定できないあたりが残念なところだ。
「そう、それだ。わかり易すぎるぞ!」
「うっ……」
「でも、まあなんだ。ここへ来たいって動機になるんなら俺も歓迎だが、彼女はここのアイドルだからな。抜け駆けしようもんなら、どうなるかわからないぜ。ちなみに、俺もファンの一人だ」
「だろうね……」
流石にあの子が、僕に振り向いてくれるとは思えない。
ここで働いているくらいだからゴルフが好きなんだろうけど、僕は全くの素人だ。
でも……、もし上手くなれたとしたら、どんな反応をしてくれるのだろう。
『頑張ったね』
って、褒めてくれるだろうか。
「おっ、やる気になったみたいだな」
「なっ……」
熊谷にそう突っ込まれ、僕は焦る。
「ほんと、バレバレなんだよ、翠川は」
呆れたようにそう呟いた彼は、「さあ、行くぞ」と、打席側へ入って行く。
僕はちょっと後ろ髪引かれつつもその後へ続き、二打席並んで打てるところを探す。
ここの練習場にはチャージ式の会員証やプリペイドカードによるボール自動設置装置がついていないため、先にボールを取りに行くと、空いている打席が無くなるそうだ。
僕はゴルフ練習場へ来るのが初めてなのでイマイチよくわからなかったが、そういうものだと捉えておく。
すると、一番右の端が二つ空いていた。
「おっ、丁度いい。あれならシャンクしても迷惑かけないから、大丈夫だろう」
熊谷が聞きなれない言葉を話す。
たぶん専門用語だと思うが、説明が無いから聞き流していいヤツなんだろう。
それよりも、どうやって打席を確保するんだ?
僕が疑問に思っていると、熊谷は自分用の打席後方へゴルフバックを置き、僕の使う予定の打席にはゴルフバッグから取り出したクラブを、打席の後方に設置された休憩用の椅子へ並べた。
これで使用中ですよと、他のお客さんへの目印になるようだ。
覚えておこう。
僕たちは二人分の打席を確保し、近場にある貸し出し用のボールを取りに行った。
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