ゴルフへ行こうぜ!

かわなお

第1話 僕好みの女性

 あれは僕・翠川みどりかわ誠也せいや(23歳)が社会人となり、二年目を迎えた頃のことだった。


 この春から同僚となった熊谷くまたに公生きみお(23歳)は、自称シングルプレーヤーを名乗るほどのゴルフ好きだ。

 僕はゴルフ経験などなく、知っているプロ選手もほとんどいない全くの素人。


 そんな二人に接点などあるはずも無いのに、何故か熊谷はよく僕をゴルフに誘ってくる。


「なあ、一度でいいから行ってみようぜ。絶対に面白いからさ。後悔させないって」


 どうして彼がそこまで執拗に誘ってくるのかわからないけど、どうやら諦める気はないらしい。


 僕もいい加減に断るのもめんどくさくなってきたので「じゃあ、一度だけ」と、つい返事をしてしまった。


 すると、わかりやすく目を輝かせた熊谷は、さっそくとばかりに話を進める。


「よっしゃー! なら、まずは練習場からだな。俺、いいとこ知ってんだ。ゴルフクラブは俺が昔に使ってたやつを今度貸すから、とりあえず今日行こうぜ!」


「う、うん……」


 その行動の早さに、僕はすぐ後悔した。 

 今日の仕事終わりに近場の練習場へ寄ることとなり、残りの時間、僕は憂鬱な時を過ごすはめとなる。


 PM5時。

 就業の時刻だ。


 僕と熊谷は同じ部署のため、逃げることもできない。

 楽しそうに「さあ、いこうぜ」と誘ってくる彼に、僕は半ば強引に連れていかれた。


 向かった先は、職場から車で15分くらいの所にある、ちょっと古めかしいゴルフ練習場。

 遠目から見ても練習場のネットが目立つため僕も存在を知っていたが、ゴルフと全く縁のなかったこともあって、前を通ったことはあっても、中に入ったことは無い。


 駐車場へ車を止めてゴルフバックを取り出した熊谷が、僕を先導するかのように入口へ向かう。


 その姿が何処か得意気に見えるのは、気のせいか。


 彼が自称シングルプレイヤーというのもあるだろうが、何かが違う気がする。


 そう思っていると、理由はすぐに分かった。


「こんにちわ」


「あら、いらっしゃい、熊谷さん。今日はお友達も御一緒?」


「はい! 職場の同僚なんですけど、誘ってきました。全くの素人みたいなんで、よろしくお願いします」


 熊谷が会話する女性は、どうやらここの受付担当の方らしい。

 見た感じは高校生くらいで幼いが、働いているのだから二十歳はたち前後なのだろう。

 爽やかな笑顔が印象的で、容姿も僕好みでドキッとした。


 彼女が、熊谷と会話しながら、僕を見る。


「まあ、ありがとうございます。お連れさんはゴルフ未経験なんですって? では、初めての御来場ですよね」

 

「は、はい」


「それでしたら、まずはご案内からさせていただきますね」


「お、お願いします」


 この時の僕は、どんな顔をしていただろう。

 隣で熊谷がニヤニヤしていたから、なんとなくは想像できる。


 たぶん、こいつには見られたくない顔をしていたんだろうなと思うと、恥ずかしくもあるが……。

 でも、彼が誘った理由の一つがこれなんだろう。


 彼女の可愛らしい横顔を眺めながら、僕はぼんやりとそんなことを考えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る